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贄の王  作者: 糸音
最終章 贄たちの王

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門と国

 

「言っとくけど、これは俺とあんた——そしてあんたの取り巻き君達との喧嘩だぜ。くだらねえ真似をしたら、国民皆殺しだ」

「……いいだろう」


 ギブが指を突きつけると、アイゼンが合図をし、セオと子どもたちから兵を撤退させる。


「私と君の喧嘩だ」

「いいね」


 指を鳴らすギブに、アイゼンが懐から丸薬のようなものを取り出してギブの顔に投げつけた。

 空気を切り裂きながら投げられたそれを、ギブは小さく首を傾けて躱そうとしたが、顔の手前で玉が破裂し、辺りに激臭をまき散らす。


「っうぇ——、……⁈」


 下水道のドブと腐敗した魚を混ぜた悪臭に、戦いを見ていたリリアやアインが反射的にえずいてしまう。

 不快な香りに一瞬だけギブの意識が匂いに移った。嗅いだところでどうということはないが。意識を盗られる程度には不快な香りだ。


 注意がそれたギブの胸に、アイゼンが黒い霧を纏わせた剣を振り下ろす。


 ギブが腕でその剣を弾くも、攻撃を受けた腕の部分から皮膚の破片が飛び散った。カウンターで攻撃を繰り出すも、アイゼンはギブとの間に突風を発生させて強引に距離を取る。


 黒い霧が周囲の激臭をかき集めながら、ギブの顔周辺を高速で旋回し始めた。


「風を操る異能か」


 どうやら黒い霧を纏った風を操る異能のようだ。

 顔の周囲で渦を巻く風は黒い壁となり視界を遮るし、一瞬でも嗅げば胃をひっくり返すような激臭を顔の周辺に滞在させてくる。

 加え、風に撫でられたギブの顔から、火花と共に鈍い音が響き渡った。どうやらかまいたちを発生させることもできるらしい。並大抵の魔人であればそのまま切り刻まれてしまうだろう。


「おおおおおおおお!」


 アイゼンが風を体に纏い、風を使って高速移動しながら、何度もギブの体へ攻撃を繰り出した。身体能力の差を異能を使って埋めている。

 周囲の者は目では動きを追いきれず、ギブの体方飛び散る黒い血や火花で、アイゼンが何をしているのか後からわかる形だ。


「……今まで戦った魔人の中で一番つえーな」


 異能を巧みに使いこなし、勝つために搦め手を惜しまず使い、本人の剣捌きも一流ときた。

 これならば複数人の『千』の魔人相手であれば、上手く立ち回れば勝利ができるだろう。


 だが、


「⁈」


 目の前にいるのは『万』の魔人。『千』の魔人が束になっても勝てないことは、ギブが歴史に刻んでいる。

 顔を旋回する鬱陶しい黒い風に手をかざすと、それを剣の形に収束させ、アイゼンが降り下ろした剣に下から掬い上げる形で刃をぶつけた。


「っぐおおおおおおおお⁈」


 刃が重なった瞬間、衝撃で風のエネルギーが解放され、アイゼンを剣ごと上空の彼方へ巻き上げた。

 アイゼンが風を操り空中で体制を整えようとしたが、それよりも早く地面を蹴って、空中でアイゼンに追いついたギブが強烈なかかと落としをさく裂させ、アイゼンを隕石のように地面へと叩きつけてしまった。


「王⁈」


 大きな衝撃で砂煙が巻き上がり、視界が晴れると、仰向けに倒れるアイゼンの心臓にギブが片足を乗せ、その喉元にアイゼンの剣を突きつける様が現れた。


 近衛兵たちがギブに向かって剣を構えたが、「お前らも混ざる?」とギブが脅す。

 一瞬だけ怯んだ近衛兵たちに、アイゼンが「やめろ」と声で制した。


「王様君、どうする。二度としないと誓えるなら見逃してあげてもいいけど」

「……形だけの返答だった場合は?」

「それはくだらない真似になるんじゃないの」

「……」

「俺は門を狙う魔人を殺す魔人だぜ。門か、今の国か。ここで選べ」


 眉間に深いしわを寄せながらギブを睨むが、アイゼンは口を堅く閉ざし、沈黙を貫くことしかできなかった。

 その態度を見たギブが「そう」と冷たい声を漏らす。


「王様君が選ばないなら、他の奴に選ばせようか?」

「何……⁈」

「アイン」


 ギブがアイゼンから目を離し、地面に膝をつきながら、呆然とこちらを見ているアインに続けた。


「アインなら、どっちを選ぶ?」

「え……」

「——門か、今の国」


 頭が真っ白になった。

 世界は白くなり、視界に残ったのは喉元に剣を突きつけられる自分の父と、崩れた表情で自分のことを見つめてくる恋人だ。




 父か、恋人か。

 国か、理想か。




 二つに、ひとつ。



 どちらかを、




 選ぶ。




 世界がさらに白くなっていく。


 人の輪郭が消え、自分の鼓動や額の汗だけが唯々鮮明に感じられる。


 息をするのを忘れた。世界に触れるのを脳が拒んでいるみたいだった。


 遠くなっていく意識に、ギブが「選んで」と重い鎖を打ち込もうとした時だった。


「もうやめろ!! 撤退だ!!」


 答えたのはアインではなく、アイゼンだった。


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