二十七話目 二角馬ノワール
27.
宴の翌日、朝早く起きた俺はドナルべインさんと偶然会い、昨日約束した通りに半自動防御を見せる事になった。
冒険者達と戦った時と同じように不死闘技場だ。
他種族と交流の無いリーズンゴブリンが不死闘技場をなぜ持っているかと言うと始祖の母である純血エルフからの知識を得て作ったそうだ。
リーズンゴブリンの聖母はかなりの知識を有していたらしくリーズンゴブリンが他種族と交流がないのに独自の発展をしたのも聖母のお蔭だと聞いた。
なぜかリーズンゴブリンにとって俺は重要人物らしく、事故でもあろうものなら彼等の名誉にかかわるとの事で万が一に備えて不死闘技場で見せる事になった。
そこまでして少しでも技術を得ようと考えるのか? と否定意見を言う人が居るかもしれないけど、俺はそれが悪い事だなんて少しも思わない。
リーズンゴブリンは他種族に嫌悪され交流する事が出来ない。
だから何事もリーズンゴブリン内で独自に進歩していくしかない。
そこに俺のようにリーズンゴブリン達と交流する余所者が来たのだから少しでも技術を得ようとするのは当然だと思う。
「アルム殿、どのように事を始めればいいだろうか?」
「そうですね。では先ずは一人だけ俺に対して矢を射て下さい。矢を射た後に直ぐにそこから移動する事も忘れずにお願いします」
「わかりました。それでは私が射る事にしましょう。宜しくお願いします」
「こちらこそお願いします」
ドナルべインさんが弓を構え俺に狙いをつける。
「いきますよ?」
「はい、大丈夫です」
「では」
ドナルベインさんが矢を射る。
俺は視界にそれを捉える。
近距離で恐るべき速さで飛来する矢を視界に捉える事は地球での俺には恐らく出来ないだろうけどアルムの時の俺なら出来る。
見えない壁に阻まれる様に矢は俺に届く事は無く、射られた勢いのまま来た軌跡を戻っていく。
その場にドナルべインさんは勿論もう居ない。
矢はドナルベインさんの居た場所を過ぎ去り闘技場の壁に突き刺さった。
「おおっ」
「凄まじい」
「さすが名付け主様」
感嘆と称賛の声が聞こえる。
その声は素直に嬉しい。
でも俺はある事を考えていた。
魔力障壁、あるいは魔力防壁とでも言えばいいのかな? これに当たった物、矢が跳ね返るのは分かるんだけど、その軌道が不可解だ。
鏃が当たり跳ね返る。
でも矢羽の方では無く鏃が来た方向に戻るのってなんか変だと思う。
来たまま跳ね返すのだとしたら矢羽の方が来た方向に戻りそうなのになんで鏃が来た方向に戻るんだろう? 理系の人とかなら分かるのかな? 物理とかそういう系? いくら考えても俺には分かりそうもない。
「アルム殿? 大丈夫ですか? 何か問題でも?」
そんな事を考えていたから難しい顔でもしていたのか、ドナルベインさんが心配そうに話し掛けてきた。
「いえ、なんでもありません。すみません」
「そうですか。それなら次は射手を増やしても大丈夫ですか?」
「はい。ではまた射た後に直ぐにその場から移動する様にして下さい」
「はい、わかりました。皆も良いな?」
「はい!」
ドナルベインさんの部下って感じなのかな? リーズンゴブリン達が返事をして矢を番える。
十数本の矢が俺の方を向いていて、かなりの圧力を感じる。
「ではいきますよ?」
「はい」
「射よ!」
十数本の矢が俺に向かってくる。
死角から放たれた訳ではないので、その全てを視界に捉える事が出来る。
そして全ての矢は俺の魔力防御壁に防がれ跳ね返った。
またも起きる称賛の嵐。
ヤバいこれ気持ち良いんですけど。
こんなに褒められるの人生初めての経験です。
こんなに褒めてくれるならいくらだって半自動防御を見せちゃいますよ。
「凄まじいですな。ところでアルム殿は物理攻撃だけではなく魔力による攻撃も跳ね返す事が出来ますかな?」
「試した事が無いので分かりません」
