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第11話 愛娘を前に暴走する公爵

 悪夢ならば覚めてくれ。足下がぐらつく感覚を覚えながら、オレは頭を抱える。


 まさか、親父がこの学園の先生。それもオレの担任になっているなんて。いったいどうやったら、そんなことが可能なんだ。親父はこんな豚に見えても公爵で仕事がたくさんあるだろうに…


「お父様。冗談はいい加減にしてください! 貴族の矜持はどうしたのですか!! 自らの領地の民はどうするのですか!!」


 オレは声を荒げてそう言った。親父よ。おまえは腐っても領主だろ。きちんと領地を運営してこいよ。


「…リリアちゃんの言いたい事はわかる。こんなところで遊んでいる場合ではないと言いたいだろ?」


 豚のような顔を歪めて、渋めの声でそう応じる。どうやら、いつもの冷静な領主としての側面がでてきたようだ。オレはホッとして、一息ついた。


「お父様、わかってくださいましたか!」


「もちろんだとも、貴族の矜持だろ?」


 そう、その矜持だ。親父が前に言っていただろう。オレは大貴族だが、民に感謝し、領民達と共に生きていく。そんな領主でありたいと…


 オレはそんな事を言う親父という人間をすごいと思った。貴族が腐敗するのが普通な時代にそんな気骨あることを言う男がいることに。


「お父様」


「それはもちろん愛する民。いや、愛する娘を見守る事こそ。貴族、いや、人としての勤め」


 そう、そう。そうだよな。民のため。愛する娘のため。


 …うん? 何かおかしいぞ。愛する娘だと。


「そう、愛する娘のためならば、どんなことも許される。民も、娘を放置する公爵などにはついてきはすまい。娘を教え導ける領主こそ。民は喜ぶであろう。だから、娘の担任をやっていても問題はあるまい」


 そんな論理を聞いた事ないぞ。どんな論理だよ。それよりも、民から言わせると公爵の娘よりも、自らの生活を豊かにしてくれた方が嬉しいだろう。オレのことはどうでも良いから領地に帰れよ。


「お父様。帰りましょう。領民が待っています」


 オレは親父を汚物を見るような目で見てしまう。オレから言わせると領民を捨てて、娘1人と取るなど、領主として、失格だろう。


「いや、いや、帰りましょうではないでしょ。リリアちゃん。お父様はリリアちゃんの担任なんだよ?」


 いや、ないから!? それはありえないでしょ? さっさと帰れよ。バカ親父。


「リリアちゃん、そんな目で睨まないでよ! お父様、泣いちゃうよ。せっかく、リリアちゃんの担任をやっていいと学園長から許可を貰ったんだから!! 担任の先生をやるんだからね!!」


 親父は早口でそんなことを捲し立てる。親父は何を言っているんだろう。領地経営を放り投げて、学園の担任などやっていたら、帝国が領地を取り上げる可能性もあるのにな…


「あら、あら? あなたは権力を盾になにをやっていらっしゃるの?」


「お母様」


 母よ、いつの間に親父の後ろを取っているのだ。まったくと言って良い程に気が付かなかったぞ。オレが驚いていると親父の首がゆっくりと母がいる方を向いていく。


「ソ、ソフィア!? 帰ったんじゃなかったのかい?」


 母は和やかに笑いながら、親父の頭を片手で握る。


「皆様、主人がご迷惑をかけました」


「い、痛い! 痛いよ。ソフィア!!」


 親父は痛みから逃れるために手をジタバタと動かすが、母の握力が凄まじいのか親父の頭から母の手が離れない。


「リリアちゃん。た、助け…」


 救いを求めるように親父がオレを見てきた。御愁傷様。親父……


「さ、帰りますよ?」


 親父に向けて口元が微笑んでいる。だが、母の目がまったく笑っていない事にオレは気が付いている。


「イヤだ。リリアちゃんの担任…。い、痛い! 痛い!!」


「帰りますわよ? 皆様、お騒がせしました。またね、リリアーヌ」


 母はオレに微笑んだ後、父を引きずりながら、教室から出て行った。


「り、リリアちゃんの担任はこのバンハウト・フォン・ヴェルトハイム・フロイデンベルク公爵だ!! …ソフィア、やめて!! あ〜〜〜!!」


 扉の向こうから親父の叫び声が聞こえてきたような気がするがきっと気のせいだろう。早く担任の先生が来ないかなとオレは思いながら席につくのであった。

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