六十一話目 東の森のエルフ、パスカル
61.
侑生さんとの食事が終わり、自室へ戻り、個人空間へ。
ジョーさんに電話をしてみた。
ジョーさんはマリア師匠の店に居るから、そこで話そうと言われた。
個人空間に居て電話で話すよりも、誕生世界で話せるならその方が良い。
誕生世界へと向かう。
マリア師匠の店に行くとジョーさんは食事をとっていた。
俺もアルムの身体では食事をとっていないなと気付き、料理を注文する。
ついさっき侑生さんの料理を食べたばかりだというのに、アルムの身体だと普通に食事がとれてしまうのは、なんだか不思議な感覚だ。
食事をしながらジョーさんに侑生さんとの事を相談してみた。
「その子と誕生世界で出会いたいなら方法はいくつかあるよ」
まず前提として、タンミノで行ったピラミッドみたいな神造迷宮があった浮遊大陸に侑生さんがいないか確認された。
そこはさすがに馬鹿な俺でも言われる前に侑生さんに確認しておいた。
侑生さんが居る浮遊大陸の神造迷宮は、白亜の塔と言われている真っ白な天まで届きそうな塔だそうだ。
それを聞き、頷いたジョーさんはそれならと説明を始めた。
ジョーさんの説明によると、アルムである事をやめて侑生さんの居る浮遊大陸に行けるまで、何回か新たな肉体を作り誕生世界に来る方法が一番確実らしい。
訪問者が肉体を得て最初に訪れる浮遊大陸の数は決まっているから、何体も誕生世界での肉体を作っていれば、いつかは侑生さんの居る浮遊大陸に行ける。
確実な方法ではあるけど、リスクやデメリットがある。最大のデメリットはアルムとしては出会えないという事だと思う。
俺の認識が合っているかどうか分からないけど、恐らくアルムは強い。
ジョーさんみたいな人外級ではないし、上には上がいるだろうけど、それなりに強いはずだ。
そのアルムで、侑生さんと一緒に行動出来ないのは辛い。
まあでも、アルムは現実の俺の容姿とはかなり違う訳だし、アルムで会えなくても良いかなって部分もある事はある。
ただリスクとなるダクネの存在を考えると、強者のアルムじゃなく、弱いかもしれないし、強くなるまで時間が多く必要かもしれない新たな肉体で他の浮遊大陸に行くという考えは迂闊でしかないかもしれない。
ジョーさんの話によると、神造迷宮を制覇していく事も侑生さんに会う事に繋がるそうなので、このまま螺旋迷宮の制覇を狙っていくのもありなのかもしれない。
どうして、そうなのか? は言う事を禁じられているという、いつものワードが出てきた。
今の俺なら色々と言えない事があるだろうから仕方ないよなと、いつものワードを聞いたとしても、すんなりと納得できる。
それと、試練の泉という泉に飛び込むことで侑生さんの居る浮遊大陸に行く事も可能と言えば可能らしい。
ただ、ギャンブル性が異常に高く、生きて帰れないリスクもあるので、とても勧められないと言われた。
まあつまり、侑生さんに迷惑を掛けない事を念頭に置けば選択肢は自然と一つになる訳で、しかもそれも問題を後回しにしているに過ぎず、結局はダクネの事をなんとかしないといけない訳で、俺はなんだかダクネが恨めしくて仕方なかった。
ただ、誕生世界でのアルムという俺なら、ダクネが何か仕掛けてきてもなんとか出来るはずだ。
それを確信に変える為にも俺は強くならないといけない。
迷宮制覇していく事で俺は強くなれるし自信も持てるだろう。
迷宮制覇を強く意識した俺は食事を終えた後、ジョーさんに挨拶をして、螺旋迷宮の攻略に繰り出す事にした。
三十一階層は今までの迷宮内の構造と違って、扉を開けたら中は森だった。
まあ、木々により壁や天井が作られ迷路みたいな作りとしての迷宮ではあるんだけど、森の中の様な印象を受ける。
敵は八階層で出現した人喰い花の上位種の様なのや人面樹等の木の怪物みたいな植物系が多い。
ただ、それ以外にも普通に森に生息していそうな敵がランダムに出現してきた。
中でも虫系の敵が多くて、なかなか嫌な気分にさせられる。
不思議と森狼とか哺乳類系の敵は出てこない。
