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贄の王  作者: 糸音
最終章 贄たちの王

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俺たちの居場所

「何しに来た? 喧嘩? 話し合い?」

「話し合いだ」


 アイゼンの即答に、「そう」とギブが素っ気なく返す。

 ギブの手が自然に、セオと子どもたちの前にかぶさった。


「話し合いの前に質問良い? アインはあの後どうなった?」

「……何も言わず、国を発った」

「……戻ってくんの?」

「わからない」


 結局、あの後のアインの行方は分からないままだ。

 リリアに聞くわけにもいかないし、追える立場にもいなかった。

 返答に対し、少し顔を伏せて黙り込むギブに、「単刀直入に言う」とアイゼンが切り出す。


「保護区の者たちに手を出さないことを条件に、この国の為に戦ってほしい」


 突きつけられる、『国の英雄』の選択肢。そして、


「断るのであれば、この国と、この保護区のことを忘れ、もうこの国のことに関わらないで頂きたい」


『部外者』となって、リリアや子どもたちを見捨てる選択肢。

 突きつけられた選択肢に、セオが思わず口をはさんだ。


「……どっちも、ギブにとって嫌なことだ」

「これと同じような問いを、ギブ君はアインにもしたはずだ」


 国か、門か。

 答えないアイゼンの代わりに、その倅であるアインに突きつけた。


 痛いところを突かれ、セオも黙り込むしかない。

 それは、ギブも同じだった。


 言葉を失うギブたちに、アイゼンが感情のこもった声に切り替わって頭を下げた。

 背負い続けてきた人間の、苦悩が深く滲んだ声だった。


「何一つ本意でないことは、私にもわかっている。私だってそうなのだから。……しかし、世界は私たちの意思を尊重してはくれない。理想の欠片を叶えるために、必ず何か対価を要求してくる」


 何一つ望んでいない選択肢たち。

 いつだってそうだった。

 贄だった時の3つの選択肢。皿洗い、土木作業、鉱石掘り。

 儀式で突きつけられた、死か、魔人化。

 贄の村で衛兵たちに突きつけた、交戦か、交渉。

 立ち寄った国でナギに突きつけた、夢か、ゲロ。

 アインに突きつけた、門か、国。


 突きつけられ、突きつけてきた選択肢に、望んだものが無い時なんてほとんどだ。


 でも、必ず何かを選ばされ、選ばせてきた。


 それが再び自分の番になっただけのこと。


「ギブ君がどちらを選ぼうと、君を責めることはない。ただ——」


 頭を下げたまま、縋るような、突き放すような声でアイゼンが続けた。




「この国に、国を守る力をくれないだろうか」




 懇願にみせた問いかけに、ギブは子どもたちとセオに目をやってから、自分の胸に手を当てた。

 それを見たセオが、ダメだ。と言いたげにギブの手を引いた。


 だが、




「……俺が頑張ればさあ、セオも、リリアも、ここの子どもたちも、安心して暮らせるんだよな?」




 何か決断をしなくてはならない時に、必ず決断すること。

 そして、その決断の代償に、ギブ自身か、ギブの周囲の人間が天秤にかけられたとき、ギブの皿が持ち上がることは、もう分かりきっている。




 セオの手を優しく振り払ってから、「セオ」とギブが静かな動作でセオに向かい直った。




「この国が、おれたちの居場所だ」


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