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六十四話目 リア充?

64.


 少し時間が経ってノワールのインパクトでどこかに飛んでいたミゲールさんとパスカルさんの意識が戻って来たので、さっそくノワールから話を聞く事になった。

 結論から言ってしまえば、リーズンゴブリンの聖母はエロイーズさんだった。

 自分に子供が出来る事を証明するためにゴブリンを利用するのは狂気の沙汰かも知れないけど、結果として理性あるゴブリンを生み出すという奇跡を起こした。

 いや、もしかしたら才女と言われたエロイーズさんには、そうなる事が分かっていたのかもしれない。


「そうか。もし、まだ他にエロイーズの遺品があったら、どんな物でも構わないから貰えないだろうか? 弔ってやりたいのだ」

「エロイーズさんのお墓ならありますよ。聖母の墓としてリーズンゴブリン達に大切に管理されています」

「それに聖母様は木の精霊になれたのだから幸せな最後だったと思うわよぅ」

「なんと? 木の精霊に? それは素晴らしいね。是非とも彼女の木を見てみたいものだ。今度、案内を頼めないだろうか?」

「主様の許しがあれば何時でもご案内致しますわよぅ」

「国からの依頼が済んだらいつでも良いですよ。そうだ! その件で俺はミゲールさんに相談があって来たんですよ。ちょっと聞いてください」

「アルム君の頼みなら聞かない訳にはいかないね。なんでも言ってくれ給え」


 国からの依頼で北の森に行かなければいけない事、俺を北の森に行かせようとする動きがある事、それと特級冒険者狩りの事もミゲールさんに伝えた。


「なるほど。それは由々しき事態だねえ。だがいくつかの懸念は解消出来ると思うよ。待っていてくれ給え」


 そう言うとミゲールさんは部屋を出て行った。

 すると、北の森での依頼に関して不安なら自分と一緒に行動しないか? とパスカルさんが聞いて来てくれた。

 パスカルさんも特級冒険者であり三十二階層は制覇済みなのだそうだ。

 それはとても嬉しい提案だったけれど、俺と一緒に居る事でパスカルさんに迷惑が掛かるかもしれないと思うと躊躇してしまう。

 その事を伝えると、そんな事は気にしないで良いと言ってくれたけど、どうしようかな。

 そんな事を考えているとミゲールさんが戻って来て、いくつかの魔道具を机の上に並べた。


「これらは全て認識阻害の魔道具だよ。アルム君の髪の毛の色が金に見える様にしたり。バイコーンの指輪を違う物に見せたりする事が出来る」


 なるほど、忌みエルフと思われてのトラブルやノワールの指輪をつけている事でのトラブルは、それで回避出来るかもしれない。

 これならパスカルさんと行動を共にしても迷惑を掛けずに済むかもしれないな……だけど万が一もあるかもしれないし……うん。

 やはり迷惑を掛けてしまうからとパスカルさんには断りを入れた。

 困った時には何時でも言ってくれと言われたけど、むしろそうならないように注意しないと。


「それと、これは簡易結界を張る事の出来る首飾りだよ。北の森で石棺を使わせて貰えなくなる可能性もあるはずだ。もしそうなったら、これで結界を張り中で石棺を使えばいい。因みに石棺については、この神殿にある石棺を一つ持って行ってくれ給え。訪問者の収納魔法なら問題無いはずだよ」

「わかりました。ありがとうございます」


 かなり価値のありそうな魔道具なのにミゲールさんは惜し気もなく俺に渡してくれる。

 ここまでしてくれたんだから、無事に帰ってきてエロイーズさんのお墓に連れて行かないと……ん? あれ? リーズンゴブリンに無許可で連れて行っても大丈夫かな? いや、なんとか説得してミゲールさんを連れて行く許可を得ないと立つ瀬が無いから頑張らないとね。

