三十五話目 思惑
35.
もう、街に渡る為の橋が近くに見えている。
今度は流石に詐欺にあわないだろうな……
「あ」
橋の手前に人が立っている。
また訪問者詐欺だったりするのかな? 嫌な思い出が甦る。
でも今だったら、あの時と同じ状況になっても対処できると思う。
そう考えたらほんの数日の間に俺って急成長したって事なのかな? 男子三日会わざれば……何だったかな? まあ、そんな感じ。
「あの、少し良いですか?」
「はい、なんでしょうか?」
考え事をしながら歩いていたら、橋の前に居た人に話し掛けられた。
クルクルとした茶色い巻き毛の女性で年齢は十代後半ぐらいかな? 俺と同じ位の年齢か。
まあ、女性の年齢を当てる自信はないから実際は何歳なんだかわからない。
だけどなんにせよ、同年代っぽいとなると心がざわついてしまう。
大丈夫なのは侑生さん位だ。
「貴方は訪問者ですか?」
「え?」
背が少し低いからか、上目遣いでジッと俺をの目を見つめながら問い掛けてくる顔は、なかなかの破壊力でドギマギしてしまう。
それなのに彼女の瞳から目を離す事が出来ない。
なんだか、彼女の茶色い瞳に吸い込まれそうだ。
同年代の女性は苦手なはずなのに、まるで催眠術に掛かったかの様だ。
「にゃあ」
「ちっ」
何時の間にか現れた猫状態のフランが俺に纏わりつき、よじ登ってきた。
爪立てないで、服が破けちゃいそうだよ。
でも、爪がささる感触のお蔭でボーっとしていた意識がハッキリとしてくる。
と言うか、この子、舌打ちしたよね? どういうことだ? もしかして俺に何かしようとしたのかな? それをフランが上手く邪魔してくれたのかもしれない。
警戒しないと不味いな。
危ないのは瞳かな? 見ない様にしよう。
だけど、何者なんだろう? シエラの手先とかだったら、俺の状況ってかなり不味い気がする。
取り敢えず、質問には答えずに逆に質問を返してやろう。
「もしも訪問者だとしたらなんなんですか? と言うか、どちら様ですか?」
「私の名前は今は明かせません。ですが、貴方が訪問者であると言うのならば、明かすとしましょう」
「そうですか。でも残念ながら、俺は訪問者じゃありませんよ。それでは失礼しますね」
「本当に?」
「急いでるので」
彼女はそう言って、また俺の目を覗き込む。
目を合わせないようにして、急ぎ足で彼女から離れる。
一体、なんだって言うのだろう? 安全だと言えない場所でゆっくりとしていられる立場じゃないことを思い出し、そそくさと立ち去る。
巻き髪の女性がまだ何かを言っているけれど、無視してしまおう。ごめんね。
カチカチ。
人前で話さないようにしつつ、でも用事があってどうしても話をしたい時に伝える方法として、ノワールが声は出さずに口を開け閉めしてカチカチと音を鳴らすのをサインとする事にしたんだけど、早速使ってきた。
指輪を耳に近付けて話を聞く
こうすれば知らない人が見ても指輪は俺の手の動きに合わせてカチカチなっているとしか思わないだろうからだ。
指輪を耳に近付けた後は、ノワールには小声で話して貰えば更に安心だ。
「今の子、主様に傀儡の術をかけようとしてたのよぅ」
「にゃあ」
「フランちゃんが行動しなかったら不味かったわよぅ」
「やっぱり、そうだったんだ。ありがとなフラム」
「にゃあ」
しかし、傀儡の術ってなんだよ。
ノワールに説明を求めようと思ったけど、橋を渡り衛兵達の詰所が近付いてきたから話を切り上げ、詰所に向かった。
「アルム!? 無事だったのか!?」
たまたまタイミング良く詰所から出て来たルイスさんが、俺の顔を見るなり駆け寄ってきた。
うお!? 殴られる!? と思うほどの勢いだったけれど、ただ心配で駆け寄って来たみたいだ。
マリア師匠も含めて内密に話がしたい事をルイスさんに伝える。
