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贄の王  作者: 糸音
最終章 贄たちの王

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64/83

あなたは何で生きているの?

 1日歩き続けて、ようやく家族が住まう街へとたどり着いた。

 雲で覆われ暗い世界。街灯の明かりだけが続く暗い路地を、リリアはフードを深くかぶって顔を隠しながら静かに駆けた。フードは贄たちの衣類から拾ったものだ。


 家にようやくたどり着き、呼び鈴を鳴らした。


 この先どうしていいか分からない。

 何も考えずに家に帰ってきてしまった。


 少しの間の後、玄関に誰かが向かってくる足音がした。

 ドアから現れた母親は、リリアの顔を見て衝撃の表情を浮かべた。


「リリア、あなた、なん、で……?」

「お母、さん……」


 寝間着のまま、顔をこわばらせて自分を見つめてくる母親に、冷たい体に体温がどんどん戻ってくる感覚がした。


「お母、さ……!」


 目に涙がこみあげてきて、胸の鼓動が生を取り戻すように早くなっていく。

 優しい記憶が生まれた家の中に、母を抱き着きながら戻ろうとした時だ。


「……っ、?!」


 母親がリリアの口を塞ぎ、その体を押し返しながら家の外へと追いやった。

 なぜ拒絶されたか分からないリリアに、母親が目を伏せながら、自暴自棄になって告げる。


「見なかったことにしてあげるから、今すぐこの国から出て行って」

「え……、なん」

「あなたが生きてると分かれば、親戚まで贄にされるでしょ。反乱を企てた家の人たちは皆下流行きになったの。生き残ってるってことはあなたもそうなんじゃないの。他の身内を巻き込む前に、消えなさい」

「で、でも……私、お母さんの子ど」

「消えなさい! 私が殺して川に沈めましょうか?!」


 静かに、凄い剣幕で気圧され、リリアは声を殺して泣きながら家から去っていった。

 去り際に母親が膝を折ったが、それにリリアは気が付かなかった。


 マンションの階段を降り、1階に辿り着いたところで「ねえ」と呼び止められた。


 振り返ると、目の下に大きなクマを作った、やつれた女性の姿があった。


 たしか最後にじゃんけんをした、1階の住人の母親だ。


「あなた、連れていかれた子よね……? うちの子は、どうなったの……?」


 マンションでも美人と評判だった母親だ。

 その姿は見る影もなく寝ていないのか、肌の血色が悪く、肌が乾いて白い粉が噴き出している。

 絡まった長い髪の隙間から覗いてくる生気のない瞳から、リリアは逃げるように目をそらした。


 リリアが何も答えなかったのを見て、察した母親がうわ言のように問いかけてきた。






「……あなたはなんで生きてるの?」




 その言葉を聞いた瞬間、胸から出た息が喉を内から圧迫し、その場で大きくえずいてからリリアは逃げるように外へ駆け出した。

 。

 冷たい空気が肺の中に入ってくる。

 息が荒いのに、呼吸をしているかどうかが分からない。

 頭を黒く塗りつぶされながら、リリアは街から出た後も走り続け、走り続けて、『千』の門があった場所へとたどり着いていた。


 振り返ると、血でできた足跡がリリアの足元にまでのぽつぽつと続いている。

 布を巻いて足袋代わりにしていたが、どうやら途中で外れたようだ。


 足が土と血でグロテスクな色に染まっていたが、痛みは全く感じなかった。

 ただ、歩くことができなくなって、リリアはその場で力が抜けたように座り込んだ。


 乾いた風がリリアの頭を冷まして、先ほどまでに起こった出来事が、ゆっくりとリリアの心を侵食していく。


「あ、あああ。あああああ」


 贄にされた記憶。

 命を奪った手の形。

 撃たれる人。

 見ていただけの自分。

 失った帰る家。


 そして、


 あなたはなんで生きているの?


 失った全てを自覚させる問いが、頭の中に反響して。




「ああああああああああああ‼ ああああああああああああああ‼」




 リリアは一人、自分の体に爪を立てながら、その場で蹲って大声で泣き叫び始めた。

 濁った、壊れた、声と表現していいか分からない声が、雲で覆われた空の下、世界にひびを入れるように響き渡る。


 声が出せなくなるほど泣き続け、蹲るリリアの元に、


「……君、どうしたんだい。大丈夫?」


 車に乗ったアインが現れ、汚れを知らない白い絹のハンカチを差し出した。



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