エピローグ ~辿り着いた場所で~
この世界には、魔人の門がある。
血のような赤色で禍々しい魔方陣が刻まれている、黒い門の中央には、照明も何もないのに淡く怪しげな光を放つ空間が広がっている。
そして、その中央には鈍い輝きを纏う黄金の杯と、様々な生物の骨で組み上げられた台座があり、そこに指定された数の人間を捧げることで、不老不死の肉体と、人知を超えた異能を持つ、魔人になることができると言われていた。
かつて魔人が治める国が世界に蔓延り、生まれや役割で人を選別する時代があった。
そんな時代の在り方に否を付きつける様に、レリンガルドという『贄』を持たない国が少しずつその存在を大きくし始めた。
かつて、世界を変えようと、贄も魔人も支配しようとした『蒼い魔人』。
彼に操られていた魔人たちは国に戻り、その『贄』を持たない国と同盟を組んだ。
綺麗ごとを並べるだけの国に、なぜ力を貸す国や魔人たちが現れたのか、周辺の国には理解ができなかった。
そんな国の存在があっては、『贄』を使って国力を得る、自国の存在の否定になる。
そんな風に考えた国たちが、レリンガルドとその同盟国を潰さんと、戦争を仕掛けることがあった。
だが、攻め入ろうとした国の前に、必ず紅い魔人が立ちはだかった。
殺しはしなくとも、二度と戦争を起こそうという気がなくなるくらいには打ちのめされ、敗戦を期した軍の背中に、嘲るように白いハンカチを振ったという。
そんな魔人を討伐する力を得ようと、門に贄を捧げようとする国もあったが、当然、紅い魔人はその行いを許しはしない。
一方的に軍をボコした後、贄たちを彼らから奪い取る。
魔人による戦争で成り上がった大国にとって、その魔人は『畏怖』が形を成したものとして、悪魔のように語り継がれていた。
「はいはいはい! 皆手錠を外してやるから順番に並んだ並んだ! 戦争が嫌いな魔人が自由をプレゼントしてやるぜ~」
門を巡る戦いに勝利し、贄たちの手錠を外して回るギブ。
突然転がりこんできた自由に、贄たちが実感を得ずにぼんやりと自分の手首を眺めていた。
「あの……この後私たちはどうすれば……」
「ん? 行く宛わからない感じ?」
解放した者たちに尋ねられ、ギブは少しだけ考え込んでから、ニッと笑う。
「あっちの方に進めば、下流とかそういうシステムをやめた国がある。それと、向こうの方にも同じような国があるなあ。あっちが涼しくて、向こうがあったかい。好きな方に進みなよ」
あれ以降、世界が大きく変わったわけじゃない。
結局自分は戦いは好きではないし、一人でいるのは時々寂しい。
でも、前と確かに違うことがある。
今の自分には、胸を張って皆に示せる場所がある。
一人一人に案内していたところ、「む!」とギブが一人の女性の掌に反応した。
「くんくん……、これは、ケーキの香り!」
両手を包むように捕まれ、困惑する贄の女性。
「もしかして君、お菓子作るの得意?」
「へ? え、ええ。趣味でよく作っていましたけど」
「そいつはいい! 行く宛がないなら、良い就職先を知ってるぜ~」
女性は魔人から、自分の体を変形させて作った、黒いチケットのようなものを受け取った。
その魔人は、女性と、彼女についていく者たちに向かってこう告げた。
ずーっと、ずっと、あの山のほうに歩いて、いくつか山を越えるんだ。
長い道だぜ。豊かな自然があるから、道の途中で水や食料は補充しな。
歩いて歩いて、辿り着いた先に、紅い、鳥の模様が刻まれた国旗を掲げる国がある。
喧嘩が弱いけど、頭が良くて皆に優しい王様が治める、さいこーの国だ。
その国の城門の前に立って、こいつを掲げてこう言いな。
そしたら衛兵が現れて、お前らを快く受け入れてくれるぜ。
女性たちは門の前に立って、顔を見合わせながらこう言った。
知らない者にとっては、意味の分からない、首をかしげるしかない言葉。
それでも、行く宛の無い自分たちだ。とりあえずは自分たちを解放してくれた魔人の言うことを信じてみようと思う。
彼女たちは門の前に立ち、大きく息を吸って、力強く叫んだ。
「「「私はケーキを作れます‼」」」
すると門が開き、現れた橙色の髪の王様が、黒いチケット見て、嬉しそうに穏やかな笑みを見せて、皆を国へと受け入れた。
ちょうど国は建国記念日のようで、街は賑やかなムードに包まれていた。
辺境にある平和な国、レリンガルド。
下流も贄も存在しないその国では、一年に一度、悠久の平和を願って、皆でケーキとフライドチキンを食べるそうだ。
これは、贄として生まれた少年が、『自分』を手に入れる物語。
彼は門を狙う者たちや、平和を願う国を脅かす者たちがいなくなるまで戦い続けた。
悠久の先で辿り着いた平和で、紅い魔人は存分に、最高のケーキとフライドチキンを堪能したという。
~Fin~
これにて完結です。ご愛読ありがとうございました。
流行でもなく、重い空気の作品であり、正直最後まで誰も追ってくれないのでは? と思ったことが何度もありました。
しかし、ブクマがつき、離脱はあったもののレビューを貰えたり。
ランキングに乗るような作品ではありませんでしたが、貴重な時間をこの作品に割いていただけたことを、改めてお礼申し上げます。
少しでも楽しんで頂けたとしたら、感想や評価などを頂けると嬉しいです。
機会があれば他の作品でお会いしましょう!
それでは!




