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五十九話目 白の魔女ルナ

59.


 螺旋迷宮三十階層の攻略は、かなりハイペースで進んだと思う。

 もしかしたらどこかで、急がなきゃって気持ちが働いていたのかもしれない。

 でもそれは、悪い方向ではなく良い方向に傾いた結果としての、ハイペースなんだと思う。

 迷宮に突入してから二日後、恐らく出口前の敵の部屋の扉の前に立っている。

 ここをクリアすればいよいよ特級冒険者だ。


 扉を開け中へと入ると、そこには魔方陣があった。

 十階層と同じ感じだけど、また闘人が召喚されるのかな? 室内に入りドアを閉めると、魔方陣が光り輝いた。

 これは当たり(ビンゴ)だね。

 準備しておこう。

 室内には光が溢れ、やがておさまっていく。

 するとそこには、つばの広い三角帽子を被った全身ほぼ黒ずくめの魔女みたいな格好の美人が現れた。

 唯一、首に巻きつけているスカーフだけが白い。

 そして、その白いスカーフを見ると嫌な予感しかしない。

 また十階層で戦った白のブラトみたいな超有名人じゃないよね? 不安だ。


「わらわの美しさに惚けるのは分かるが、そんなに油断していると直ぐに殺してしまうぞ?」

「出来れば殺されるのは避けたいんですけど」

「殺されたくなければ、わらわを殺すしかないと思うぞ」

「じゃあ、遠慮なく」


 ミゲールさんから教わって中級、それから技術向上転写本によって上級にした火精霊魔法。

 魔方陣が光った時に、その上級火精霊魔法の一つである火の大槍を大量に展開しておいた。

 この部屋は今迄の迷宮の部屋に比べて段違いの広さで、高さも勿論ある。

 だから天井付近に火の大槍を大量に展開しておけば気付かれ難いと思った。

 それに魔方陣から何が現れるにせよ、最初は目の前の俺に反応するだろうから、良い奇襲になるだろうとも思っていた。

 そして、その思惑通りに反応してくれた目の前の白いスカーフの美人に火の大槍を雨の様に降らせた。

 馬上槍と同じ位の大きさの火の槍が白いスカーフの美人に降り注ぐ。

 その数は数十に及ぶ。

 普通の生物であれば生きるのが困難であろう火槍の豪雨なのにも関わらず、あの美人は生きているんだろうなと確信があった。

 降り注いだ火槍は炎の山を作っていたけど、その中に平然と白いスカーフの美人は立っていた。


「わらわに魔法攻撃を仕掛けてくるとは無知な(おのこ)じゃのぅ」


 白スカーフの美人は俺と目が合うと妖艶な笑みを浮かべた。


「じゃが奇襲を仕掛ける心意気や良し」


 ああ、この人もブラトと同じタイプみたいだ、厄介だな。

 でも、ブラトと同じ様に力を制限されているはずだから、全力でいけば勝機はある。

 魔法攻撃が駄目なら物理攻撃はどうかと鉄球を投げつけてみる。

 だけど鉄球は白スカーフ美人の数十センチ前で何かに当ったかのように軌道を変えた。


「名前ぐらい名乗らせてくれんかのぅ?」

「お好きにどうぞ」


 白スカーフ美人からの提案に答えるフリをしながらも攻撃の手は休めない。

 今度は魔力を込めて刺付鉄球を投げる。

 すると、魔力を込めていない鉄球を投げた時よりも、かなり手前で軌道を変えられた。

 どうやら、魔法関連の防御壁と物理関連の防御壁は別々に設置されているみたいだ。


「名乗らせてくれるんじゃなかったんかのぅ?」


 白スカーフ美人が再度、聞いてくる。


「ですからご自由にどうぞ。こっちは勝手に攻撃しますので。あ、俺は訪問者のアルムです」

「わらわより先に名乗るとは生意気な男じゃのぅ」

「格下が先に名乗るものじゃなかったでしたっけ?」

「む? おんしの世界ではそうなのか?」

「確かそうだった気がしますよ。自信はありませんが」

「そうかそうか、では格上であるわらわが後に名乗ろう。わらわは魔人、白のルナじゃ。白の魔女の話は聞いた事はないかのぅ?」

「残念ですが初耳です。そもそも魔人すら知りませんから」

「魔人を知らんじゃと? ならば説明してやらんといかんのぅ。魔人とは闘人と対を成す人種じゃな。人間の生みの親とも言える」


 ルナが魔人について語ってくれているけど、そんな事は知っている。

 闘人が所持可能闘気が人種最高であると言われているように魔人は魔力保有量が人種最高であると言われている。

 そして闘人も魔人も短命。

 遠い遠い昔、歴代最強の闘人と言われるアダムと歴代最強の魔人と言われるイヴが居た。

 両者は共に強者であるにも拘らず短命種である事を嘆いていた。

 意気投合した両者は当時は禁忌であった他人種結婚に踏み切る。

 そして二人の間に生まれた子供が誕生世界で言う人間の始祖と言われている。

 人と人の間に生まれたって意味で、初の混血児だったらしい。

 当初の人間は闘人の様な闘気と魔人の様な魔力を持ち、祝福の人種とか新たな人種と言われ、他人種結婚が一時流行る程のものになっていたけど、やがてその力は衰えていく。

