五話目 クラン本部
5.
ダクネを追い掛けて門を潜った先には、綺麗な街並みがあった。
こんな風景をインターネットかTVで見た事がある。
ヨーロッパのどこかの国の街並みだったと思うけど、どこだったかな? そんな事を考えているとダクネに手首を掴まれた。
一瞬、胸の鼓動が高鳴った。
「キョロキョロしてないで早く行こうよぉ。先ずはぁ、うちのクランの本部に行くからねぇ」
「ゆっくり見たっていいだろ? それに道を覚えないと迷子になっちゃうよ」
「大丈夫だよぉ。どうせ次からはクランの本部から動く事になるんだからさぁ。早く早くぅ」
ぐいぐいと引っ張られる。
腕は太くなさそうなのに、なかなか強い握力と腕力です。
男友達感覚のダクネだけど、苦手な同世代の女性なのは確かだ。
それなのに、今のこの状態が悪くないなと思えてしまう。
むしろ楽しい。
これが地球世界での話だったら、有り得なさから、かなり混乱しているはずだ。
誕生世界という、ある意味で夢の様な世界での出来事だから混乱せずに済んでいるのかもしれない。
本当は現段階でも色々と混乱している気がしている。
自分の考えや感情を上手く把握できていないんだもの。
ダクネって意外と可愛い顔をしているな。
アイドルとか女優以上に、なんて事は無いけど俺から見たら結構な可愛いさだ。
そんな訳の分からない事を思ってしまってもいる。
顔を見てて思ったんだけど、ダクネには兎耳以外に獣っぽいところがないな。
顔以外で獣っぽい所は、兎の尻尾がお尻の所にあるぐらいだ。
あれってどうなってるのかな? ふさふさしていて触り心地が良さそう。
そんな事を思いながら手を引っ張られつつダクネのお尻を……
じゃなくて、尻尾を見ていた。
それにしても、ダクネが握っている手が少し痛い。
ぐいぐいと力強く引っ張り過ぎなんじゃないのかな? これが自然な力の入れ具合だとしたら、相当な腕力だよ。
「そんなに強く引っ張るなよ。腕に力が入り過ぎなんじゃない?」
「痛かったぁ? ごめんねぇ。僕ねぇ、レベルの割に力加減が下手なんだぁ」
「レベル?」
ダクネ自身も良く分かっていないらしく確かな情報では無いらしいんだけど、彼女の話によれば、レベルっていうのはロールプレイングゲームとかのレベルと同じ様なものらしい。
ただ、レベルが上がる条件は色々あって、身体を鍛える訓練や修行だったり、頭を鍛える勉強だったりをすれば上がる場合もあれば、それこそゲームと同じ様に敵を倒す事によっても上がるらしい。
それは戦闘経験からの経験値の様なものでレベルが上がる部分もあれば、強いエネルギーを持つ生物を殺す事によって、そのエネルギーを獲得吸収し、それを自身の中で消費する事によってレベルを上げる事も出来るそうだ。
しかも、そのエネルギーを消費するタイミングは、やり方によっては自分で決められる様にもなるそうで、それこそ、そのエネルギーを消費せずに貯め続ける事も出来るらしい。
エネルギー消費でレベルを上げる場合は、自身が望む能力強化が出来る傾向にあるそうだが、強く望んだとしても種族によっては別の能力が強化されてしまう可能性が高く、種族の壁を超えるには奇跡か大量のエネルギーが必要だとされているのだそうだ。
因みに、今迄の自分が鍛えてきた能力に沿ってエネルギー消費のレベル上げをする時に最適な強化をするのが理想的な成長と言われているらしいんだけど、ダクネは腕力強化を強く望み過ぎた結果、かなりの腕力を手に入れたけど他の能力とのバランスが取れずに力加減が下手になったらしい。
エネルギー消費によるレベル上げ及び能力強化は神殿で祈りを捧げる事によって出来るらしいのだけれど「力の神様にばっかり祈ったの?」と聞いてみたら呆れられてしまった。
力の神様なんていないのかな? どうやら俺にはまだまだ知るべき事が沢山有るみたいだ。
「あっ、あそこだよぉ。どうだぁ、凄いだろぉ?」
そんな話をしているとクランの本部の近くまで来たらしく、ダクネが立派な飾りが付いている鉄柵の門のある建物を指差す。
お洒落かつ立派な迎賓館の門みたいな感じで、門扉より上の部分に虎の顔っぽいオブジェがあり、その眼下に居る本部に訪れる者を見極めているかの様だ。
その門のかなり奥には旧なんとか庭園にあるような趣のある洋館が見える。
