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七十七話目 神子様

77.


 大学、午前の講義が終わり昼。

 学食を食べていると、地球世界での数少ない友人であり誕生世界でも友人である桜井優人が会いに来た。

 俺を嫌っている取り巻きの女性を撒いて会いに来てくれたので、久しぶりに互いの近況を話す。

 しかし、こっちでも誕生世界でも優人の近くにいる女性に好かれないのは、何かしらの因果関係でも有るんじゃないだろうか? なんて思ってしまう。


「それで? その封印を解いた連中ってのは何者か分からないままなのか?」

「そうなんだよね。でもエルフ達は災厄の復活という大きな危機は去ったし、分からない事を気にしても仕方が無いってスタンスみたい。一応は調査するけど、調査の仕様が無いのが本当のところかな」

「なるほどね。でも稔が英雄か。凄いな」

「アルムが、だけどね」

「同じだろ?」

「まあ、そうかもしれないけどさ。なんかね」

「そういうもんか? ところで、今も北の森のエルフの里に居るのか?」

「うん」

「それは少し不味いかもな」

「え? どうして?」

「実は俺も北の森のエルフの里に向かっている最中なんだよ」


 おっと、つまりは俺を相当嫌っている北の森エルフであるエリーヌさんも、優人と一緒に北の森のエルフの里に向かってるって事だよね。

 優人、誕生世界でのユージンはまだ中級冒険者であり、今回の国家依頼を受ける筈がない。

 それなのに北の森のエルフの里に向かっているって事は、そういう事だろう。

 うん、なんかストレスが一気にきたよ。


「そうなんだ? まあ、次にあっちに行ったら、なるべく早く里から去る事にするよ」

「なんか悪いな。ちっ、更に悪い事が重なったわ。俺の話はまた今度な」


 優人がばつの悪そうな顔をしているので、彼の視線の先に目を向ける。

 すると、俺を嫌っている女性がこちらに向かっているのが見えた。

 なかなかの不機嫌そうな顔なので、撤退する事にする。

 優人に軽く挨拶をすると席を立ち、食堂から立ち去る。

 女性が俺の名前を呼んで「待ちなさいよ」と言っていた気がするけど、きっと気のせいだろう。

 それに気のせいじゃないとしても、厄介な人は無視するに限る。

 触らぬ神に祟りなしですよ。

 神じゃないけどね。


 それ以降は件の女性に会う事も無く、無事に大学の講義も終わり、帰宅した。

 晩飯までは時間があるし、寝袋に入り誕生世界に向かう事にする。

 

