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贄の王  作者: 糸音
最終章 贄たちの王

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贄たちの王

 

「なん、で……? どういう意味……?」


 困惑するセオが、ギブに向かってよろよろと歩き出した。

 本当はセオも、言いたいことは分かっている。

 そんなセオに、ギブは諭すように優しく語り掛けた。




「王様君が言ってたろ? 嵐から身を守る大木が必要だって。俺が大木で、皆は花」

「……」

「俺は悪い芽だ。一緒には、咲けない」


 覚悟の決まった声だった。

 揺るがない決意と、自分やリリアを思う優しさが籠った言葉に、ボロボロと涙がこぼれだした。


「また、そうやって……自分を、犠牲に……!」

「違うんだ、セオ。俺も一瞬そう思ったけどさ。どうやらこれが、『俺』みたいなんだ」




 今度は選ばされてなんかいない。

 自分でつかみ取った一つの決断を胸に、震えるセオの体をギブが抱きしめた。




「俺を幸せにしてくれた人の為に、頑張りたいんだよ」




 下流も上流も、贄も魔人も関係ない国を、世界を作るために、世界で最強の自分が上に立つわけにはいかない。

 それでは思想が違うだけで、構造的に今までの世界から何も変わらない。

『万』の魔人が安全を押し付けるだけの国を見て、世界は変わらない。

 だから、ケーキが毎日食べれる世界を実現するには、そこで頑張る者たちから、自分は離れた場所に身を置かなければならない。




「僕……弱っちい、何もできない人間だよ?」

「そんなことないさ。頭がいい。知恵がある。喧嘩は弱えけど勇気も優しさもある。俺にできないこと、いっぱいできる」

「僕だけじゃ……、ケーキを食べれる国は作れない」

「一人じゃなあ。だけど、リリアせんせーがいて、王様君もいる。立派に育てば学校の子どもたちだって頼りになるだろうし、少なくとも、ここにいる皆はお前の味方さ」


 な? とギブがアイゼンやリリアたちに問いかけると、皆顔を見合わせてから、一様に頷いた。

 同じ痛みを共有した、仲間たち。


 その温かいまなざしを受けながら、セオは、




「——もっと、一緒にいたい」




 ただ一つ、胸にしがみついて離れない願いを口にした。




「……俺もさ」




 小さく熱い、震える体を、ギブが優しく抱きしめた。 

 最後に、互いに、熱を刻み込むように。

 二人は何も言わず、互いの体を抱きしめ続けた。


「そんな世界が実現したときに、俺の居場所が生まれたら、必ずケーキを食いに行くよ」

「……絶対、必ず……! 実現する……!」




 セオは涙をぬぐい、ギブの体から身をはがして、真正面から向かい直った。

 改めた顔から、再び涙が零れてくる。

 声を詰まらせながら、涙をこぼしながら、それでもセオは力強く、ギブに向かって約束した。




「皆と一緒に……! 必ず、何年かかっても‼ そんな国を、世界を作る‼」

「……ああ、できるさ。セオなら。皆となら」


 背筋を伸ばして胸を張るセオの心臓に、ギブが優しく拳を当てた。




「セオが、皆の王様だ」




 ギブの言葉に、セオは力強く頷きなおした。

 その姿を見て、安心したように、名残惜しそうにギブが笑いなおす。

 セオが拳を差し出すと、ギブもその拳に拳を当てる。




「リリア!」




 ギブが背後で涙をぬぐうリリアに、手を振った。

 意図を理解したリリアが、優しく微笑んでギブの元へ歩み寄る。


 贄にされたときに、握れなくなった右の掌。


 細く白い掌を見つめてから、リリアは右手で硬い拳を作った。


 互いの熱を、相手に残すように、3人は拳を突き合わせ、放した。




 皆を背に国を去るギブたちを、その場にいた皆が決意のこもったまなざしで見送った。


 消えていく魔人の背中に、ふと、何かを思い出したリリアが「ギブ!」と呼びかけた。




「あなたが植えた雑草たち、みんな元気に育ってるからね!」




 そのリリアの報告を聞いて、「そいつはよかった!」とギブが大きく歯を見せて笑った。




「きっとそいつら、ひっそりと元気に生き続けるぜ‼」


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