「そうか、それなら丁度いい。今からマリアの所に行こう」
「仕事のほうは大丈夫なんですか?」
「お前、裏組織の連中に誘拐されたんだろう? 立派な証人だ。保護しないとな。仕事のうちさ」
「ありがとうございます」
夜になると裏組織を潰しにマリア師匠が動いてしまい所在がつかめなくなるからと、ルイスさんと俺は足早に今なら居る可能性が高いマリア師匠の店に向かう。
ドアから誰かが蹴り飛ばされるという事も無かったので、逆にマリア師匠が居ないかもしれないと心配してしまったけれど杞憂だった。
「ただいま帰りました!」
「アル坊かい!?」
大きな声で挨拶すると、マリア師匠が厨房から飛び出して来る。
さっきのルイスさんよりも凄い迫力で素早く俺に近付いてくるので思わず魔力防御壁を張りそうになってしまった。
まあ、たぶん張ったとしても間に合わなかったと思う。
凄まじい勢いと速度で俺はマリア師匠に抱き締められていた。
しかも力強く頭を抱えられマリア師匠の豊満な胸に顔を押し付けられている。
天国のような状況だけど、窒息して普通に天国に逝ってしまいそうになる苦しさだ。
「マ、マリア師匠、苦しいです」
「おっと、悪かったねえ。しかし、よく無事に戻ってこれたねえ」
「ご心配掛けて申し訳ありませんでした。それに俺の為に色々としてくれたみたいで、ありがとうございます。実は今回の件でマリア師匠とルイスさんに内密にお話があるんです」
「弟子が困っている時に何とかするのは師匠の義務さ。なんでも言っておくれ。そうか、内密な話ね。分かった。ちょっと、こっちに来とくれ」
ルイスさんと俺は、マリア師匠の後に付いてスタッフルームへと入っていく。
マリア師匠がスタッフルームの壁に手を当て呪文の様な言語を何か呟くと、そこから魔方陣が展開し扉が出現する。
扉を開けて中へと促されたので入ってみると、さっきまで聞こえていた周囲の雑音が全く聞こえなくなった。
変な言い方だけど、怖い程の静けさが室内に充満している感じがする。
「ここでなら誰かに話を聞かれる心配はないよ」
「それで? 話って言うのは?」
俺はマリア師匠とルイスさんにどう話すべきか考える。
何もかも洗いざらい素直に話す事が一番良いと思うけど、それは思考破棄な気がしてしまう。
話さなければいけない内容は、シエラが誘拐犯だという事と誘拐した理由、それと今も俺が生きていると相手に知られれば、再度狙われる可能性が高いという事の三つだろう。
二人に対して、なるべく簡潔にその事を説明した。
それと、シエラが結構な戦力を有している事を注意事項として伝える。
マリア師匠はそれを聞いても余裕そうにしている。実際余裕なんだろう。
それに、潰すべき相手が明確ならきっと楽なんだろうな。
心なしか楽しげな顔をしている。流石としか言いようがないです。
ルイスさんはと言うと、逆に渋い顔をしている。
「相手が分かったのは良いがマリアは簡単に手を出すなよ?」
「どういう事だい?」
「お前が裏組織を潰した正当性を証明するのに俺がどれだけ骨を折ったと思ってるんだ?」
「あいつらが私に手を出してきた。だから潰した。文句が有るのかい?」
「やり過ぎなんだよ」
やり過ぎ? 殺り過ぎじゃない事を祈ります。
でも取り敢えずマリア師匠がやり易くなる様な策は考えてあります。
その事を二人に伝える。
「アル坊が囮になるだって!?」
「はい、俺がのこのこと姿を現せばシエラはまた狙ってくるでしょう。それにあいつは俺の顔を見る為に姿を現す可能性も高いと思います」
「そこを一網打尽か? そう上手くいくと思うか?」
「もし上手くいかなくても次の策もあります」
「わかった。アルムには信用できる部下を交代で張りつかせよう」
「宜しくお願いします」
さて、シエラは上手く釣れるかな?