 誕生世界に着いた俺は、長に旅立ちの挨拶をしに行く。

 まだまだ学びたい事や聞きたい事があったので残念だったけど、アダンさんの後を追わなければならないから仕方が無い。

 残念そうにしていると、長からまた来れば良いと言われた。

 わかりましたと笑顔で返すと、長も笑顔で返してくれた。

 さあ、これで気分良くエルフの里を旅立てる。


 と思っていた時期が俺にも有りました。

 いや、正確には里からの旅立ちは気分の良いものだった。

 だけど、里の近くにある森エルフの別の集落に行く途中で不幸なアクシデントがあった。

 可能性が無いとは思っていなかったので、覚悟はしていたけど、やはりくるものがある。

 目の前には、誕生世界で俺がなるべくなら会いたくない人物ランキング一位である森エルフのエリーヌさんがいる。

 近くにはユージンもいてバツの悪そうな顔だ。


「あの、こんに」

「ふんっ!!」


 挨拶は途中で鼻息に遮られました。

 でも、無視されるかと思ったけど、鼻息はいただけました。

 まあ、嬉しくないですけど。

 しかし、相変わらずの対応にそろそろ俺もうんざりしてきたかも。

 ユージンに軽く目で挨拶をして、すれ違う。


 嫌な事は有ったけど、近くにあるエルフの別の集落に辿り着き、アダンさんと合流する。

 アダンさんは無事に王都と連絡が取れた。

 ひとまずは国家依頼の達成を認める事になったそうで、成功報酬はギルドに行けば貰えるそうだ。

 ただ、神子様と面会しなければならなくなった。

 うん、非常に面倒です。

 でも神子様は王都にずっと居るから、俺が偶々俺が王都に立ち寄った時に神子様に時間が有ったらで良いそうだ。

 なんだか、とてもアバウトですね。

 そんなんで良いのかな? と思いつつ俺には都合が良いので、取り敢えずは放置です。


 それと、国家依頼を達成したからアダンさんとはお別れだなと思っていたんだけど、まだもう少しだけ一緒に行動する事になった。

 国家依頼は達成したけど、過程で起きた茶猫獣人族の村での事件が心配だった俺はカールと一緒に村へと行く事にした。

 すると、ンボマさんも一緒に行くと言い出し、それと共にアダンさんも一緒に行くと主張した。

 アダンさんに関しては、まだ少しだけ疑念が未だにあるけど、その力と頭脳は頼りになるから一緒に行ってくれるのは嬉しい。


「変わった気配は感じないな」


 アダンさんと合流したエルフの集落で一晩休んだ俺達は、翌朝直ぐに茶猫獣人族の村へと向かった。

 途中で野宿もしつつ、昼間には無事に辿り着いた俺達は警戒しながら村の様子を見たんだけど、これといって変わった事はない。

 警戒しつつも村へと足を踏み入れると、村人に遭遇しなかったのを訝しがっていたら、他のみんなが食事の時間だろうと言ったので、なんとなく納得する。

 確かに美味しそうな良い匂いがしてる。

 俺達を襲ってきた茶猫獣人が村長の息子だったので、先ずは村長の家に行く事にした。

 村長の息子、えっと確かマイクっていったっけ。

 マイクはたぶんもう村長の家には居ないと思いつつ、少し警戒して村長の家の扉をノックする。


「ああ、あんた達か……」


 村長は対して親交の深くない俺でも分かるくらい落ち込んでいる。

 空気を読みながらカールが理由を聞いてくれたんだけど、村長は息子が出て行ってしまったからだと答えた。

 そりゃそうだよねと思いつつ、息子が行きそうな所や村で他に何か変わった事がないか質問したんだけど、成果は無かった。

 この村が安全であるかも分からないから、カールはこのまま行動を共にする事となった。

 アルバの街に戻ったら、一人でも食べていけるだけの冒険者にしないとね。

 ちなみにアダンさんが国に報告をした時に村についても言及してあるらしく、村全体の心配はしなくても良いそうだ。

 

