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贄の王  作者: 糸音
第一章 贄と魔人の門

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1億の約束

「——、 …………」


 未だにぼんやりとする意識と視界の中、少年は目を覚ました。

 聞こえてくるのは、車の荷台に乗せられた鉄格子が揺れる音、その中でぎゅうぎゅうに敷き詰められた下流の者たちを縛る鎖が重なって響く音。


 周囲の人間は薄い息を立てたまま眠っている。どうやら日ごろから悪いものでも腹に入れていたせいで、毒物の効きが周囲の人間に比べて悪いらしい。


 鉄格子の外には同じように下流の者たちを閉じ込めた鉄格子を運ぶ車と、それを守る衛兵たちが、視界の限り広がっていた。よほどの大人数で多くの鉄格子を運んでいるせいか、先頭の方から巻き起こる埃や砂煙で視界が悪い。


 少年の体にも鎖が巻き付いていた。その気になれば外せるが、外したところで、だ。

 少年は眠る振りをして、薄目で状況を探った。


「なあ、よかったのか?」

「何がだ?」


 運転席の方から知らない男の声と、聞き飽きた嫌な声がする。

 嫌悪感を覚えたその声は、オーナーの声だった。


「この檻に入っている13番。お前のところの稼ぎ頭だろ。贄として差し出していいのか?」

「ああ。そいつか」


 衛兵の問いに、オーナーは可笑しそうに笑って答えた。


「いいんだ。どうせ1億稼ぐ前に贄にする予定だったから。予定が早まっただけの話だ」

「そうか」


 その会話を聞いて少年は、ほんの一瞬目を見開いたが、すぐに目を閉じて寝たふりを続けた。


「……聞こえてるよばーか」


 聞こえないように小さな声で詰った。それが精いっぱいの反抗だった。

 怒りよりも虚しさが湧いてきた。怒ったところで何ができるわけでもない。

 何もできないという現状が、自分の行いや感情の意味を静かに奪っていく。


「……ほう、これは」

「——ああ、これは過去最大の『門』だ」


 鉄格子の揺れが収まると、オーナーや周囲の人間たちは圧倒されるように、目の前で存在感を放つ、この世のものならざる門だ。

 この集団を率いていた魔人——この国の王が門に手をかざすと、門に描かれた魔法陣が周囲の空間に何かを放った。

 門から放たれたそれは、風として周囲に放出され、人の肌を下で舐めるように撫でていった。ただ風が吹いたのではない。食べ物として味見をされるような不気味な感覚に周囲の人間たちは背筋を震わせる。


 門に描かれていた禍々しい魔方陣が深紅の輝きを放つと、門が大きな音を立てながら横に開いていく。

 中には空間自体が淡い輝きを放つ、広大な異空間が広がっており、その中心部には鈍い輝きを纏った巨大な黄金の杯と、様々な生き物の骨で組み上げられた、大きな台座が存在していた。


「王。いつでも運べます」

「そうか。ただちに」

「御意」


 集団を率いていた魔人に、その傍に控えていた魔人が跪いてから、鉄格子を運んでいた衛兵たちに、台座に贄を移動させるように指示を出した。

 指示を出した魔人は、王と呼ばれた魔人と比べると、顔の上半分が人のまま残っていたりと、人間としての名残がある。


 魔人の号令で、衛兵たちは鎖で縛られた贄たちを、台座の上に運び始めた。

 運ばれていく同じ下流の人間たちを、少年は薄い目で見送って、目を閉じた。


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