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贄の王  作者: 糸音
最終章 贄たちの王

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尊厳がないの

 

「だからね。全部私のわがままなの。喧嘩の授業をしないのは」


 リリアの話を聞き終えたギブは、何も言わず、黙って何かを考え始めた。

 肯定も否定もしないギブに、リリアが自虐的な笑みを浮かべた。


「こんな幸せ、いつまでも続けられないなんてわかってた。ギブは偶々まきこまれただけ。だからごめんだなんて言わないで」


 目をそらしながら笑うリリアに、ギブが小さく顎をさすってから、「やだね」と向き直った。


「必要だと思ったから謝っただけ。リリアのそれとは話が違うぜ」


 否定を否定され、リリアの目が少しだけ開いた。

 だが、すぐに口をつぐみ、視界を細めてギブから目をそらす


「……ねえ、私からもギブに聞きたいことがあるの。聞いていい?」

「……いいよ」


 リリアが尋ねると、ギブは少しだけ迷ってから頷いた。答えたくないのではなく、答えられるかが不安になったのだろう。


「私、この先どうすればいい?」


 投げられた問いに、ギブが小さく、低くうなった。

 正直、一番答えられない質問だった。


「……そういうの、セオに聞いた方が早いよ」

「ううん、ギブに聞きたい。この国から離れなきゃいけないとして、どこに行けばいい? 私の居場所はどこにある?」


 投げた問いをもう一度投げ返され、ギブは気まずそうに空を仰いだ。

 返す言葉が見つからないのは、自分がバカだから知らないだけか。

 それとも、本当にそういう場所なんて存在しないからなのか。

 そもそも、それに答えられるのなら、自分は10年迷子になんてなっていないだろう。


 答えに詰まるギブに、「わかんないよね」とリリアが諦めたように呟いた。


「私にはね、尊厳が無いの」

「……そんげん?」

「大切にされる資格のこと。私にはそれが無いの。生きても死んでも、心か体、どっちかが死んじゃう。こんな世界で私が私らしく生きられる場所なんてないの。生きても、死んでも、私は大切にされない。尊厳がない」


 後半は声が濁ってほとんど言葉になっていなかった。それでも内容が聞き取れた気がしたのは、リリアの心の叫びがギブに直接伝わったからだろう。

 のどに詰まった鼻水を吐き出してから、リリアはギブに、もう一度問いかけた。


「教えて……ギブ。私……どう生きたらいい?」


 縋るのではなく、行き場のないことを確かめるための問いかけ。

 自己否定を、後押ししてほしいという訴え。


 行きたくない方向は分かるのに、行きたい方向が分からない感覚。

 その感覚は痛いほどわかる。

 だけど、探し続けることに疲れたのだろう。諦めるために、誰かに行きたくない方向へ背中を押してもらいたいのかもしれない。


 割り切れば、少し楽になれるかもしれない。

 考えないようにすれば、馬鹿になれば忘れられる辛さもあることは身に染みて知っている。


 ギブは涙を目に貯めて、自分を真っすぐ見てくるリリアに、まっすぐと視線を返した。


「——教えてってことはさあ、今だけ俺が、リリアの先生ってことでいいの?」

「……え?」


 ギブが淡々と尋ねると、リリアが少し唖然としてから「そうね」と頷いた。


「オッケー。俺はギブせんせーだ。生徒のリリアに、一つだけ授業をしてやろう」


 突然何を言い出すのか。ギブの思考が読めずにリリアは首をかしげるばかりだ。

 涙に困惑が勝ったリリアを見て、ギブがニッと笑った。


「……授業って、何? 喧嘩の授業?」

「そんなくだんねーもんより、ちょーぜつタメになるスペシャルなもんを教えてやる」


 開いたままのリリアの手に、ギブが優しく拳を差し出した。


「『じゃんけん』の授業をしよう。俺のことは今だけ『せんせー』と呼びなさい」


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