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二人暮らし

 知美の新学期が始まる前に、部屋を見つけることができた。学園町より一駅東、3DKのいわゆる公団住宅。ここからなら、市内のどこの小学校にでも通勤できるらしい。

 オレは、楽器さえOKだったら、細かいこだわりはないし。互いの経済状況を詳しく付き合わせてみれば、意外と余裕はありそうだったけど、織音籠(オリオンケージ)がいつ動けるかわからないし。

 衣食住よりも、知美に家族を増やしてやる”贅沢”のほうがいい。

 っていうオレの、我が侭は知美にはナイショだけど。



 二日の夜に知美の携帯にかけてきた兄さんの話によると、やっぱり母親のとばっちりは兄嫁の慶子さんに向かった。何でも、『知美が居ないことを話題に出さないことが気に入らなかった』とか。キリキリした空気を撒き散らす母親のせいで兄さんの娘も落ち着かず、グズるのがひどかったので、兄さん一家はいつもより早くに自宅に戻ったらしい。

 心の中で、兄さんたちに頭を下げる。

 引きちぎるように切られた親子の縁は、水圧に暴れまわるホースのようにあっちこっちにぶつかっている。


 そして母親からの電話は、相変わらず平日の昼間にかかっているらしい。父親の目がない隙にってことか。

「実家から電話がかかってきたのが、一人暮らしをはじめてから年末までの一年半で一回だけだったのに、朔矢が来ていたあの日からは毎日って、異常ですよね?」

「メッセージはなんて? まだ、見合いって言ってんのか?」

「見合いの話はあれっきりだから、スイッチのひとつは切れた、のかな? 年賀状を見たのかもしれないけど」

「携帯とか、学校の方は? そっちにもかかってるのか?」

「ううん。学校にかけるのはさすがに『みっともない』のじゃない? 携帯にかかってこないのは、多分だけど、番号を知らないのじゃないかなって」

 また、わかんねぇ親。

「教えなかったのか?」

「うーん。訊かれた、かなぁ?」 

 そんなことを言いながら知美は、首をかしげて左手の指輪を撫でている。


 早く鍵を貰って、一緒に暮らしたい。住民票を動かしたら、母親が知美にたどり着くのにアクションがひとつ余分に要る。知美の固定電話を解約したら、更にもうひとつ。

 親から、一歩でも二歩でも距離を離してやりたい。



 一月の終わりに鍵を貰って、引越しをした。

 二人での生活が始まった。



 一緒に暮らしてみると、先生ってのは忙しいもんだと実感した。

 授業のあとで会議があり、土曜日に試合の付き添いがあり。

「知美がバスケ?」

「付き添い、だけね。指導は、隣の組の先生にお任せで」

 男子と女子で試合会場が違うから人手が足りないの。とか言いながらジャージで出かけていく。

 さらに夕食のあとに採点をしていたり、翌日の授業の準備だと教科書を広げて予習をしていたり。


 だから、家事は二人で分担してこなす。オレが、家にいる時間が長いっていうのもあるけど。

「洗濯物干すのは、私がする」

「何で?」

「どこに何を干すのか、パズルみたいで面白いから」

「なんだ、そりゃ」

 そんな会話をして、知美が干した洗濯物を買い物帰りに外から眺めると……。なるほど、パズルな。

 外からは、バスタオルしか見えねぇ。家に入って、改めて見てみる。こっちからも下着は見えないようになっている。  

 これは、オレには無理な芸当だな。

 ってことで、知美の担当になった。

