七十九話目 純潔エルフのユイ
79.
ルイの爆弾発言には困ったけど、なんとかマリア師匠の誤解を解いて侑生さんを迎えに行く。
魔力操作で進行速度を上げて大急ぎで向かうと、そこには西洋人っぽい顔になった金髪碧眼の侑生さんがいた。
金髪碧眼も似合ってるなあと感心していると、純血エルフ同士だと分かるあの感じがする。
ビックリすることに、侑生さんは俺と同じ様に純血エルフになっていた。
驚いていると、俺の真似をして種族をランダムにしたら純血エルフになったと教えてくれた。
琉生はもう来ていて混血エルフになって琉生じゃなくてカタカナのルイだと言っていたと伝えると、私もユイだよと言った。
なるほど、確かにエルフになると外人ぽいし日本語の名前はミスマッチなのかもしれない。
それと、もう一つの意味でもユイだよとも言われた。
さん付けは禁止だそうです。
敬語も禁止のうえに呼び捨てというなかなかのハイレベルなことを要求されたけど、一回呼んでみると意外にすんなりと呼べるようになり、こっちの世界でできるんだから地球でも呼び捨てで呼ぶようにと言われてしまった。
でもまあ、年上かと思っていたら同い年だったわけだし、そんな人は今まで居なかったわけだし……嬉しいなあ。
なんてことを思って呆けていると、ユイさんにこれからどうするか聞かれる。
「これからですか、そうですね……ルイと合流したら少し二人にやって貰いたいことがあります」
「むぅ」
うん? ユイさんが少し拗ねたような顔をしている。
どうしたんだろ? なんかマズいことをしちゃったかな? あ、敬語か。
そもそも名前も心の中では自然とユイさんて思っちゃってるもんね。
ユイさん、ユイが望むなら変えていかないと。
好きな人が望むことはなるべく叶えたい。
「ユイ、それでやって貰いたいことなんだけど」
「うんうん、なに?」
さん付けをせずに名前を呼びタメ口で話しただけで、ユイは笑顔になって前のめりに気味に俺に近付いて来る。
さん付けされるのが、そこまで嫌だったのかな? それとも敬語かな? ともかく機嫌がよくなったので話を続ける。
「まず最初に師匠に会って貰う」
「うん」
「たぶん何が向いているかとか強化の方針が見えると思う。必ずしもそれに副う必要はないけど、師匠の教え通りにやれば何らかの強さが得られると思う。俺の師匠は見た目は美人なんだけど、その筋の人達にとって恐怖の対象になるぐらいの強さを持っているんだ。しかも指導能力も高い。ユイもルイに早く迷宮制覇して貰いたいでしょ? どんどん強くなれば、その可能性は上がるよね」
「それはありがたい話だと思うけど、師匠って女の人なんだねー。しかも美人なんだー? ふーん」
あれ? なんだかご機嫌斜めになったけど……まさかね。
でも一応言い訳をしといた方が良いのかな?
いや、言い訳も何も、やましいことは何もない訳だし……そうだ、ジョーさんの話をしよう。
「あ、あのね、マリア師匠にはジョーさんという恋人がいるんだけど、その人は俺たちと同じで訪問者なんだよ」
「へーそうなんだ? こっちの世界の人と恋人同士になるのってどんな感じなんだろう? 私もこっちの人とお付き合いしてみようかな?」
「え? そんな! そそそ、そんなことになったら俺はどうしたら……」
「うそうそ。そんなことはしないよ。でもどうしてそんなに慌ててるのかなー?」
「え? いや、それは……というか慌ててないよ」
そんなことを聞かれてもなんて答えればいいか分からない。
いや、答えは決まっている。
俺がユイを好きだからだ。
だけど、そんなことを言える訳はない。
だから曖昧に笑って誤魔化す。
「そうなんだ? ふーん」
「そ、そうだよ。あ、実はこの橋なんだけどね」
俺は話を変える為に、一番最初にこの浮遊大陸に来た時にお金を騙し取られそうになったことを話す。
ユイは驚いていたけど、でもそのお陰で衛兵隊長のルイスさんと知り合い、神殿長のミゲールさんと知り合い、マリア師匠と知り合い、そうやって色んな人々と知り合えたから、もしかしたら幸運だったのかもしれないと告げると、彼女は微笑んだ。
