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贄の王  作者: 糸音
第一章 贄と魔人の門

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 とある日の朝、部屋に響き渡るけたたましい鐘の音で、少年たちは苦しそうにうめき声をあげた。

 意識をびりびりに引き裂くように鳴り響く鐘の音のせいで、毎朝の目覚めは最悪だ。一度でいいから自分の意思で目を覚ましてみたいというのが少年の夢の一つだ。


 慣れた仕草で薄い布団を畳み、部屋の人数——、20名分の布団を、洗濯場に届けなければならない。


「今週布団係はおっちゃんか」

「おう。じゃんけんするか?」

「いいね。勝った方が先に朝飯に行ける」


 お互い歯を見せて笑い、「最初はグーと」手を振りかぶった時だ。


「おい、20番。いるか?」


 部屋のドアが開けられ、片メガネの男が部屋の中をキョロキョロと覗いた。

 時折施設に現れては、ぼったくり価格で物を仕入れてくれる商人である。


「……悪いな。頼んでた物が来たみたいだ。今日は俺の不戦敗。先に飯言ってろ」

「えー?! 久しぶりの勝利がこれじゃあ後味わりいよ?!」


 残念そうに少年が声を上げるも、おっちゃんは笑って少年の抗議をあしらった。


「しゃーねーな。布団置いとくぜ。おっちゃん」

「おう」


 布団を入り口近くに置いて、部屋の人間と一緒に外へ出ていった。

 食堂へと向かう中、同部屋の男が少年に話しかけてきた。


「20番が買い物なんて珍しいな。何を買ったんだ?」

「俺も知らねえ。教えたくねえんじゃねえの?」

「教えたくないものってなんだ?」

「さあ? エロ本とかじゃね?」


 少年が茶化すと、周囲の人間も乗って笑った。

 少年もつられて笑ったが、おっちゃんが自分に内緒で何を買うのかは気になった。

 よく本をおっちゃんは仕入れたが、本の入荷がある時はいつも自分にも報告し、読み書きの練習に使っていた。

 つまり、今回は別の何かを仕入れたということなのか。


 気にはなるが、別に詮索するほどではない。

 話題はすぐに変わり、食堂で朝ご飯を食べた後は、いつも通り少年は鉱床へと向かった。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~


 鉱床ではいつも通りガスマスクを被りツルハシを振るう。

 視界は額のライトだけだ。暗闇の中、金属と金属のぶつかり合う音が所々から響いてくるが、それも30分もすれば少なくなり、1時間もすればほとんどしなくなる。


「いってえ、まめできた……! 作業が終われば帰れるとか言ってたくせに……こんなの終わらねえよ……」

「しかも終業時刻まで残ったときには出るんだろ? ハイエナ」


 毎日毎日、聞こえの良い誘い文句に騙されてきたやつらたちが尽きないもんだ。

 背後から聞こえる弱音に呆れながらも、少年はツルハシを振るう。

 少年の背には、既に籠一杯の鉱石があった。


「まあ、今日に限ってはハイエナの心配はねえよ。……なんたって13番がいるからな」

「ああ。一人で大勢をぼこしてしまうっていう例の……」


 本人に聞こえないよう音量を落としているが、生憎少年は地獄耳だ。一言一句漏らさず聞こえている。


「……あいつらもぶん殴りてえな」


 同業とはいえ、利用されているという点では嫌いなオーナーやハイエナ共と同じ思考だ。ハイエナが出るとわかっていながら鉱床に来ておいて、頼みの綱が他人とは情けないし、それが自分となれば少なからず腹立たしい。


「今日は速めに切り上げるか」


 どうせあと少しすればいなくなる職場だ。自分の身を守るすべは自分で身に着けてもらわないと。

 などと最もらしい理由を心の中で述べたが、単に寄生先のように扱われるのが気に食わなかっただけである。


 弱音を吐いていた者たちが長い休憩を終え、作業を再開したころ、少年は鉱石の籠を担いで、さりげなく施設に戻った。


 施設に戻ると「今日は早いな?」とオーナーが驚いたが、「気分悪くなりました」とわざとらしく口に手を当てた。まあ、気分が悪くなったのは本当だ。

 オーナーが気遣うそぶりを見せたが、少年は「ねりゃ治ります」と短く対応を切り上げた。

 奴が心配しているのは自分じゃなくて、自身の財布だ。


 シャワーを済ませて部屋に戻ると、何やら部屋が騒がしかった。

 ドアが開いていたので、中の様子をこっそりと伺うと、施設の職員2人に、おっちゃんが殴る蹴るの暴行を受けていた。


「野郎——」


 反射的に飛び出そうとしたが、視界に映った物を見て、反射的に踏みとどまった。

 職員二人の腰には拳銃のホルダーが付いていた。

 殴られるのはハイエナ共との戦闘で慣れっこだが、銃を出されては拳ではどうしようもない。

 正確に言えば、自分は何とかなるのだが、おっちゃんに銃が向く可能性を考量すればどうすることもできなかった。


「禁止されたものを持ち込みやがって! バレたら俺たちが処罰されるだろうが!」


 職員の一人がおっちゃんに突きつけたのは、何かの液体が入った小瓶だった。瓶の中に半分ほど入った液体は、不自然な青色をしていて、あからさまに毒だった。


「……」


 きっとあの小瓶は没収されるだろう。

 何もできない以上、この場にいる意味はない。万が一気付かれたときに会話が気まずくなるのも面倒だ。


 おっちゃんが殴られて漏らす嗚咽から目を背けるように少年は踵を返した。今日は救護室のベッドで寝ることにした。


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