 その分、オレは朝食の後片付けをして窓の結露を拭く。大人二人が暮らすと結構、湿気るもので。毎朝、雑巾が絞れるほど。

 せっせと拭いているオレの首筋に冷たいものが……。

「うわ、冷てぇ」

 首に手を当てると、知美の冷たい手だった。

「外、すごく寒い。今年一番って天気予報は当たりね」

「相変わらず冷たい手だな、お前」

 洗濯物を干し終えて冷えた手を、オレの手で包み込む。オレの手も、結露を拭いていてそれなりに冷えているけど、それでもまだ知美の手よりは温かいだろう。

「冷え性だから。そういえば二学期にね、体験学習で」

 夏に二人で行ったプラネタリウム。そこに併設された科学館でサーモカメラがあったらしい。順番にカメラの前に立ったら。

「私の手、背景と同じ色だったの」

「笑い事じゃねぇだろうが。女は、冷やすと色々具合悪いらしいぞ。子供、腹ン中で育てるには適温があるらしいぜ」

「温めるって言ってもねぇ。体質だし」

 ちょっと温もってきたか。冷たい感じが無くなったな。

「正月に姉貴に貰った、ゆず茶が有ったろ? お湯沸かすから、それでも飲んで」

 平日の朝はこんなことは言ってられないけど、せめて、休日はゆっくり温もれ。



 引越しから一週間ほど経ったその日は夕食の後、確定申告の書類書きをしているオレと向かい合うようにローテーブルに座った知美はなにやらグラフを貼り付けたりしていた。翌日の授業の準備らしい。数年前に流れていた税務署の啓蒙CMの歌を口ずさみながらのオレとは違って、ものすごく真剣。

「授業って、考えてみればすっげぇライブだよな」

「そう?」

「うん。毎日、内容が変わって、それが一日五時間? 六時間?」

 オレたちのライブの何倍の時間? それも、ソロでだろ?

「すげぇな。先生って」

「朔矢の仕事もすごいと思うけど。何もないところから、音や詩が生まれるんだもの」 

 手を止めてオレの顔を見て、首をかしげる。

「何もなくはねぇよ。インプットがなけりゃな」

 あ、いまひとつ、言葉が通った。インプット、インプット。

 テーブルの下においていたネタ帳を書類の上に広げてメモを取る。

 オレの言葉は、少しずつ戻ってきていた。間に合った、かな。JINの声に。


 コツン、と、手元に振動がきて顔を上げる。

 知美が腹を抱えるようにして、テーブルに額をつけて蹲っている。

「どうした? 腹痛いのか?」

 声もなく、頷くように頭が動く。

「悪いもん食ったか?」 

 首が振られる。搾り出すように小さな声がした。

「せ、いり、つう」

「あぁ」

 なるほど。

 薬箱から痛み止めの代名詞のような薬を探し出す。裏面の注意書きの”症状”の項目を確認、と。

 台所で、グラスに水を汲む。


「痛み止め飲むか?」

 いつもよりも白い顔が上がり、伸ばされた冷たい手に薬を乗せる。グラスはざっと書類を片付けたテーブルの上へ。

「ありがとう」

「もう、休め」

 目をつぶるようにして薬を飲んでいる顔に言ってみるけど。

「これだけ片付けないと。明日の授業が、ぶっつけ本番になるから。薬が効いてきたら、続きを」

 そう言って、空になったグラスを置いて、また亀のようにうずくまる知美。

 手、いつもより冷たかったし、顔色悪かったし。

 温めたら……楽になんのかな?


 グラスをシンクに置いて、コートを取ってきたオレは知美の後ろに腰を下ろす。

「ちょっと体起こせるか?」

 ノロノロと体を起こした知美のひざの上ににコートをかける。あ、毛布の方がよかったかな?