「では今、試してみませんか?」
「良いんですか? こちらこそ宜しくお願いします」
「それじゃあいきますよ」
そう言うとドナルベインさんは懐から短い杖を取り出すと俺に向ける。
杖の先から青い光の矢の様な物が俺に飛んでくる。
少し不意打ちだったけれど視界に捉えさすれば問題無い。
その攻撃を認識する事によって自動的に魔力防御壁が展開される。
結果、普通の弓矢よりも簡単に青い光の矢を跳ね返した。
その後、弓矢の時と同じ様に魔法による複数攻撃をも跳ね返した俺はリーズンゴブリン達に賞賛され、良い気分にさせて貰っていた。
でも、どうすれば出来るようになるのか? と言う質問で冷水を浴びせられた気分になった。
ぶっちゃけ説明できません。
「えっと、そうですね。簡単に言ってしまえば魔力操作と想像力だと思います」
「魔力操作についてはなんとなく分かりますが想像力と言うのは?」
「想像する力ですから、魔力防御壁に関して言えば作る時にどういったものを想像して作る事が出来るか? になりますね」
「なるほど」
なんとなく話は誤魔化せたかな? 半自動防御のスキルを覚えたのはマリア師匠にひたすら蹴られまくったからだけど、それをすれば半自動防御が出来るようになるなんて、とても言えないよ。
マリア師匠と言えば俺が顔を見せてないから怒っていそうな気がする。
うーん。
嫌な予感しかしない。
顔を見に行った方が良い気がしてきた。
「想像力が豊富で有れば俺よりも強固な防御壁を作る事は簡単に出来ると思いますよ。それと多くの攻撃に何度も晒されれば、そのうち自分が攻撃を意識した段階で勝手に魔力防御壁を展開できるようになりますので、試してみるのも良いかもしれません」
「そんな事まで教えて頂けるとは、我等リーズンゴブリンはアルム殿にどれほどの感謝を送らねばならない事やら」
「いや、そんな……」
リーズンゴブリン達の感謝の気持ちは勿論嬉しいんだけれど、凄いとか褒めて貰えるだけで十分に嬉しいんだからそんなにしてくれなくてもいいんだけどな。
それに感謝とかされまくっちゃうと、この集落から出て行き辛くなる。
でもマリア師匠にまた指導をして貰う約束もしているから街に戻らないといけない。
あまりに顔を見せないと、見せた時に問答無用でしめられるに違いないからじゃない。
約束は守らないといけないからだ。
うん、そういう事にしておこう。
「あのう、話は変わるんですけど」
「はい」
「ここから一番近い所にある人が住む街にはどうすれば行けますか?」
うお、街の名前を知らないと言う致命的なミスがあったよ。
まあ他種族と交流の無いリーズンゴブリンに街の名前を言っても知らない可能性もある。
ただ浮遊大陸がどれくらい広いか分からないけど街の数なんてたかが知れてるはず。
それに街の近くにあった森だからこそシエラも俺をこの森に放置したんだろうから、この集落から一番近い街はきっと俺が居たあの街に違いない。
たぶん……
「もしや、アルム殿はこの集落を出て行ってしまわれるのですか?」
「そう、ですね。約束が有りますから……」
「そうですか……」
「でも、またこの集落に来ます! あ、あの貴方達が受け入れてくれるならですけど」
「当たり前じゃないですか! アルム殿が訪れて歓迎しない者など、この集落に居るはずがない!」
「ありがとうございます」
「ですが、その前にアルム殿をただ帰す訳にはいきません」
「え?」
なんだろう? この場所を誰か言わないように、何かされるとか? それとも何かくれちゃったりするのかな? そっちの可能性の方が高いな。
リーズンゴブリン達ってやたら性格良いし。
「集落総出でアルム殿の送別をしなければ!」
「あ、そんな。また来ますから、そういうのは大丈夫ですよ」
そんな盛大な見送りをされると困ってしまう。
もう二度と会えない心境になっちゃいそうだよ。
それってフラグになんないよね?
