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贄の王  作者: 糸音
最終章 贄たちの王

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ケーキの授業

 子どもたちと暫く過ごしているうちに、ギブたちはこの施設にかなりなじんでいた。

 ギブが賑やかな遊び相手で、セオが面倒見の良いお兄ちゃん、といった具合で、皆の生活に加わっている。

 ギブたちが旅の者だと知った子どもたちが「ずっとここで暮らせば?」と提案してくる程度には距離が近い。

 その返答を本気で検討するほど、二人の中でもこの国の印象は良い。


「どうする? この国で居場所を探すのもいいと思うけど」


 二人の時にセオが尋ねると、ギブが「んー」と顎をさする。


「まあ、他に確かめたいこともあるしなあ。前向きに検討ってことで」


 どこか煮え切らない返答にセオが首を傾げた。


「そんなことより、今日はアインせんせーが特別な授業をしてくれるらしいぜ。早く皆のところに行かなきゃな」

「そうだね」


 今日の授業はいつもと違うことをやるらしい。

 教室ではなく、宿舎の調理場に向かうよう前日に指示されていたので、二人はそこへ向かった。


 時間ギリギリで滑り込むと、既にアインやリリア、子どもたちが待機していた。どうやら自分たちが最後のようだ。

 全員揃ったことを確認してから、アインが皆の前に立ち、とあるものを取り出した。


「良いものが手に入ってね。さて、これは何でしょう?」


 アインが取り出したのは、白い粉のようなものが入ったガラス瓶。

 子どもたちが、瓶の中身について議論する中、「はいはいはーい!」とギブが手を上げる。


「塩!」

「おしい!」


 おしい、ということは方向性はあっている。セオは中身が何なのかに気付いたが、ここは敢えて黙っておいた。

 塩でなければ何だろうか。子どもたちがさらに考え込む中、再びギブが「はい!」と手を挙げた。


「コカイン!」

「「「こら?!」」」


 セオとリリア、アインの三方から慌てて突っ込みが入る。「違うの?」と首をかしげるギブに、「あたりまえだろ!」とセオが怒鳴った。


「でも俺、白い粉とか、塩と薬物しか知らねえぞ」

「ハハハ……これはね、砂糖だよ」

「さとう?」


 これ以上まずい回答が出る前に、アインが答え合わせをする。


「今日はこれを使って、ケーキを作りたいと思います!」


 沸き立つ子どもたちをみて、ギブが「ケーキって何?」とセオに耳打ちした。


「甘いお菓子だよ」

「甘い、ね。惜しい気持ちになるぜ」


 やりたいことリストにあった『しょっぱいと苦い以外の味を楽しむ』という項目を思い出す。

 横線が引かれていたが、悔やむ気持ちをはっきり口にするあたり、あの日以降、気持ちは前には進んでいるようだ。


「班で分かれて作業をしましょう。別れたら人数分の材料を取りに来てくださいね」


 班は予め分けられており、その組み合わせに従って、ケーキの作成に取り掛かった。アインが目の前で実演をし、リリアが各班を回ってアドバイスをする形だ。

 ギブが卵を割る加減が下手で、早速戦力外通告を子どもたちから食らっていた。珍しく落ち込むギブを、リリアが上手に励ましていた。


 作業通りに進めて、焼きあがったのは、円形のシフォンケーキだ。


「「「うわあああ……!」」」


 ふっくらと焼きあがった生地。甘い香りが熱気と共に広がり、子どもたちが感嘆の声を上げる。

 甘いものなどいつぶりだろう。大げさにリアクションを取ったわけではないが、セオも内心小躍りしていた。


「なるほど、甘いってのはこういう香りか」


 ギブも香りをかいでうんうんと頷いた。食指が湧かないから感動は薄いみたいだが、初めて体験する香りに興味津々ではあるようだ。



「それじゃあ皆。ケーキを均等に切り分けて。ナイフの扱いには気を付けてね」


 子どもたちが慣れない手つきでケーキを切り分ける様子をギブたちは見守った。

 そして、ケーキを切り分けたとき、


「はいこれ、ギブの分」

「え?」


 子どもたちがギブに切り分けたケーキが乗った皿を渡してきた。


「俺、味分かんねえから食っても意味ねえぞ?」

「皆で同じものを食べるということに意味はありますよ」


 首をかしげるギブにリリアが告げると、「それはそうかもな」とギブが小さく頷いた。


「それでは皆、手を合わせて」

「「「いただきまーす‼」」」


 一つのものを切り分けて食べるという感覚は初めてだ。

 切り分けられたケーキを暫く見つめた後、大きな口を開けて半分かじる。


「なるほど。フワフワしてて楽しいな」


 味ではなく、食感を楽しむようにギブもケーキを咀嚼した。

 なんだかんだで、初めてギブが何かを食べるのを見て、セオも安心しながらケーキを口にした。

 皆の幸せそうな表情を見て、ギブがアインに「ねえ」と問いかける。


「ケーキが毎日食える世の中になったらさ。世界は幸せになる?」


 その問いにアインは少しだけ目を丸くし、優しい穏やかな笑みで「うん」と返した。


「ケーキが毎日食べれる世界にするのが、僕の夢さ」


 アインが少し遠い目をして、窓の外に広がる景色を見つめた。

 窓の外は、温かい日差しが差し込むのどかな空間だった。

 同じ方向を見つめ、ギブも残り半分のケーキをかじった。


 ~~~~~~~


 ケーキの授業が終わると、アインは他に仕事があるらしく、名残惜しそうではあったが速足でその場を去っていった。

 片づけを終え、皆が帰路に着く中、ギブはリリアを呼び出した。


「ギブさん。私に用件ってなんですか?」

「いや、リリアせんせーにちょっと聞いてみたいことがあってさ」

「私に答えられることなら、なんでも大丈夫ですよ」


 申し訳なさそうに頭を掻くギブに、リリアは優しく微笑んだ。

 聞きたいことって何だろう。側にいたセオがギブの顔を見上げる。

 了承を得たことで、「それじゃあ」とギブがリリアの方へ顔を向けなおした。







「学校ではさ、喧嘩の授業とかしないの?」


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