第10話 担任の先生?
親父がトレニア学園の教室にいた。金で刺繍がある黒を貴重とした服、白髪のような銀髪、似合いもしない金ピカの腕輪を丸太みたいな太い腕。
まるで、絵本に出てくる悪徳貴族。そのモノの姿形をした豚貴族がそこにいた。それも床に倒れた姿で…
オレが殴ったから親父は床に倒れているんだけどね。ああ、それにしても、ヤバい。親父を殴ってしまった。親父が倒れて起き上がらないんだけど。死んでないよな?
「お父様、大丈夫ですか? お父様」
オレが不安になり、親父に駆け寄る。そして、彼の身体を揺する。すると親父が突如として起き上がり、抱きついてきた。
「リリアちゃん。お父様に会えても、そんなに照れなくても良いんだよ? 相変わらず、リリアちゃんは照れ屋だな」
…絶句。オレの今の気持ちをあらわすとするならばそんな言葉だろう。オレは余りのことに何も言えない。その隙をついて親父は頬を擦り付けてきた。く、髭ぐらい整えろよ。親父の無精髭がジョリジョリとオレの頬を削り取るようで痛い。
「離れてください。お父様…」
オレは力任せに親父を引き離す。彼に文句を言うために発言を続けようとしたが、
「先生、そろそろ、ガイダンスをはじめてくれませんか?」
そんなオレの発言を遮るように勝ち気そうな少女が席を立って、そう言ってきた。
悪い悪いねと言った後に親父が少女の方を向いて微笑む。親父が教壇まで行くと、奴は自己紹介をはじめた。
「このトレニア学園の1年α組の担任になるバンハウト・フォン・ヴェルトハイム・フロイデンベルク公爵だ。みんなよろしく」
オレの聞き間違いだろうか。この豚はオレのクラスの担任とか言わなかったか…
「お父様? なんのことでしょうか。お父様が1年α組の担任だなんタチの悪い冗談はおやめになってください」
オレは努めて冷静な声で親父にそう言ってやった。顔は引きつっていたと思う。
「冗談? そんなことをお父様が言うと思うかい?」
いや、この状況が冗談みたいなんだが…。オレは非現実的な親父の言葉をただ唖然とした表情で聞くことしか出来なかった。