 転移門は緊急時のみの使用しか許可されないそうで、街への帰路では使えない。

 帰路は徒歩。

 俺一人だけなら二角馬であるノワールに乗って移動するのもありかもしれないけど四人だし、この村じゃ馬を借りる事もできないからね。

 となるとそれなりに時間が掛かる訳で、それならと近場の村で一時滞在し、侑生さんと食事する為に地球世界にいったん戻る事にした。


「稔くん、弟の事なんだけど、一度会いたいって言ってたでしょ?」

「はい。もしかして?」

「うん。琉生が会いたいって言ってるんだけど、大丈夫?」

「はい。勿論大丈夫です」

「良かった」


 食事をしていると、侑生さんから入院している弟さんのお見舞いに一緒に行く事を誘われた。

 断る理由は無いので、即行で了承すると侑生さんはニッコリと笑う。

 その表情に見惚れて固まっていると、侑生さんは不思議そうに首を傾げた。

 その姿も天使過ぎて悶絶しそうになったが、なんとか堪えて平静を装う。

 その後は、お互いの都合を話し合い、週末にお見舞いに行く事になった。


 誕生世界に戻り、アルバの街へと向かう。

 北の森をあっさりと抜け、森の近くの町に寄り、これからの順路予定を確認……ん? 王都を通る事になるのか。

 浮遊大陸の中心地に王都があり、大陸北の森から南にあるアルバの街に行くんだから、通るのは当たり前ともいえるよね。

 なんにも考えてなかったなあ。


 北の森の近くの街からは馬車で移動している。

 ちなみにファンタジー小説とかでよくある乗り心地の悪さは無い。

 魔法処理でもされてるのかと思ったけど、技術的なもので過去に誕生世界に来た訪問者が発明したとされている。

 訪問者と呼ばれる俺達の様な存在は近年爆発的に増えたのだけど、昔から少なからず居たのだそうだ。

 昔は呼び名が違ったそうだけど、とにかく過去に来た異世界の人様々です。

 道中は特にこれといったイベントは無く、こちらに害をなす獣や魔物が出たら倒しながら道を進む。


 いくつかの街や村を経由して王都に到着した。

 王都は四階建てのビルくらいの高さの壁に囲まれていた。

 俺達は北の門から入ったんだけど、東西南北に門があってそこからしか出入りできないと聞いた。

 アダンさんやンボマさんはともかく、俺とカールは初めて見る壁の高さや門の大きさに驚愕していた。

 二人して口が大きく開いてるのをアダンさんに咎められる程だ。

 大通りを暫く馬車で進むと門構えの立派な高級そうな宿に着く。

 馬車を預けて、受付に行く。

 ちなみにこれまでの宿代はアダンさんが払ってくれている。

 国家依頼の報酬を俺がギルドで受け取るまでは、国家依頼の経費で落ちるそうなので、今迄の村や街でギルドから報酬は貰っていない。


 さて、王都に着いたからには神子様に面談しなくちゃならないよねえ。

 とはいえ、向こうは偉い人なわけだし、事前にアポ取ったりしないと駄目だろうから……うん、アダンさんに相談しよう。

 分からない事は分かるだろう人に聞くのが一番手っ取り早いよね。


「神子様との面談かね?」

「はい。連絡とかはしなくて良いんですか?」

「恐らく大丈夫だろう」

「え?」

「もしアルムが神子様に会うべき時なら、神子様より遣いが来る」


 神子様とはそういうものらしい。

 俄かには信じられないけど、そういうものならいいか。

 だって、この世界はファンタジーだし。


 宿に泊まって翌日。

 アダンさんは王城にて色々とご報告しなければいけないということなので、俺達は王都見物する事にした。

 ンボマさんは宿に居ると言うので、カールと共に出掛ける。

 アルバの街も人が多く賑やかだけど、王都となるとそれ以上だ。

 大通りは人で溢れ活気にも溢れている。

 大通りに面した広場のベンチでカールと二人、そこらの屋台で買った串焼きを頬張りながら街を行きかう人々を眺めているだけでなんとなく面白くもある。


「隣に座っても良いか?」


 ボーっとしていたら、子供に話し掛けられた。

 その物言いとは似つかわない柔らかい印象を受ける垂れ目が特徴的な前髪ぱっつんの金髪の可愛らしい少女が、こちらの返事を待たずに隣に座り俺の顔をジッと見ている。

 エルフが珍しいのかな? とりあえず身なりから判断するに裕福な家の子っぽいし、下手したら貴族の子供の可能性もあるから無碍に扱うのも不味そうだ。

 とりあえず、したてにいこう。


「あの、なんでしょうか?」

「ふむ、お主は面白い存在だの」

「えっと?」

「見た目はエルフなのに、中身は人間じゃ」

「な」

「なぜ分かるか不思議か? 私にも不思議じゃ。じゃが分かるのは確かじゃ」


 少女の言う事は正しい。

 アルムである俺の肉体はエルフだけど、確かに中身は人間だ。

 まあ厳密には、この世界の人間とは恐らく別だけど。

 この少女には何か見えるんだろうね。

 さすがファンタジー。

 そして、たぶんこの少女は……

 

「もしかして」

「赤髪の純血エルフ。お主はアルムであろう?」


 やっぱり俺の事を知っている。

 そうなると、たぶん少女の正体は神子様だよね。

 念の為に警戒態勢をとり、カールを庇うように立つと、周囲に敵が居ないか確認する。


「そんなに警戒せんでいい。お主達を害するつもりはない。それに私の様な子供がお主に敵う筈もあるまい?」

「そう、ですね」

「私はアルムを心配しておる。お主は弱いが強く、強いが弱い」


 なんだか禅問答見たいな事を言う神子様(仮)。

 地球人の俺は弱いけど、誕生世界人アルムとしての俺は強いって事かな? でもそれだと、強いが弱いの意味が分からない。

 戦闘能力的に強くても精神的に弱いとか? まあ、戦闘能力も上には上がいるから強いとは余り思えないけど。


「そう、ですか」

「私がここでお主に会わないと、お主が二度とこの世界に現れない。だから会いに来たのだ」

「それはどういう」

「お主は絶望しここに来たくなくなるだろう。だが、この世界にこそ希望があるのだ」

「えっと」

「今は私の言っている言葉の意味が正しく分からなくても良い。だが、この世界にこそ希望がある事を忘れないでほしい」

「わかり、ました」


 正直、神子様が言っている事の意味を理解できているか分からないけど、たぶん俺はこの世界で絶望しこの世界に来る事が嫌になるんだろう。

 でも、この世界に来る事によって絶望が希望に変わるのかな?

 予想通りに絶望しても、神子様の言葉は忘れないようにしよう。

 そう決意すると、神子様は納得したのか強く頷き、人ごみに消えていった。

遅くなってしまい申し訳ありません。


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