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贄の王  作者: 糸音
最終章 贄たちの王

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『世界』を殴り飛ばして

 

 ギブを背に纏まっていく衛兵たちや魔人に吐き気がした。

 自分の身に危険が及んで、初めて纏まりつつある姿に狂いそうだ。

 それができるなら、なぜ最初からそうしない。


 恩に行動で返せるなら、初めから仇なんて作らなければよかったものを。


 誰かが始めた戦争に便乗して狂い始めた世界が、誰かの小さな熱に触れ、その熱に寄り添うように、淡く、確かに大きくなっていく。


 こんな風に纏まれるなら、今まで贄にされた人たちは何だったんだ。


 自分を犠牲に、国を守り続けた父は何だった。


 贄として生まれ、捧げられてきた命は何だった。


 命の価値を書き換えられ、消えない傷を背負ったリリアは何だった。


 その世界に決着を付けようと、『万』の魔人になった自分はいったい何だった。




 世界を変えようと、全てを捧げるつもりだった。

 これは世界を変えるための戦争だ。


 なのに、



「何が、喧嘩だ……」




 目の前の魔人からすれば、これは『僕』と『俺』との喧嘩でしかないらしい。




「これは戦争だ‼ 世界が変わるための‼ 戦争なんだああああああああ‼」




 アインの背後に無数の糸が束なり始め、大きな剣となって顕現する。

 城を超える大きさの、世界を両断する剣。


 皆が絶望に染まった顔で、上空の巨大な剣を見上げる中、ギブだけは剣を一瞥した後、アインの方へと向かい直ってニッと笑う。




「いいや。俺とお前の喧嘩だね」




 狂うアインに向かって、ギブは拳を前に構えた。




「だって今お前には、皆の顔なんて見えちゃいねえだろ?」




 全てを断ち切らんと振り下ろされる剣。


 その一撃の前に、真正面から飛び込んだギブが、拳を紅く輝かせ、黒い稲妻と共に、剣に向かって力強く殴り返す。

 大きな剣に、紅く伸びる細い光。


 セオが、リリアが、アイゼンが、魔人達が、贄たちが。

 細く昇っていく紅い光を目で追った。




 拳と剣が重なり、世界が一瞬だけ白く染まる。


 そして、






「おおおおおおおおおおおおおお‼」






 世界を吹き飛ばす轟音と共に、紅い稲光が炸裂し、空に浮かんだ糸の剣を粉々に打ち砕く。


 散っていく剣を目の前に湧き上がる歓声。


 膝を折る蒼の魔人。


 皆が宿る命を確かめるように互いの体を抱き合う中、ギブは一人地に膝を付けるアインの前に歩み寄った。




「アイン」


 力を使い果たし、体が崩れていくアイン。

 なんとか体の形を保っているアインの前に立ち、ギブが持っていた剣を放るように地面にこぼした。




「『話し合い』、しよーぜ?」


 真っ白になったアインに向かって、ギブは両手を広げて、おどけて笑って見せるのだった。


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