 まあ、その前に北の森から無事に帰ってこないとなあ。


 少し話をしていると、そろそろお暇するよとパスカルさんが席を立った。

 パスカルさんに挨拶を済ませ、俺も失礼してマリア師匠の店に向かう事にしようかなとミゲールさんに挨拶をしたら、少し待ってくれ給えと言われたので待つ事にする。

 程無くして戻って来たミゲールさんから、最後にこれを渡しておこうと簡易結界を張る為の物とは違う首飾りを渡された。

 かなり高レベルの認識阻害をさせる首飾りだそうで、王級冒険者の魔術師にすら通用する代物らしい。


「もし知り合いを騙さなければいけない時には使ってくれ給え」


 そう言うミゲールさんの顔は複雑な表情をしていた。

 それと石棺を忘れず収納する様に言われたので返事をし、魔道具などのお礼も再度してから神殿を失礼した。


「ねえねえ、お兄さん、遊んでかない?」


 マリア師匠の店へ向かう途中、聞き覚えのある声に振り向く。

 この声は夜に生きる女性、パメラさんかな? と思ったら当たりだった。

 まあ、俺に声を掛けてくる知り合いの女性なんて人数が限られているから特定はしやすい。

 いや、その事に関しては寂しさや恥ずかしさよりも、誕生世界でなら地球世界とは違って詐欺とか商売以外で俺に声を掛けてくれる女性が母さん以外にも居るって事に驚きと嬉しさがあるかもしれない。

 そうなると逆に地球世界での悲惨さで悲しくなりそうなものだけど、地球世界でも母さん意外に声を掛けてくれる人が一人だけ増えたからね。

 一人だけって言い方もなんだな。

 その一人が俺にとって最高の女性の侑生さんな訳だし。


「お兄さん? 聞いてるの?」

「え? はいはい、聞いてますよ。勿論、遊びませんよ。しかし、パメラさんとは度々巡り会いますね。これが運命ってやつなんですかね」


 ついつい長く思考の海に潜っていたから返事が遅くなってしまった。

 そして、パメラさんなら怒る事は無いだろうと軽口を叩いておいた。、


「あら、お兄さんからそんな気障な台詞が出てくるとは思わなかったわあ」

「悪運ですけどね」

「まあまあ、そんな事は言わないでおくれよ。お兄さんと私の仲じゃないのさ」

「冗談ですよ。それに貴女に会いたいと思ってましたから」

「あら、嬉しい台詞だねえ」

「お金を返さないといけませんからね」

「そういえば貸してたわねえ。利子は唇へのキスで良いわ」

「ナ、ナニを言っているんですか? こ、これ、お金を多目に入れといたから受け取って下さい」

「利子なんて冗談なんだから、お金よりキスが良いのに」

「キスは駄目です! それより、お金は利子と言うより、こないだのお礼です。凄く楽しい食事だったし、話を色々と聞いてくれてありがとうございました。それにバーベキューの時もありがとうございました。あ、あの時にお金を返しておけば良かったですよね」

「まあ、あの時は色々と大変だったから良いわよ。それにしても、お兄さんは意外と女の喜ばせ方を知ってるのね」


 そう言って俺にしなだれかかってくるけど、今日はサッと避けておいた。

 残念ながら北の森の件が片付くまでは、お姉さんと食事をする気分じゃないんです。

 ごめんなさい。


「今日はつれないわねえ」

「また楽しい食事をしたいところですけど、立て込んでるんですよ」

「そうかい、それは残念だねえ。でも今度ちょっと相談に乗っておくれよ」

「困り事ですか? 大丈夫ですか? 緊急だったら誰かに頼みましょうか?」

「全く、お兄さんはお人好しだねえ。でも大丈夫。そんな急ぎじゃないからさ。また今度ね」

「分かりました。では失礼します」

「じゃあ、またね」


 そう言ってパメラさんは裏通りにスッと消えてしまった。

 去り際のパメラさんは少し切なげで心配になったけど、共通の知り合いは居ないし、どこに住んでいるかも分からないんだよね。

 まあそもそも、なんとなく懇意にしているけど、助けてあげる義理なんて無い筈なんだよな。

 最初は騙された訳だし。

 でも、侑生さんの事とか話せたのはパメラさんが初めてだし、なんだかそういう事は相談しやすいし、性格も憎めない人なんだよな。

 北の森の件が終わったら、パメラさんの相談事も聞く事にしよう。

 なんだか、意外に忙しいな。

 もしかして、これがリア充ってやつなのかな? まさか異世界に来てそんな事を実感するとは思わなかったね。

 まあ、地球世界も考えてみたら今は充実してるかもな。

 そんな事を考えていたら、マリア師匠の店の近くまで来ていた。


「ふざけんじゃねぇぞ、コラっ!!」

「あん? 手前ぇが一体どれほどの仕事をしたってんだ?」

「で、でも、最初に言ってたのと話が違うじゃないですか」

「うるせーボケぇ」


 マリア師匠の店の近くで商売をしている宿から、揉め事らしき声が聞こえる。

 嫌な予感がしたので足を速めようとしたら、揉め事の声が聞こえてきていた宿から人が飛んで来て、地面に落ち、転がり、俺の目の前で止まった。

 関わり合いになりたくないから、急いでマリア師匠の店に入ろうとしたんだけど遅かったみたいだね。

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