四十四話目 中級冒険者フリオ
44.
ドアの先はやたらと長い一本道だった。
とは言え、分岐が無いだけで曲がり角はやたらとあり、そのうえ角を曲がる度にゴブリン達と戦闘と言う面倒なものだった。
だけど、ゴブリンは一体か二体しか同時に現れなかったので、その戦闘は言ってみれば作業みたいなものだったけれど。
そして今、俺の目の前には真っ直ぐに進む道と右に曲がる道がある。
ようやく現れた分岐点だ。
いつもなら迷わずに右を選択するんだけど、今回は保険の意味も兼ねてノワールに気配を探って貰った。
「真っ直ぐ行くとさっきの子供達に会う事になりそうよぅ」
はい、右に曲がるの決定。俺は右に曲がり、真っ直ぐに伸びる通路を暫く進む。
すると、正面にドアがあったので迷わずに開けることを選択する。
ドアを開けるとバスケットコートが二面は余裕で作れそうなスペースがある。
そして、これまで迷宮内で戦ってきたゴブリン達とは持っている雰囲気も装備も違う体格がやや良い二体のゴブリンが待ち構えていた。
これまでのゴブリンがボロ布服だったのに対して鎧を身に纏い、手には棍棒ではなく剣と盾を持っている二体のゴブリンに一筋縄ではいかないかもしれないと予想する。
ついさっきまで戦闘が作業の様になっていた事もあり、油断が無い様に気合を入れ直す。
そして魔力の腕を作り出すとフランを呼んで火を纏う。
二体のゴブリンは一瞬怯むけど、咆哮をあげると盾を構えながら剣を突き出して走って俺の方に向かって来る。
俺はタイミングを合わせて魔力の腕を一振りする。
「あれ?」
予想に反して二体のゴブリンはあっさりと倒されてしまった。
そして出現する宝箱。開けて中身を見るとブーツが入っていた。
収納して何か確認すると、上質なブーツとなっていた。
「迷宮造りし神様、ありがとう」
神様にお礼を言うと二体のゴブリンを倒した事によって出現した新しいドアを開ける。
ドアの先には、円筒状の何かに向かってついていたドアと似たドアがある。
ドアを開けようとドアノブに手を掛けるとドアの上半分が点滅した。
「これって……」
上に参りまーすって事なのかな? 入口がドアってのが変だけど、やっぱりこれエレベーターだね。
ちょっとドアノブを回してみようと試みたけど、動かなかい。
チン。
到着した時の音がまんまエレベーターじゃないですか。ドアが自動的に開く。
上に行くと思うけど、とりあえず中に入ってみた。相乗りする人は誰も居ない。
ドアが自動的に閉まりエレベーターと同じ感覚を受ける。
確実に上に向かってますね。
チン。
あっという間に到着でドアを開けると目の前には階段とドアが有った。
階段を登るとやっぱり受付で、さっきのオジサンがいるので話し掛けた。
「もしかして、もう一階層を制覇したんですか?」
「あ、はい。たぶんそうだと思います」
「ははは、さすが闘王美人の弟子ですね」
オジサンはなんだか乾いた笑いだ。嫌な事でも思い出したのかな?
「あの中の魔道装置で二階層に真っ直ぐ行けるんですか?」
「そうです。直ぐにでも行かれますか?」
「はい。フリオさんを驚かしてきます」
「あはは。それは良いですね。期待しています」
「有難う御座います。失礼します」
振り返り階段を降りていく。
ドアを開けてエレベーターの様な魔道装置の中に入ると一から二十の数字が書いてあるボタンが有る。
二のボタンを押すとエレベーターの様な魔道装置は下へと向かった。
エレベーターの様な魔道装置が止まる。ドアを開け外に出ると目の前にはドアが有る。このドアを開ければ二階層の始まりって事だね。
ドアを開けて少し進むと左右の分かれ道、どちらの道の先も突き当りで三方にドアがある。
そのドアを開けると、猪っぽい敵が出現し俺を見るなり突進して来た。
余りにも勢いがあるので魔力防御壁に頼らずに普通に避けてしまった。
勢いはあるけど、まさに猪突猛進で真っ直ぐ向かって来るだけだったから簡単に避ける事が出来た。
すると、凄まじい衝撃音が鳴り響く。どうやら壁に激突したみたいだ。
そして光の粒子となって消えていく。残念な奴だ。
消えていく時に、じっくりと見たけど牙が無いから豚かもしれない。
アイテムウインドウで成果を確認すると上質な豚肉と表示されている。
「やっぱり豚なのね」
迷宮の構造は一階層と今のところ変化は無い。
出て来る敵の数のパターンまで、ほぼ一緒だった。
六つの部屋で六頭の豚を倒し六つの宝箱を開けた後は長く続く一本道だ。
一階層と同じ様に角を曲がる度に遭遇する豚を仕留めながら暫く進むと、豚二頭と戦っているフリオさんを発見した。
