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六十三話目 純血尖耳人エロイーズ

63.


 知の神様の神殿に着くと、近くに見習い神官の少年が居たのでミゲールさんに会えるか聞いてみた。


「来客中ですから、今はお会い出来るか分かりませんが、確認してきますね」


 そう言って、見習い神官の少年が走っていった。

 来客中なのに聞きに行って大丈夫なのかな? 見習い神官の少年が怒られるかもしれないと思うと少し可哀相だ。


「お待たせしました。お会い出来るそうなので、ご案内します」


 少し待っていると見習い神官の少年が慣れない言葉遣いで俺をミゲールさんの所に案内してくれる。

 分かる分かるぞ少年よ。

 敬語と丁寧語の違いなんて分かんないし、接客の言葉遣いは難しいよね。

 でも、怒られた様子は無いみたいだし良かった良かった。

 しかし、来客中だから今は会えるか分かりませんって言ってたけど待たされずに会えるって事は、お客さんは俺の知り合いなんだろうね。

 こないだ会ったパスカルさんかな? まさか俺を嫌ってるエリーヌさんて事はないよね? そうだったらマジ絶望。

 緊張していると少年が神殿内応接室のドアをノックした。


「お客様をご案内しました」

「御苦労様。アルム君だろう? どうぞ。入り給え」

「失礼します」


 部屋の中に入ると、予想に反してミゲールさん一人しか居ない。

 と思ったんだけど、誰か室内のどこかに隠れているらしい。

 バイコーンの指輪状態のノワールが、カチカチと音を鳴らして警告してくれている。


「どうやら、アルム君に隠行は通用しないようだよ」

「そのようだな」


 どこからかパスカルさんが現れた。

 あ、これ見た事ある気がする。

 なんだっけ? ああそうか、裏稼業のヘスス少年の隠行術に感じが似ている。

 それにしても、どうしてパスカルさんはこんな事を仕掛けてきたんだろう? 何かのテストなのかな? まさか悪戯って事は無いだろうし。


「この通り謝罪する。だから許してくれないか?」


 パスカルさんが頭を深々と下げている。

 どうやら俺が黙っているから怒っていると思ったようだ。


「あ、いえ。別に怒っている訳じゃありませんから謝罪は大丈夫ですよ。以前に見た事のある様な隠行術だったので気になって。それとパスカルさんが隠行術をした意図を考えて集中し過ぎていたのです。こちらこそすみません」

「私の隠行術に似たものを見た事があるのか……それは、もしや裏稼業の者か?」

「あ、いえ、あ、はい」

「深くは詮索しないほうが良さそうだな。まあ、いま重要なのは私の隠行術をアルム君が見破ったのは確かだと言う事だ。素晴らしいな」

「アルム君が見破ったと言うのは語弊がありそうだけどねえ」


 そう言って、ノワールの指輪を凝視するミゲールさん。

 心なしか表情が少し怖い。


「この指輪が気になりますか?」


 あえて俺の方から質問する事にした。

 ミゲールさんがノワールの指輪に対して、並々ならぬ興味を持っているのは明確だったからだ。


「申し訳ないが逆に質問して良いかい? アルム君はこの指輪をどこで手に入れたんだい?」

「南の森です」

「と言う事は、やはりこれはバイコーンの指輪かい?」

「どうしてそれを?」

「その指輪は北の森の有力な一族の秘宝だと言われていた物なのだよ」


 そこからミゲールさんの大叔母にあたる人の悲しい話を聞いた。

 もう百五十年以上前の話らしいんだけど、話しぶりを聞いているとミゲールさんも大叔母さんと会った事があるようだし、ミゲールさんの年齢が気になったんだけど、それは一先ず置いておこう。

 ミゲールさんの大叔母であるエロイーズさんは美男美女が揃うエルフの中でも際立った美人の上に魔力も高く、更には勤勉でもあった為に知識も豊富で才色兼備をハイレベルでいく、それこそ何でも出来る女性であったという。


「親族と言う贔屓目を抜きにしても、その能力や知識はかなり高度であったと思うよ。彼女が北の森で作った魔道具は未だに高値で取引される逸品ばかりだし、独自の魔術作成すらしている」


