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贄の王  作者: 糸音
最終章 贄たちの王

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74/83

衝突

最終話まで書き終わりました。

あと少しだけ、お付き合いお願いいたします。

 

「嫌がってんじゃん。リリアを下ろせ」


 ギブが指を突きつけると、アインの上空から透明な糸が出現し、リリアの体を絡めとりながら、彼女の体を上空へと持ち上げた。


「あぁ……‼」


 体に糸が巻き付いて、リリアの肉の形がくっきりと浮き上がる。

 糸が食い込みながら、苦しそうに宙づりにされるリリアを見て、ギブの声が一段低くなる。


「……下ろせって言ったよな? 魔人になって馬鹿になった?」

「君の言うことを聞くとは言ってないよ」

「あっそう。リリアをどうするつもり?」

「彼女を『万』の魔人にして、僕と一緒に優しい世界を作らせる」


 その言葉を聞いて、ギブの殺気がさらに強いものになった。


「リリアのさあ、昔話。聞いたことあるんだっけ?」

「うん。全部知ってる」


 ギブの問いに、アインはいつもの優しい声で返してから、


「全部知った上で、選んだことだ」


 冷酷な声になって突きつけた。

 もうアインには目も鼻も口もない。表情がないから一見何を考えているのかは分からない。

 だが、アインは本気だということを、その声色が確かに物語っていた。


「ギブ。君も、僕たちと一緒に来ないか」


 そしてアインが、ギブをいざなうように右手を差し出してきた。


「セオ君や子どもたち、君の大切だった『おっちゃん』みたいな人たち。そういう人たちの居場所がある世界を、僕たちみんなで作るんだ」


 そんなアインの右手が、黒い血と共に宙に舞った。

 真下の地面が大きな剣の刃に変化し、アインが差し出した右手を下から切り飛ばした。


 蒼い魔人の右手がボトッと鈍い音を立てて地面に落下したところで、




「——連れないね」




 アインが指の先から糸を出し、下から切り上げるようにギブに向かって糸を放った。


 糸ならば、と手をかざしたが、糸が触れた建物が鋭利に切断されたのを見て、すぐさま性質を理解。

 反射で屈んで躱したが、ギブの右手が鋭利なワイヤーで切断される。


「ギブ!」


 リリアの叫びに答えるように、ギブはすぐさま右手を再生させる。


「ほっそい糸のくせに、結構硬いじゃねえの」


 どうやら糸に手を触れ、自分の異能で奪うつもりだったらしい。


「糸の硬さは、意志の硬さ。硬度も切れ味も僕の決意の反映だ」

「なるほどなあ。カッチカチの脳みそと、キレちまった思考。馬鹿の魔人の象徴だ」


 ギブが駆け出すが、アインは進路を遮るように、格子上に糸を張らせ、ギブへ放つ。

 糸はもはや切断レーザーと化していた。触れれば体は粉みじんにされてしまう。

 そんな糸に向かって、ギブは右手に触れて、腕を巨大な剣に変化させ、


「オラぁ‼」


 糸に向かって袈裟懸けに斬撃を繰り出した。

 糸に接した瞬間、大きな火花が世界を白くした。

 硬い糸に阻まれてギブの剣は砕け散ったが、糸も形が崩れ、払われた蜘蛛の巣のように飛んで消える。


 飛ばされてくる糸のレーザーを、最小限に、右へ左へ搔い潜り、アインの前に肉薄する。


「っ‼」


 繰り出される拳を、アインがなんとか右手で受け止める。

 受け止めたと同時に、もう一方の手でギブが拳を繰り出すも、それも何とか受け止めた。


 互いの両手が両手で封じられ、二人は膠着状態になる。

 しかし、アインにはあと6本の腕があった。


 肩の背面から生えた腕が、アインの背後からギブを襲うが、


「ぐうっ?!」


 ギブが体の形を変化させ、襲い来る腕を体から生えた棘で貫いた。

 怯んだ隙を見逃さず、ギブはそのままアインの両手を握りつぶす。

 腕の先がつぶれ、強引に腕を切り離して脱出したアインの首元を、すかさずギブが腕でつかんだ。


「慣れねえ喧嘩はするもんじゃねえな」


 同格の力を持つとはいえ、ギブは何年も戦いの中に身を置いてきた魔人だ。戦闘経験の数が違う。

 喉を抑える魔人の手に、アインの脳裏に『死』の予感が一瞬よぎるも、




「……」




 その腕に、力が入る様子がない。

 それどころか、何かをためらうように、少しだけ指の先が震えている。

 ギブが気にかけるのはアイン自身と、宙づりにされたリリアにあった。


「……友達を、手にかけたことは?」

「……ねえよ」

「……そうか」


 明らかに戸惑うギブに、アインは悲しそうに声を細めてから、




「僕も初めてだ」




 迷うギブの腹を、再生した腕で貫いた。


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