 そのまま、立てた膝の間に知美の体を挟みこんで抱き込むように腕を回す。手を当てたら、そこからオレの体温を分けてやれるかなって。子宮ってこの辺だよな? 多分。

 数年前の妊娠中の姉貴の姿を思い浮かべて、手を置く。


「こればっかりは、代わってやれないからな」

「うん」

「手当てってな、つらいところに手を当てるから”手当て”なんだって」

「うん」

 相槌しか返ってこない。いつもの生き生きとした返事が、返ってこない。

 それがかえって『辛い』っていうことを、全身で表しているようで。

「卵子ってな、ヒトの細胞で一番でっかいらしいぜ」

「そう、なの?」

「そう。で、な。赤ん坊になれなくって今の知美の状態なわけだろ? きっとお母さんにさよならを言ってるつもりなんだぜ。その痛みは」

「何、それ」

 ため息のような、笑い声。

「産まれたての赤ん坊って泣いてコミュニケーションをとるじゃねぇ? それより未熟だから、痛みでコミュニケーションとってんだよ、きっと」

「そうなのかも」

「うん、きっとな」

 ちょっと、会話になってきたな。

 気を良くしたオレは腹に置いた手をやわやわと動かしながら

「ごめんな、まだ、お前を迎えてやれる状態じゃなくって。いつかきっと。オレたちのところに来いよ」

 まだ誰も居ない知美の腹に話しかけた。


 一度、緩んだ気がした知美の体に、キュッと力が入るのが判った。手を置いている腹が、ぐっと硬くなる。薬、まだ効いたわけじゃないんだな。

 クーっと、小さな唸り声も聞こえた。

「知美、つらいな。オレたちの子供をいつか迎えるための準備とは言っても、痛いな」


 おーい、卵。あんまり”おかあさん”いじめてやるなよ。

 いつか必ず、お前を迎えてやるから。もう少しだけ。


  Hush-a-bye(おやすみ)な。



 やっと薬が効いてきたのか。

 肩、腹、と知美の体の力が抜けていく。


 卵、約束するよ。いつか”おかあさん”と一緒に、お前を迎えるから。な。

 近いうちに、会おうな。



 四月になった。

 知美は今年は六年生の担任らしい。去年からの持ち上がりだとかで、

「始業式で教頭先生が担任を発表するの。『六年二組、原口先生』ってね。で、前に出たら、子供たちが『うっそー!』って」

「指輪、ずっとしてたんだろ?」

「してたけどね。放課後、子供たちが言うには、女の子たちは目ざといから気づいていたみたい。カレシからのプレゼントか結婚指輪かで揉めてたらしいの」

 クスクスといたずらっ子のような顔で、笑いながら洗濯物をたたんでいる。

 こっちに引っ越して、母親からの執拗な電話攻撃から離れられたからか、大分リラックスしているように見える。

 住民票も動かしたし、知美本人が言うには郵便の転送の手続きもしたらしいが、手紙が届くわけでもなければ押しかけてくるでもなし。

 スイッチが、完全に切れた。と、思いたいな。



 四月の中ごろに、RYOから連絡があった。

 翌日の午後、事務所でメンバー全員が久しぶりに顔を揃えた。

「声、見つかった」 

 JINが、言う。

 自信、有るんだな、って思わせる強い瞳をしていた。

「一度、きかせてくれるか」

 MASAの言葉に、ニヤッと笑うJIN。

「腰、抜かすなよ」

 と。

 スタジオを借りる交渉を済ませたRYOが戻ってきた。

 一時間後、という予定の時間までしばし待機だそうで。

「腰、抜ける声なん?」

「美紗はな。名前呼んだら力抜けたって」

 YUKIの質問に照くさそうに答えるJIN。好奇心がうずくじゃねぇか。

「どんな声だよ、それ」

「聞きたいか?」

「聞かせろ」

 チョイチョイと、指で呼ばれて近づく。


「耳、貸せ」

 オレの耳元に口を近づけて……。

「『オレは、この距離を縮めるぜ。お前もオレの一番近くに来い』だったか」

 なんつぅ声で、そんな言葉を。

 打ち上げで、オレが知美に言った言葉だよな。

 恥ずかしさと、JINの腰にクル声に思わず耳を押さえてしゃがみこむ。

 そんなオレを見てRYOがゲラゲラ笑う。

「SAKU、どうした。そんなに凄いのかよ」

「凄いもなにも。お前も聞いてみろ」