でも結局は盛大な見送りを拒否する事は出来なかった。
集落総出と言う訳には街の護衛上いかなかったけれど多くのリーズンゴブリン達に見送られ俺は集落を出る事になった。
「アルム殿、これを。我等リーズンゴブリンの感謝の証だ」
集落の門の前でダンカンさんが俺に指輪を渡してきた。
受け取れません、受け取ってくれなければ困るの押し問答を少ししたけれど受け取る事にした。
相手の意を受ける事も重要だって昨日学んだばっかりだからね。
「ありがたく受け取らせていただきます」
「アルム殿、その指輪に魔力を込めてみてくだされ」
「わかりました」
言われるまま指輪に魔力を込める。
指輪と言うには少し大き過ぎるそれは指甲と言って良いと思う。
馬、角が生えているからユニコーン? 二本だからバイコーンかな? バイコーンで合ってるっけ? とにかく角が二本生えている馬的な生き物の顔を模した形をしている黒銀の指輪? 指甲? に魔力を込める。
すると馬の目に光が宿り赤く輝く。
「あら? 今度の持ち主もちゃんと童貞ちゃんねえ。良いわよぅ! しかも男前のエルフじゃないのよぅ! 男前なのに童貞って悲劇ね! それとも喜劇なのかしらねぇ? あらあら笑えるわねえ」
「うわぁ 喋った事よりもキャラがオネエって事に驚きだよ」
「あらやだ! この子ったら、誰か魅惑のお姉さんなのよぅ? 恥ずかしいじゃないのよぅ!」
「そんな事は言ってないから! そんな酒やけしたダミ声の魅惑のお姉さんが居たら、お目にかかりたいわ!」
そうなのである。
魔力を込めたら指輪が話し始めたのである。
しかもキャラがオネエなのである。
そりゃ俺も驚いて心の声がバリーみたいな口調になってしまうのである。
あれですか? バイコーンのバイはバイセクシャルのバイですか? ユニコーンのユニはユニセックスですか? いや、そもそもバイセクシャルって確か両刀の事を言うんだっけ? ユニセックスの方が意味合い的にはオネエキャラに納得? でもこいつの角は二本だからユニコーンじゃないよね……って、意味わかんねーし! ユニもバイも関係ないわ! どうせ童貞には意味わかんねーよ! 糞が!
「あらやだ! 童貞ちゃんには私の魅力が激し過ぎて無口になっちゃうのかしらん? 照れるじゃないのよぅ!」
「そんな事は無い! そもそもダミ声に関してはノータッチか! と言うか意味が分からな過ぎて俺自身のキャラが崩壊してるんですけど? もう返す! お前の様なキャラ込みの指輪なんぞいらんわ!」
「落ち着きなさいなのよぅ。童貞ちゃんが魔力を通した段階で私との契約は成立しちゃってるから今更返品は不可なのよぅ」
「なん……だと?」
「申し訳ない」
俺と酒焼け濁声のオネエキャラバイコーンとのやり取りを聞いていたダンカンさんが土下座している。
「えっと、大丈夫ですから謝らないで下さい。ダンカンさんは感謝の品としてこれをくれたんでしょう? 責めるつもりはありませんよ」
「申し訳ない。始祖様も使っていたと言われている指輪でしてな。二角馬を使役し乗りこなしたと伝えられております」
「そんな物を頂いちゃって……」
ありがたい。
ありがたいけど返したい。
ノシを付けて返したい。
「始祖様が使われていたと言ったらアルム殿は固辞すると思いましてな。先に契約をしてしまえと思ったのですが……申し訳ない」
またも土下座するダンカンさん。
だけど今回は相互土下座にはなりませんよ。
まあ終わった事は仕方が無い。
それに役に立つんならオネエキャラには目を瞑ろう。
ダンカンさんに使い方を教えて貰う。
指輪のバイコーンに名付けをして自身の名を告げ正式な主従契約を結ぶらしい。
今は仮契約状態なんだってさ。
名付けと魔力供給をオネエ二角馬が気に入らなければ契約は破棄される。
一瞬、変な名前を付けて契約破棄でもいいかと思ったんだけどリーズンゴブリンの名付け主様として不様な姿は見せられないと思って真面目に考えました。
「汝の新たなる名はノワール。我、アルムを主とし仕える事を誓え」
そう言って指輪に更なる魔力を注ぎ込む。
すると以前、雅さんが虎の顔だけだったオブジェから虎の姿で飛び出して来た様に指輪から黒いバイコーンが姿を現す。
「我が新たなる名はノワール。汝、アルムを主とし仕える事を誓います」
さすがのノワールも契約儀式ではオネエ言葉にならなかった。もしかして契約した事によって主である俺の性格に引っ張られて男っぽくなったとか?
「主従契約って結婚式の誓いみたいで照れるわよぅ」
儚い夢だったようだ。
まあいいや。
さすがに主なんだし童貞ちゃんって言われないだけマシか。