 結果、寿命は短くないが、繁殖力が高い人間は増えていった。

 ただ、誕生世界で圧倒的多数の存在になるまでには紆余曲折あったらしい。

 でもそのへんの事は残念ながら詳しくは知らない。

 初期の人間のように圧倒的な力を持つ祝福された人間が勇者と呼ばれ、人間が今の権勢を誇るようになるのに貢献したとは言われているそうだ。

 そうそう、因みに魔人は魔王の手先でも魔族でもなく、誕生世界ではただの人種に過ぎない。


 そんな人間の話と魔人についてを長々と話すルナ。

 それを聞きつつ、徐々に彼女との距離を詰めていた。

 恐らく、相当高位の魔法使いだから、俺の魔法は通用しない。

 だったら肉弾戦で行くしかない。

 まだまだ拙い俺の使う闘神流闘法がどこまで通用するか分からないけど、相手は魔法使いだし、魔法防御壁を超えさえすればチャンスはある気がする。


「それ以上わらわに近付かれるのは好ましくないのぅ」


 ルナの両手には何時の間にか茨の鞭が握られていた。

 そしてそれを俺に向かって振るってきた。

 今のところ、俺の魔力防御壁で鞭を凌げているけど、鞭に魔力を込められでもしたらフルボッコになっちゃうのが分かるから、全然近付けなくなった。

 だけど、近付かれるのを避けるって事は近付けば勝機があるって事かもしれないから、これは運を天に任せて突っ込むのもありかな。

 迷宮を造りし神によるルナへの制限が、魔法を使えないって事かもしれない可能性もあるからね。


「正気か?」


 俺が突っ込んでいくとルナから突っ込みが入った。

 だけど、俺は正気だ。

 俺が勝つ為にはしなければならないギャンブルだ。


「心意気や良し。だが、甘い」


 だけど、そのギャンブルは短絡的だったみたいだ。

 ルナから魔力が迸るのが感じられた。

 茨の鞭に魔力が注ぎ込まれていく。

 暴力的な魔力を纏った茨の鞭が俺に対して振るわれる。

 こうなったら仕方が無い。

 俺に出来るのは最早お得意戦法と化してしまった、魔力防御壁に出来るだけ魔力を突っ込んでの特攻だ。

 俺の魔力防御壁が茨の鞭の攻撃で削り取られていくのが理解できる。

 だけど、ルナの魔法防御壁の辿り着くまで保ってくれればいい。

 あと少し、もう少しで届く。


「うらぁっ」


 気合と共に最後の一押しをする。

 届いた。


「魔炎」

「そんな!?」


 俺から迸る炎は魔力防御壁を餌とし燃え上がり、炎は強くなりルナの魔法防御壁を食い破る。

 そして魔炎は魔力を纏った茨の鞭にも飛び火し魔力の供給源であるルナの方へと向かって行く。

 だけどルナは咄嗟の判断で茨の鞭を手放した。

 俺とルナの間に燃え盛る炎の壁、そこに勢いよく突っ込む。

 その先には無防備のルナが居る筈だ。


「読めておったわ!」


 ルナは両手に死神が持つような鎌を持って待ち構えていた。

 突っ込む俺に振るわれる鎌。

 だけど、俺はそれをギリギリで回避する。

 伊達にマリア師匠に鍛えられていない。


「いっけぇっ!!」


 なけなしの闘気を全て拳に纏わせ、ルナの物理防御壁の突破を狙う。

 そして、その拳は確かにルナの物理防御壁を突破した。


「正直、危なかったのぅ」


 だけど、俺の拳はルナの身体に触れる寸前で止められていた。

 ポタポタと流れ落ちる血。

 俺の腕に突き刺さる死神の鎌から流れ落ちる血だ。


「じゃが、これで終いじゃのぅ」

「それは俺の台詞だよ」

「はんっ、何を言っておる? なっ!? ごふっ」


 血反吐を吐くルナ。

 そして自分の胸に突き刺さる剣を不思議そうな顔で見た後に俺に顔を向け呟く。


「魔力剣が仕込まれておったのか? 不覚じゃのぅ」


 俺が手に装備しているのはハミトさんから貰ったオープンフィンガーグローブに似た武器、命名「炎拳」だ。

 炎拳は魔力を通せば伸びて剣になる。

 そして魔力を維持したまま魔炎を通せば魔炎剣となり、敵を燃やし滅す。


「魔炎」

「きゃぁぁぁっ」


 魔炎剣となった炎拳がルナを燃やし、滅した。


「終わったぁ」


 その場にへたり込んでしまった。

 しょうがないよ。疲労困憊過ぎるんです。

 頭がクラクラする。

 すると、突然魔方陣が光った。

 新たな敵の可能性も考えたけど、そんな訳は勿論なく、身体の治療をされた。

 今回はエレベーターに行かなくても治療してくれた。

 なんでだろう? 不思議だ。

 取り敢えず、ルナを倒した事によって出現した宝箱のチェックをしよう。

 と、宝箱に近付こうとしたら、ある意味、良いタイミングで携帯の着信が来た。

 出口前の部屋はボス戦の為に部屋に入ってドアを閉めると侵入者が死ぬかクリアして出口から出るまでドアが開かない。

 丁度いいやと思ったので、待ってる人が居たら悪いけど、携帯電話に出る事にした。

 身体はそのままに意識を個人空間へ飛ばす。

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