「どれ」

 するっと近づくRYOに、

「RYOは、ネタが無いぞ」

 と、JINが笑う。

 いいネタあるぜ。RYOには。


「JIN、ネタ提供」

 来い来いと、手で呼ぶ。しゃがんだままのオレと同じように屈むJINの耳元に、コソコソ。

「マジ? それ」

「マジマジ。言ってみろよ」

 面白そうな顔で、RYOの耳元に口を近づけて、

「『俺だけの、アルテミス』って」

 口元を押さえて、真っ赤な顔でRYOがJINにすがりつく。

 スゲェだろ? 自分が言った恥ずかしい台詞を耳元でその声でって。

「俺も聞きたい、俺も」

 YUKIが手を上げて、MASAまでがノる。


 二十年も一緒にいると、互いに恥ずかしいことの一言二言を知られているモンで。ネタの提供がそっちこっちから出てくる出てくる。

「言ってるこっちが恥ずかしくなってきた」

 なんて、言いながらJINが笑う。

「これ、集めたら、ラブソングが一曲書けるのと違う?」

 基本的に作曲も作詞もしないYUKIが無責任に言う。

「誰が歌うと思っているんだ。恥ずかしいって」

「じゃぁ、次のアルバムはラブソング特集な」

 RYOの言う言葉に、JINから泣きが入る。

「マジで、勘弁してくれって」

「美紗ちゃんに歌うつもりで」

「それは、個人的にやるからいらない」

 そうか、そうか。とみんなで笑って。

 移動の時間だ。



 スタジオで実際の歌声を聞いて、方向性の相談をして。

 織音籠が動き出す。



 その日、帰宅して、再始動の報告をした時。

 知美は、

「よかったね、よかったね」

 そればっかりを何度も繰り返して、泣いた。

 心配かけたな。もう、大丈夫だから。 

「今度の声も、凄ぇぞ。前の声の比じゃねぇかもな」

 乞う、ご期待、だよ。



 再始動とは言っても、すぐに仕事になるわけでもなくって。

 相変わらずサポートの仕事をしつつ、合間を縫うように打ち合わせをして、曲を作って。

 結果的にオレの”言葉”は間に合った。

 正月から。知美と一緒に暮らしだしてから。

 一滴ずつ水滴が溜まるように、ポツリポツリとノートに言葉が溜まっていた。

 昔、ネタ帳を書くことを教えてくれた国語の先生が言った言葉。『気になった言葉を貯めていきなさい。それはいつか芽を出す』ってことが、身に沁みて判った。

 今まで、判ったつもりだった。



 そして、それぞれが生活のためにしていたサポートの仕事は、思わぬ副産物をもたらした。

 一年間他流試合を続けていたような生活は、今までの織音籠には無かった音楽の要素を吹き込んだ。

 作曲を担当しているMASAなんて、嬉々として作曲にのめりこんで嫁さんに叱られているらしい。『ちゃんと、ご飯食べなさい!』って。


 そうして、レコーディングの目処が立ちだして、織音籠としての仕事が始まる。

 知美との休みが合わなくなってくる。

 それでも一緒に暮らしていれば、毎日顔を見られる。話ができる。


「JINの咽喉に無理はさせられないからよ。これでもまだ、セーブしてゆっくりやってんだぜ」

 ネタ帳の整理をしながら、知美と四方山話。知美は三日後からの修学旅行の準備の手を止めて、オレの前に座る。

「じゃぁ、無理をしだしたらどうなるの?」

「もっと曜日も時間もお構いなし」

 トマトを食うときみたいに顔を顰める知美。

「っつうのは、さすがに若い頃だけだぜ。元々うちはあんまり、そんな無茶はしねぇ方だし」

 今でも約一名、そんな生活をしているヤツが居るけど。

 MASAは、今日は叱られずに飯、食ったかな?

「大体、咽喉のために酒もコーヒーも飲まないJINに無茶させられねぇよ。オレたちは楽器壊しても、直るけどな。あいつは生身だから。それでも、やっちまったモンな。今回は」


 本格的に織音籠として、ライブ活動を始めた十九歳のころ。『このまま、進まなきゃって使命感が出た』とか言って、酒とコーヒーを絶ち、大声で笑うこともなくなったJIN。

 デビューから十年で癒し系と呼ばれるようになった時に『いつまでもシャウトできるわけじゃないから。咽喉の健康の方をとる』と言って、好きだったシャウトを封印したJIN。

