尊厳の証明
「父上……! リリアを返してください!」
「アイン! 止まりなさい、今ならまだ……!」
「返せと言っているんだ‼」
アインがすかさず糸を飛ばし、太いレーザー状の糸がアイゼンの体を貫いた。
「今のままじゃ駄目だから、僕が己を差し出しているんじゃないか‼」
アイゼンの黒い血と一緒に宙へ放り出されるリリアに、アインが再び糸を飛ばす。
しかし、糸がリリアに絡みつく寸前、アイゼンが巻き起こした黒い風が、リリアの体をはるか上空へ放り投げた。
「……ギブ君!」
「ち、ち、う、えええええええええええええ‼」
あとは頼む。と言わんばかりにギブの名を口にするアイゼンを忌々し気に睨んだ後、
アインは宙へ放り出されたリリアに飛び出した。
建物に糸をひっかけて、矢のように空中へ飛び出すアイン。
「ナイス父上~‼」
人質を伴った攻撃がやみ、ギブがようやく地面に着地する。
それと同時に、ギブが地面に手を触れ、自分を弾き飛ばすように地面を隆起させ、ジャンプの勢いを同時に重ねる。
アインから少し遅れて、ギブも宙にはじき出されたリリアに向かって飛び出した。
「いやあああああああああああ‼」
空中できりもみ状に放り出され、回転する世界に放り出されながら、宙で叫ぶリリア。
そのリリアに迫る、蒼と、紅の二人の魔人。
「リリア‼」
上から放物線を描きながら、リリアに向かって迫るのは蒼の魔人。
「こっちだ‼」
アインの手が、力強く、リリアを求めるように伸びる。
そして、下から救い上げるように迫りくる、もう一つの紅い影。
その魔人は何も言わない。
何も叫ばない。
だが、リリアの手の届く位置に、唯々黙って差し出すように手を伸ばす。
自分を掴もうとする蒼と、自分に選択を突きつける紅。
浮かぶ、3つの選択肢。
蒼か、紅。それとも何もせず、流れに身をゆだねるか。
激しく回る世界で、時が止まったように、手を伸ばす二人の姿がはっきり浮かび上がる。
そして、
「——っ‼」
リリアは紅い魔人の手に、力強く手を伸ばした。
伸ばした手に力がこもった。
何も握れなかった手が、確かに紅い魔人の手を掴んだ。
一瞬だけ早く、リリアの手を掴んだギブが、その体を抱きしめるように奪い取った。
空を切ったアインが勢いのまま、アインが用意した『贄』たちが並ぶ、城門の前に転がり落ち、
「……ギブ‼」
『万』の門の前にそびえる城壁。
その城壁の上に、リリアの膝を抱えながらアインを見下ろすギブがいた。
「リリア」
自分を忌々し気に見つめるアインを見下ろしながら、ギブが静かに語り掛けた。
「俺、戦うよ」
静かに、確かな覚悟のこもった声に、リリアも覚悟を決めた表情で頷いて、その決断に寄り添った。
自分がずっと求めていた、探していた何かは、皆が持っているものだった。
自分にも、おっちゃんにも、
セオにも、ナギにも、リリアにも、子どもたちにも。
王様君にも、アインにも。ここにいる衛兵や『贄』たちにも。
きっと、誰にでも『尊厳』はある。
「アイン。お前の言うことがいくら正しくても、俺がどんなに間違っていたとしても——」
でも時折、世界や、知らない誰かは、それを忘れてしまう。
誰もが持っているそれを、たまに世界は許してはくれない。
「お前が俺を踏みにじるなら、セオやリリアを踏みにじるなら——」
理不尽が自分を脅かしたとき、大切な人を脅かしたときに、
「お前と戦うことこそが、お前に抗うことこそが——」
それに抗うことが罪だというなら、傷ついてでもその罪を背負いぬく。
「俺と‼ 俺を愛してくれた人たちが持つ‼ 『尊厳』の証明だ‼」
世界や国が、どんな型を持っていたって、人が生れながらに宿す炎は変わらない。
その熱を守るために、門を阻む魔人として、踏みにじる者の前に立ち続ける。
胸に確かに宿った、内から湧き上がる炎。
その炎を踏みつぶさんとばかりに、アインは連れてきた魔人達を、ギブへと繰り出すのだった。