そして大きく変わった事がセーフティーゾーンが無いって事だ。
これはかなり厳しい。
仲間とパーティーを組んでいるならまだ良いけど、単独となると休みたくても休めない。
だけど一日で制覇出来るものじゃないから、どこかで睡眠をとらなければならないから単独だと睡眠をとる事さえ難しい。
まあ、とはいえ、俺は単独な様で単独じゃないから楽々睡眠をとれる。
ノワールに周囲を警戒して貰えば問題はない。
そして、万が一に備えて周囲に任意の魔力防御壁を張るのも忘れない。
三日後、俺は無事に三十一階層を制覇する事が出来た。
これはなかなかのハイペースだそうで、たぶん俺って迷宮攻略得意なんじゃないかな? って変な自信がついてしまった。
調子に乗って三十二階層にも挑戦して、あっさり制覇してしまった。
三十二階層も三十一階層と同様に森の中の様な感じだったけど、敵は哺乳類型の怪物が多かった。
苦労はそんなにしなかった気がする。
エレベーターの様な魔道装置で上に戻り、いつものように受付のオジサンにギルドカードをチェックして貰う。
「アルムさん、もう三十二階層も制覇ですか、凄いですね」
「ありがとうございます。色々な人に指導して貰ったお蔭で順調にこれてます」
「さすがですね。ところで三十二階層までを制覇した冒険者の方にギルドの方から依頼がございまして」
「え? そうなんですか?」
「出来ればギルドの方に三十二階層制覇を報告して頂けると助かるのですが」
「わかりました」
「そうですか、宜しくお願いします」
受付のオジサンが申し訳なさそうに言うので仕方なく了承した。
オジサンは俺が了承すると満面の笑みで感謝していたので、もしかするとオジサンの言う事を聞いてくれなかった冒険者が多かったのかもしれない。
仕方ないから、後で冒険者ギルドに行く事にしよう。
今回は侑生さんに食事に誘われている時のように緊急事態じゃないし、乗合馬車に乗ってのんびりと街に戻る。
因みに、侑生さんとはもう何度か食事を一緒にしている。
侑生さんの手料理は毎回美味しくて、そして食事をしながらの会話は最高に気分が良い。
思い出していたら変な顔をしていたのかもしれない。
馬車に乗り合った一人がジッと俺を見ている。
いや、俺が変な顔をしているからジッと見ている訳じゃない気がする。
なぜなら相手が純血エルフだからだ。
純血エルフらしく美形で耳が尖っている。
そして金髪なんだけど、髪型が少し奇抜だ。
もしかしたら、あのエリーヌさんと同じ様に森エルフで、俺が赤い髪なのに純血エルフだから忌みエルフだと思い、ジッと見てきているのかもしれない。
「君はもしかして噂のアルム君かい?」
「え? どんな噂かは知りませんが、俺の名前はアルムです」
少し警戒しつつも正直に答えた。
髪が赤い純血エルフでアルムって名前の人が、俺の他にこの浮遊大陸に居るとは思えないから、この髪型の奇抜な純血エルフが言う噂のアルムが俺なのは、まあ確定だろうし。
だからなんだよ? って顔をして強がって見せるしかない。
「これは失礼した。私は東の森のエルフ、パスカルと言う者だ。アルバの街、知の神の神殿の神官長であるミゲールとは旧知でね。君の話をあれこれと聞いていたものだから、ついね」
髪型の奇抜な純血エルフ、パスカルさんはミゲールさんと知り合いらしい。
本当かどうか分からないけど、パスカルさんの柔らかい態度はなんとなく信用が置けたので、信じる事にした。
「ミゲールさんとお知り合いでしたか、改めて、訪問者のアルムと言います。宜しくお願いします」
「これは丁寧にありがとう。噂に違わぬ礼儀正しい者のようだな」
「いえ、そんな。ところで、パスカルさんは森エルフなんですよね? 俺の事は、あの、大丈夫なんでしょうか?」
「大丈夫? ああ、忌みエルフの事かい? 心配しなくても大丈夫だよ。私達、東の森のエルフは赤髪で火精霊の加護のある者に対しては信仰の様なものが有るからね」
「信仰ですか?」
「ああ」
パスカルさんは東の森のエルフに語り継がれている話を教えてくれた。