助けが要るか聞いたら不要だと言われたのでフリオさんの戦い方を見学しようと思ったら、俺の近くにも豚が二頭出現する。
壁に背をつけて豚を誘い、突っ込んで来たら避ける。
すると壁に激突して消える豚。ちょっと哀れだ。
「二十年も普通に戦ってきた自分が馬鹿に思えてくるよ」
俺の戦い方を横目に見ていたフリオさんが文句を言ったけど、次に豚と遭遇した時には俺と同じやり方で戦っていた。
話したり敵と戦ったりしながら、暫く一緒に進んでいたら分岐点に辿り着いた。
「俺はこっちに行って、もっと豚肉を獲って来るわ」
フリオさんは中級冒険者だけど、二階層と九階層を主戦場としている。
二階層で獲れる豚肉と九階層で獲れる牛肉が目当てだと言う。
だから豚を一頭でも多く倒す為に、階層内をくまなく歩くのだそうだ。
しかし、二と九で肉が獲得出来ると言うのは、まさか駄洒落なのか? だけど、二も九も誕生世界では違う言い方の筈だから、駄洒落ではない筈。
でも、もしかして? と思い、二十九階層でも良い肉が獲れたりしますか? と聞いてみたら、よく知っているなと褒められた。
ここの迷宮造りし神は駄洒落が好きな様だ。親父ギャグが好きな人と気が合う事だろう。
フリオさんは上級冒険者になり二十九階層で特上肉を獲るのが夢なんだけど、二十階層の出口前の敵にどうしても勝てないのだそうだ。
自分が肉好きと言うのが一番の理由なんだそうだけど、フリオさんは肉を獲って家族を養う金を稼ぎ、何日かに一回は二十階層の出口前の敵に挑む。
そんなフリオさんを肉屋と蔑む冒険者もいるらしい。
その話を聞いた俺の顔を見たフリオさんがニッと笑って「ありがとうな」と言ってきた。
俺はどんな顔をしていたんだろう? ただ、フリオさんがニッと笑ったので俺もニッと笑っておいた。
ちなみに出口前の敵と言うのは、その階層に出て来る雑魚敵より少し強い同種の敵だそうで、ゲーム的に言えばフロアボスなのかな。
ただし、十階層と二十階層の出口前の敵はフリオさんの話によると、その階層に居る雑魚敵とは別種の敵なのだそうだ。
もしかすると、三十階層と四十階層も違うかもしれないと言っていた。
俺はフリオさんと別れてフロアボスの居る部屋に向かう。
ドアを開けると、今迄の豚よりも一回り以上大きい豚が二頭居る。
大きな牙が生えているから、もしかしたら猪かもしれない。
室内に入ると待ってましたとばかりに、猪が二頭共に突っ込んでくる。
大きいから鈍重と言う訳ではなく、むしろ足が長いからなのか豚より突進速度はある。
でも直線的だから、やっぱり簡単に避けられちゃうんだよね。
ただ、さすがフロアボスと言ったところなのか、壁に激突しても二頭とも消える事は無かった。
しかし残念な事に二頭共に壁に牙が突き刺さってしまい、身動きが出来なくなっている。ちょっと哀れだ。
魔力の腕を練り上げて一頭ずつ殴ると無残にも消えてしまった。
この階層での魔力使用はこれだけだった。
俺もここで肉を稼ごうかな? でもフリオさんと被るからやめておこう。
猪が消えて宝箱が現れる。
宝箱に肉が入ってるパターンは嫌だなと思ったけど、中には剣が入っていた。
さっそく収納してアイテムウインドウで確認すると牙豚の剣と表示されている。
「豚だったのね」
牙豚を倒して出現したドアから外に出る。
目の前にはエレベーターの様な魔道装置。全く一緒だ。
そんな感じで、五階層までは全く同じパターンだった。
因みに三階層の敵は角が一本生えている兎、一角兎が雑魚敵だった。
兎肉が手に入るかと思ったら角と魔石ばかりで、肉が手に入る事は稀だった。
なるほど、効率が悪い。
でも稀とは言え入手出来るんだから、もしかしたら二と九で肉は偶然だったかもしれない。
迷宮造りし神様、濡れ衣を着せてごめんなさい。
フロアボスは二本の角が生えた二角兎で戦闘もあっけなかったから、下の階層に行くほど簡単になってない? なんて思ってしまった。
四階層は犬だった。狼かと思ったら犬だった。
入手アイテムは犬の牙と魔石がほとんどで稀に犬肉。
犬肉はネットで調べると出てくる姿焼きの画像を思い浮かべてしまい、アイテムウインドウから取り出す気にはなれない。
フロアボスは角が一本生えている犬で一角犬。
三階層の兎は雑魚が一角でボスが二角だったのに四階層では雑魚が無角でボスが一角ってランク下がってない? なんて思いつつ対戦、瞬殺。
すると五階層では、その一角犬が雑魚でフロアボスが二角犬だった。
なんだろう? このちょっと捻ってくる感じ、微妙に腹立つ。