見た感じ、敷地はかなり広い。
「確かに凄い。と言うか凄過ぎるよ。これってクランの皆で稼いで建てたの?」
「違うよぉ。元々はジョーさんの家なんだってさぁ」
「ジョーさん凄いな。凄過ぎるよ。何者なのよ? って言うかダクネが自慢できる要素が無いよね?」
「えへへぇ」
「そこ照れる所? まあいいや、それでクラン本部では何をどうするの?」
「クランへの登録とぉ……あれぇ? それだけかなぁ?」
え、それだけ? ゲームとかライトノベルだと、先ずは冒険者ギルドでギルド発行のカードを作って貰って身分証の代わりにするパターンが多くて、クランみたいなのはギルドでの登録の後だった気がする。
その事を聞くと、最初にクランを作った人達はそうだったらしいんだけど、ダクネ達はクランへの登録をしてから冒険者ギルドで登録したらしい。
その方が冒険者ギルドも安心してギルドカードを発行できるとの事、クランの信用度が高いからだそうだ。
ただ、クランに所属する人が何か問題を起こした場合は、クランはギルドから罰を受ける。
因みに問題を起こした人に対してはクランが厳罰を与えるので、問題を起こさない方がいいよと脅された。
話をしながら歩いていると、いつのまにか門の前に着いた。
ダクネが虎の顔っぽいオブジェに「ただいまぁ」なんて挨拶している。
このボクッ娘は不思議ちゃん要素もあるのか? なんて事を思っていると……
「おかえりなさいませ」
「虎のオブジェが話した……」
「彼女はねぇ。家精霊なんだよぉ」
虎の顔っぽいオブジェが話して吃驚している俺に、彼女は家精霊だから話せると言うダクネ。
いきなり家精霊と言われても理解できなかったけど、ダクネが説明してくれた。
家精霊とは家に宿った精霊で家の管理や守護をするらしい。
執事的な感じなのかな? 取り敢えずそう納得しておこう。
虎の顔っぽいオブジェは家精霊の顔の代わりになるそうで敷地内にはいくつもあるそうだ。
因みにダクネが説明をしている間、彼女は黙っていた。
分をわきまえている感じがなんとなく執事やメイドっぽい。
まあ、執事やメイドなんてそういう喫茶店の人達しか知らないから適当だ。
それすらもTVやネットで見た知識なだけで、勿論行った事なんかない。
「宜しくお願いします」
「こちらこそ宜しくお願い致します。大変失礼ですが、お名前を窺っても宜しいですか?」
「タンミノです」
「タンミノ様ですね。有難う御座います。私はクランの管理を当主様に任されております雅と申します」
「雅さんは家だけじゃなくてクランの管理もしてるんですか?」
「はい。この敷地に入る事が許可出来るのはクランメンバーかクランメンバーがお連れになるお客様だけです。つまり敷地に出入りする人をチェックする為にはクランメンバーの把握等もしなければいけません。それ故に当主様からクランの管理もするように仰せつかりました」
「ジョーさん……えっと、当主様にとても信頼されているんですね」
「有難う御座います。タンミノ様はお上手ですね。私、とても嬉しいです」
なんで気に入ったのかわかんないんだけど、虎の顔っぽいオブジェが嬉しそうにしている。なんかシュールだ。
「むぅ? 雅ちゃん? タンミノは僕のなんだからねぇ」
ダクネが俺の腕に自分の腕を絡ませてくる。
すると必然的に、むにゅっと柔らかなおぱぱぱいが当たる……それは嬉しい、嬉しいけども、そもそも俺はダクネのものなんかじゃない。
俺の事を自分の玩具か何かだと思ってるのかな? だとしたら、そう言うのは嫌だな。
しかし……見た目にあったなかなかのものをお持ちでらっしゃる。
いや、初めての感触だから他の人はどんなか知らないけど、その感触はネガティブな感情を忘れさせられちゃう位には夢見心地だ。
「それでタンミノ様はクランに登録なさるのですか?」
「え? はい、そうさせて貰えるなら」
「それではクラン登録にあたりタンミノ様の検査をさせて頂きますね」
そう言うと、虎の顔のオブジェが立体化して身体を持つと、俺の傍に降りてきた様に見えた。
不思議な事に、虎のオブジェはそのままだ。
虎は俺の周りをグルッと回るとポワンと言う効果音と共に煙になった。
煙が晴れると、そこには燕尾服を着た女性が立っていた。
え? どういうこと!?




