『理不尽』に殴り返せ
「……もう一度聞こうか。僕と一緒に、新しい世界を作る気はあるかい」
「無いね‼」
明らかに雰囲気の変わった紅い魔人に、アインが改めて問い直す。
そんな問いかけに、ギブは堂々と、元気よく指を突きつけた。
「贄にするのも、されんのも! どっちも気色悪ぃからなあ‼」
「それが必要な犠牲だとしても?」
「納得した奴が一万人と一人いりゃあ否定はしないがな‼」
アインの突きつけを、ギブはおどけて笑い飛ばした。
「とりあえずアイン君反対派の代表、リリアせんせーは開放してもらおうか!」
戦いを前に、生気に溢れるギブを初めて見て、セオは初めて安心感を覚えた。
無数の嫌な選択肢の中から何かを選ぶ姿はない。
自分で見つけた自分の意思に、しっかりと足を付けて立ちはだかる魔人の姿がそこにある。
「……どうやら、君とは相容れないみたいだね」
「残念?」
「ああ」
アインが自分の元へと、縛られたリリアを引き寄せてから続ける。
「残念だ」
アインが上空から糸をレーザーのように飛ばし、ギブを襲う。
「振り落とされんなよ!」
「うん!」
ギブが自分の体を変化させ、セオが乗れる窪みと、しがみつくための持ち手を背中に作り、おぶるようにセオを背に乗せた。
セオが持ち手を強く握ったのを確認し、襲い来る糸の流星を、右に左に大きく躱して駆け抜ける。
ならばと、アインが糸を何重にも交差させ、格子上に組み上げたワイヤーを、ギブに向かって勢いよく飛ばした。
空間を刻みながら迫りくる糸。
迫りくる糸のレーザーに、セオが思わず体を強張らせるが、
「あらよっとお!」
ギブが糸を這わせる地面ごとひっくり返し、直前で糸の軌道を上空へとずらす。
せりあがった地面を目隠しに、そのまま地面をぶち破りながら、アインに向かって飛び蹴りを食らわせた。
「ぐう?!」
死角からの一撃に備え、自分の周囲に切断の糸を這わせていたが、その糸ごと踏みつけにしながら、アインの腹に強烈な一撃がさく裂する。
城の外へ弾き飛ばされるアイン。
今のうちにリリアを解放しようと、視線を宙に浮いたリリアへ向けるが、
「ああっ?!」
吹き飛ばされたアインの後を追うように、リリアがアインの飛ばされた軌跡を追って、白の外へ消えていく。
どうやら、リリアの体に、自分をつなぐ糸を巻き付けていたらしい。
「糸で結ばれた男女……、なんかエロいな」
「ギブ……」
「じょーだんじょーだん。まずはリリアの糸を切らなきゃなあ?」
セオの視線におどけて返しながら、セオから受け取った剣を構えなおし、城の外へと飛び出した。
リリアを腕に抱えながら、アインは肉薄するギブに向かい直る。
飛ばされたのは、国民たちが住まう住宅街。
「アインさん、止めて⁉ 中に人が!」
「ギブなら見捨てないだろ?!」
アインが糸を住居にくっつけ、そのまま上空から迫るギブに投げつける。
避難できていない者が残る家を、まるで砲弾のようにギブに向かって放り飛ばした。
「こっすい攻撃しやがって!」
少しだけ苛立ちを顕わにしたギブが攻撃を真正面から受け止め、家に触れる。
家を瞬時に分解。現れた住民たちの服に触れ、大きなパラシュートに変化させ、宙に逃がす。
何度も糸をひっかけて、ギブに向かって住居が飛んでくる。
「安易に飛んだのはまずったなあ」
飛ばされたアインを追って飛んだのはまずかった。
空中では地面に触れられない。ギブが得意とする、万物の形を変える異能が存分に発揮できない。
向こうもそれを理解しているのか、じりじりと距離を取りながらも、ギブを地に付ける隙を与えないよう、立て続けに波状攻撃を浴びせてくる。
リリアに加え、街にいる人たちも人質に取られれば、流石のギブも自由には動けない。
「あーあ‼ せめてリリアさえ奪い取れたらなー‼」
防御と救出と同時にこなしながら、ギブが急に芝居がかった叫び声をあげた。
セオの表情が引きつるも、アインもギブの狙いが分からず、困惑するばかりだ。
街を飛ばしながらも、その意味について考えている最中、
「っ?!」
リリアを縛る糸が急に切れ、自分の元からリリアが離れていく。
剣で切ったような、糸の断面。
リリアが飛ばされた方向へ振り返ると、
「アイン、暴走するのはそこまでだ……!」
体が再生したアイゼンが、リリアの体を抱え、アインに相対するのだった。