「そんな風に考えることの出来る稔君は素敵だなって思うよ。あ、ここではアルムだったね。アルム君?」
「こっちじゃ俺もユイって呼ぶんだしアルムでいいよ」
「分かった。改めて宜しくねアルム」
そう言って握手を求めてきたユイの手を握ると、ユイは手を強く握り返してきて、その後に満面の笑みを浮かべた。
つられて笑ってしまい、なんだか幸せな気分になる。
そんな感じで宿へと向かう。
宿に着くとルイは相変わらずマリア師匠と楽しそうに話していた。
マリア師匠にユイを紹介すると、なんだか妙に納得した後に俺の顔を見て意味深に笑ったので、俺は曖昧な笑いを返す。
「お姉ちゃん、やっとユイって呼んで貰えるようになったんだね」
「なっ、なにを言ってるのかねルイ君。君、ちょっとこっちに来ようか」
ルイの一言に顔色を変えたユイがなんだかおかしな口調になってルイを少し離れた場所に引きずりながら連れていく。
あ、なんか怖い顔をしてユイがルイに何かを言ってる。
これは見なかったことにしておこう。
そんな俺をマリア師匠はにやけながら見てくるので、ジト目になって見返す。
「何ですか、マリア師匠」
「悪く思わないでおくれよ。別に馬鹿にしている訳じゃないのさ。ただ微笑ましくてね」
マリア師匠が俺を馬鹿にするわけがないと分かっているからそれはいいんだけど、微笑ましいってどういうことだろう? 俺がユイのことを好きだって分かり易いってことなのかな? だとしたら恥ずかしすぎるよ。
☆
二人が言っていたけど、今の身体になる前のこの世界の身体で得たスキルは知識として頭の中にあるけど、今の身体で使おうとしても違和感が大きいそうだ。
俺は前の身体から直ぐに今の身体になったから分からなかったけど、新しい身体になることはそういった不便性があると聞いてルイの望む迷宮制覇が達成し辛くなるんじゃないかと不安を感じた。
だけどマリア師匠から指導を受けたことにより、前の身体で得た知識を生かしつつ今の身体に合った戦闘方法を見つけたようで、とりあえず安心かな。
ルイは風神流闘法の派生である二刀短剣術、ユイは魔法が主体ではあるけど木神流闘法の杖術だそうで、なんだか二人とも似合ってる気がした。
あとは二人に合った武器と防具を買い揃えてから迷宮に行くか、迷宮の宝箱をあてにするかだけど武器は俺が買ってあげてもいいかな。お金には余裕があるからね。
俺が唯一知っている武器屋さんであるハミトさんの所へ行くことにする。
ユイもルイもなんだかご機嫌だ。つられて俺もご機嫌になる。
「こんにちは」
「いらっしゃいませ!」
聞き慣れない声の主を探すとそこには見慣れない人が立っていた。
ドワーフ? だけどやけに愛想が良いからかドワーフっぽくない。
ハミトさんの息子さんとも違うし誰だろう?
「えっと、ハミトさん居ますか?」
「ああ、ハミトさんのお客さんでしたか……少々お待ちください」
ドワーフっぽくないドワーフの人が店の裏に行くのをなんとなく見ていると、横にユイが来る。
ユイもさっきのドワーフが気になったようだ。
ルイは武器屋の中を見回していたけど、とことこと歩いて近付いてくる。
「たぶんあの人、訪問者だと思うよ」
「何か特徴があるの?」
「わかんない。ただの勘だけど当たっている気がする」
そう言うとルイは店の裏への通路を見詰めた。
どうしてそう思うか分からないけど、戻ってきたら話を聞いてみようかな。
でも、こんな風に自分から知らない人に話しかけようとするなんて、今までの俺だったら考えられないなあ。
「おお、客とはアルムだったのか」
少しのあいだ待っているとさっきの店員さんがハミトさんを連れて来た。
ハミトさんから店員さんを紹介される。
彼の名前はトールと言い、ルイの思った通り訪問者だった。
興味を持った俺はハミトさんにユイとルイの武器を見て貰うように頼み、トールさんと話すことにした。
トールさんはドワーフではなく混血ドワーフだそうで、見た目はドワーフだけど種族特性である指先の器用さは特別優れてはいないとのことだ。
「あの、お願いがあるんです」
トールさんが切羽詰まったような、なんとも表現し辛い表情で言ってきた。