 いくつも、我慢してきたのにな。

 ストイックなまでのアイツの生き方を思うと、ため息が出る。


 知美が、そんなオレを心配そうに覗き込む。

「朔矢も。私が留守の間、無理したらダメよ」

「りょうかーい」 

 お前が、修学旅行の間。いい子にして待っているよ。先生。



 知美の誕生日のころだったか。

 昼食をとっているときに、JINが言い出した。

「SAKU。お前のさ、結婚式」

「うん?」

「事情があるって、言ってたけど……」

 お前な。あれ、正月だったろ? 半年以上たつのに、まだ、気にしてたのかよ。

「あのな。ぶっちゃけて言うと、半分駆け落ちしたみたいなモン」

「見合いだろうがよ」

 横で聞いていた、RYOに突っ込まれる。なんだか、こんな会話どっかでしたぞ。

「ちょっと、向こうの親と話が拗れてな。結果的に、知美が勘当されてんだよ」

「活動休止が……」

 コラ、JIN。勝手に決めるな。


「根本的にミュージシャンつうのが、許せんらしいから、関係ねぇって」

「そうは言ってもな。女性って、結婚式に憧れあるんじゃないか?」

「そのうちに、写真だけの結婚式っての? あれ、やろうかって言ってる。普通に式挙げて、披露宴してたら、すっげぇ金額になるだろ」

 百万円単位での出費をするなら、違う贅沢をさせてやりたい。

 ふっと一人、違う世界に意識が行きかけたオレをRYOが呼び戻す。眼鏡の向こうの色素の薄い瞳が、輝いている。なんか、思いついたな、コイツ。

「SAKU、会費制の結婚式って知ってるか?」

「二次会みたいなもん?」

「うーん。イメージは、そうなる、かな? それだったら、どうよ」

「どうよってな。まだ一般的に知られてはない形式だろ? 知美の上司とか、どう思うかな? あいつの両親が出席してないこととか」

 オレたちと違って、硬い職業だし。親に認められていない結婚ってのが、あいつの立場に影響しないだろうか。

「じゃぁ、呼ばなきゃいいだろ」

 のほほんと、JINが口を挟む。

「呼ばなきゃいいって、お前」

「だって。上司、呼ばないといけない法律はないだろう?」

 おお。オレが”常識”に捕らわれていたぜ。式を挙げない選択をしたってのに。

「なるほどな。それなら、あとは知美がどう言うか、だな」

「お前自身は、ノル気あんのかよ」

 RYOがオレの顔をじっと覗き込む。

「そりゃな」

「じゃぁ、ひとつの策な。もし、知美さんが躊躇(ためら)うのなら、綾たちをダシにしたらいい」

「ダシ?」

「今回、苦労をかけた綾に美味いもん食わせてやってくれ。費用は出すから」

 なるほどな。嫁さん孝行な。

「お前の所が式を挙げないと、俺たちもやりにくいから。美紗にウェディングドレス着させてやってくれるか」 

 アーモンド形の目で笑いながら、JINも言う。

「やっと、決まったのかよ?」

「この正月くらいに、美紗の両親に会ってくる。一緒に住みだして四年も経つから、一発ぐらい殴られるかな」

「お前みたいなデカイの、殴るか? ウチのクマ親父じゃあるまいし」

「んー。去年、美紗の姉さんには一発、はたかれた」

「『きりゅう』さん、そんな人と結婚したのか」

「見た目は、美紗そっくりなんだけどな。中身が違う」

「当たり前だろうがよ」

 オレの知らない名前を挟みながら、RYOとJINが話すのを眺める。


 なんだかんだ言いながら、コイツら心配してくれてたんだな。



 ”結婚式”を、知美に提案したのは結局、年が明けて実家へ年賀に行く電車の中でだった。

 今更、とは言いながら、『やっても良いかな?』って顔の知美に、話を重ねていく。

「蔵塚市との境目あたりに、日本庭園があるの知ってるか? あれがさ、市の持ち物らしいのな」

「東のターミナルのもう二つほど東?」

「そう、それ。あそこのレストランが、市の職員なら安くで借りられるって。お前、市の職員だし。教員が対象外なら、YUKIのところが借りれるからって」

 YUKIの嫁さんは市役所に勤めているから完全に市の職員。教員は採用から別枠らしいから、福利厚生も違うかもしれないってことで。

「なんだか、話、進んでない?」 

「RYOが噛んでいるから、進む進む。あいつ、こういうこと好きだからよ。昔っから、織音籠の企画部長」

「じゃぁ、朔矢は? 何部長?」

「オレは、宴会部長」

「それ、仕事じゃないと思う」

 突っ込んでくるなぁ。YUKIと掛け合いをさせたくなるじゃねぇか。宴会部長としては。

「まあまあ。それは置いておいて。”嫁さん連中、ご苦労様”の会でもあるわけよ。どことも、苦労かけてるからよ」 

「ふぅん?」

「『苦労かけたな、食事でもいかねぇ?』では、なかなか『うん』って言ってもらえねぇから、オレたちがダシ」

 RYOの授けてくれた策に、知美が落ちた。

「それなら、朔矢のご両親とか、お姉さんも呼ぼうね」

「お前のお兄さんもな」

「来れるかな? 忙しいと思うけど」

「来れる日を合わそうぜ。そのために本格的に忙しくなる前に……な」

「まだ、もっと忙しくなりそう?」

「春、あたり? メディアに露出が始まるから」

「いよいよね」

 六月のアルバム発売が、再開の狼煙になる。

「見てろよ」


 新しくなった、織音籠(オレたち)を。


「動くぜ」


 今までになかった、パワーで。

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