五階層の出口からエレベーターに似た魔道装置、もう面倒だからエレベーターで良いや。エレベーターに乗ったらフリオさんと再会した。
「え? お前さん、もう五階層制覇したの?」
「はい、そうですよ。あ、フリオさん犬肉入手したんですけど、要りませんか?」
「やたら早いな。え? 犬肉? そりゃくれるって言うなら有り難く貰うけど良いのかい?」
「フリオさんにはお世話になりましたから、受け取ってください」
そう言ってニッと笑う。よし、要らない物の処理出来たよ。
と思ったけど、現物を見なくちゃいけないのか……まあ、アイテムウインドウの中にずっと入っているのもなんだし、仕方が無い。
犬肉を取り出すと想像してた物と違って普通の赤身の肉の塊だった。
なんだか損した気分だけど、フリオさんが喜んでいるんだから良しとしよう。
「じゃあ俺はこのまま九階層まで行くからまたな」
「はい。俺はここで降りますね」
六階層についたので、フリオさんと別れてエレベーターを降りる。
暫く歩いたけど六階層もこれまでの階層と造りは一緒っぽい。
ただ、突き当りの三部屋で出現する敵が一体ずつ増えた。
一本道での敵も一体か二体ではなく、三体の時もある。
因みに出現する雑魚敵は大きな蛙だ。
中型犬位の大きさで、倒すと得られるアイテムは蛙の腱と魔石、剣では無く腱。
何に使うんだろう? そして稀に蛙肉や蛙の舌。
もう完全に二と九で肉は濡れ衣の様です。神様に再度謝罪。
フロアボスは雑魚敵より身体が一回り大きい、角の生えた蛙だった。
角があるのは強いって事なのかな? だけど、サクッと倒して宝をゲット。
そろそろお金が欲しいところなのに、中身は一角蛙の弓だった。
一階層のフロアボス以外はフロアボスを倒して出る宝箱の中身が毎回武器って事は、これを使えって事なのかな? それともそんな意味は無くて、宝箱の中身は決まっているのかな? 上質な服シリーズも着ろって意図は無かったのかもしれない。まあ、着心地が良いから後悔はない。
俺としては、どうせ武器を貰えるなら魔力の腕で投げる事が出来る投擲武器が良いかと思う。
魔力防御壁を殴り飛ばすのも遠距離攻撃にはなるし魔炎を纏わせれば威力も高いけど、魔力の消費が大きいからね。
投げナイフとかクナイ、手裏剣。でも技術が必要そうだ。
それなら砲丸でも良いかもしれない。
魔力の腕なら砲丸投げなんかしないでスリークオーターで投げれるし、それならナイフやクナイ、手裏剣なんかより練習しなくても正確に投げられるだろう。
しかも、威力もそれなりに期待できそうだ。
「迷宮造りし神様、俺に砲丸を下さい」
七階層の攻略を始める前に言うだけ言ってみた。
七階層も今迄の階層と造りは同じかな? 突き当たりの三部屋で宝箱が出る度に砲丸下さいと祈っていたら三つ目の宝箱に砲丸が入っていた。
アイテムウインドウで確認したら鉄球になっていたから正確には鉄球だ。
「ありがとう神様!」
そう叫んだけど、鉄球は重くて持ち歩くには不便だった。
収納しておいて、必要な時だけ取り出そう。
しかし、この収納は限界が無いのだろうか? もうかなりの質量だと思うんだけど……まあ、収納出来なくなった時に考えればいいか。
因みに七階層の雑魚敵は猿。大きさは日本猿くらいかな。なかなか素早い。
でも鉄球を投げたけど当てる事が出来なかったのは、その素早さが原因と言う訳じゃない。
疾風のペドロの方が素早かったし、魔力の腕で殴り飛ばす分には簡単だったからだ。
結局、何か新しい事をする場合は練習と実戦が必要って事だと思う。
或いはスキルかな? 以降、俺は敵と遭遇する度に先ずは鉄球で攻撃を仕掛ける事にした。
外す度に壁に鉄球が減り込むから少し面倒だったけど、その甲斐あって七階層のフロアボス戦の前には、鉄球の当て勘も少しはマシになってきている気がした。
フロアボスは一角猿。雑魚猿よりも一回りどころか二回り以上は大きい。
だけど、大きいって事は鉄球も当たり易いって事な訳で。
三体の一角猿が縦に並んで突っ込んできたから、これ幸いと鉄球を投げる。
ボボボ、ズガン。
こんな感じで音が鳴った後は胸に穴を開けた三頭の一角猿が光の粒子になり、その先の壁に減り込んだ鉄球が残った。なかなかの威力だ。
『投球スキルを覚えました』
例の声が久々に聞こえた。と言うか、投擲じゃなくて投球スキルなのね。
フロアボス戦後の宝箱の中身は棘付きの鉄球だった。
モーニングスターに付いている鉄球みたいな感じで、名前は棘付鉄球とそのまんまだった。
やっぱり、この迷宮造りし神様はこちらに必要な物を宝箱の中身にしてくれるのかもしれない。