 そんな女性にもただ一つ出来ない事があった。

 それは妊娠。

 エロイーズさんは誰もが羨むような美男美女の結婚をしたけど、何時まで経っても子宝に恵まれる事は無かったそうだ。

 やがてエロイーズさんの旦那さんは他の女性と浮気し、その女性が妊娠した。

 エロイーズさんは子供を作れない女だと浮気を棚上げした旦那に蔑まれ、旦那の家族及び親族に蔑まれ、やがて心を壊していった。

 そして、旦那の一族の秘宝と言われていた宝と共に姿を消した。

 子供を作れない石女うまずめが秘宝を盗んで南の森に消えた。

 そう言って問題にした一族であったが、実際のところ秘宝はエロイーズさん自身の創作物であり、その価値を高く評価した旦那の一族が我が一族の秘宝だと喧伝しただけであって、彼女は別に盗んだ訳ではなく自分の物と一緒に姿を消しただけであった。

 また、旦那の浮気相手の妊娠も旦那の子供ではなく他の男の子供だと分かり、子供が出来なかったのは旦那が原因だったのでは? という噂もあったが、それは火消しされたそうだ。


「私がまだ子供だった頃、エロイーズには可愛がられていてね。その時にバイコーンの指輪をよく見せて貰ったものさ。私がこのまま純真なままに育てばいつか指輪の持ち主になれるかもしれないと言われたっけ。アルム君はきっと純真なんだろうね」

「え? ははは」


 笑って誤魔化しておいた。

 あれ? まさか『純真=童貞』じゃないよね? なんだか悲しくなってきた。

 それはさておき、どうやらエロイーズさんの旦那さんの一族というのがミゲールさんの一族なのかな? それともエロイーズさんの一族? なんとなく旦那さん側の気がする。

 でも分からないし聞かない方が無難だよね。

 ただ、ミゲールさんにしてみれば縁を切った一族なのか縁を切られた一族なのか分からないけど、エロイーズさんの事が少なからず影響している部分はあるのかもしれない。

 まあ、勝手な予想だけど。


「それで、その指輪なんだけどね。例えばエリーヌなんかは比較的若いエルフだから実物を見た事は無いが、私の様に実物を知っている者からすれば、エロイーズの作った指輪かもしれないと疑う可能性もあるだろう」

「大っぴらにつけていると不味いって事ですか?」

「北の森のエルフがこの街に来る事は稀だからね。この街の中では平気かもしれないが、螺旋迷宮には来るかもしれないから、迷宮探索の時は良くないかもしれないね」

「そうですか」


 うー、ミゲールさんにも事情があったんだろうけど、出来ればもっと早く知りたかったなあ。

 もしかしたら、北の森のエルフと遭遇していた事があったかもしれない。

 余り他の冒険者に関わる事がないから可能性は低いと思うけど、ゼロって訳じゃないだろうしなあ。

 でも、いまのところ問題になっていないし大丈夫なのかもしれない。

 きっと大丈夫。そう思う事にしよう。


「いや、伝えるのが遅くなってしまってすまないとは思っているよ。出来るだけ早く伝えたかったのだけど、確信が持てなくてね。さっきパスカルに協力して貰ったお陰で、その指輪の力を垣間見れたから確信に至ったんだ。バイコーンの指輪は感知能力が高いとエロイーズに聞いていたのでね」

「なるほど……あの、もしかしたらミゲールさんが聞きたくない結果になるかもしれませんけどエロイーズさんの事をよく知っているかもしれない人を呼びましょうか?」

「そんな事が可能なのかい? 可能なら、是非とも聞きたい。どんな結果だろうが私は受け入れよう」

「わかりました。ノワール、良いかな?」


 ノワールの指輪にそう問いかけると、魔力を少し持って行かれる感じがした。

 まさか室内で二角馬になるつもり? 止めなきゃと思ったけど、遅かった。

 指輪から黒い二角馬が姿を現す。

 でも、姿を現したそばから煙になって消えて行く。

 なんだ? そう考えたのも束の間で、直ぐに答えは出た。

 ノワールは人化した。

 まさか人化出来るとは思ってもみなかった。

 黒い肌に真っ白な髪、頭には二本の山羊角がある。

 瞳は紅く、なんだか特徴(アク)が強いけど、かなりの美人だ。

 そして、凄まじい双房です。爆乳ですね。

 思わず凝視してしまった。


「なによぅ。主様ったらぁ、そんな熱い視線を向けられたら火照っちゃうわよぅ」


 声は残念ながらいつもと変わらずに酒焼けした様な濁声だった。

 ミゲールさんとパスカルさんは完全に呆けちゃってます。

 戻って来てーっ!!

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