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贄の王  作者: 糸音
最終章 贄たちの王

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花壇の授業

 翌日、ギブたちはリリアの子どもたちよりも早く起きて、学校の方へと向かった。

 学校では皆の分の朝食をリリアが少し眠そうにあくびをしながら仕訳けていた。

 あくびの瞬間をギブたちに見られ、リリアは恥ずかしそうに体を縮めてしまう。あの後キスの続きでもしたのだろうか。


「授業? ええ、いいですよ。子どもたちも喜ぶと思います」


 ギブたちが頼むとリリアはあっさり承諾した。

 しばらくすると子どもたちが続々と中に入ってきて、机の上に仕訳けていたパンを食べ始めた。

 先に出ていったことを子どもたちに文句を言われたが、しばらく滞在することを告げると子どもたちは不満を忘れて喜んだ。


 食べ終わった後は、所定の時間まで自由行動。早々に食べ終えた子どもからギブとセオのところへと遊びに来る。魔人への興味は尽きないらしい。

 所定の時間になったところでリリアが皆を席に着かせて朝礼を取る。

 授業は1限辺り40分構成で、午前に4限、午後2限の計6限。


「1限目は算数ですよ。昨日習った足し算をやってみましょう」


 リリアが黒板にいくつか簡単な数式を書いていくのを見て、まあこんなもんだよな、とセオは頬杖を突いた。


「この問題解ける人?」

「はいはいはーい!」

「じゃあ1問目はギブさん。じゃあ2問目を——」


 2桁の足し算なんて何年ぶりに見ただろう。習うまでもない授業に少し退屈さを覚えてしまったが、自分もこのくらいの年齢だったらちょうどならっていたっけ、などと周囲の幼い子どもたちを見て思い浸る。

 ギブも内容というよりは雰囲気を楽しんでそうだ。


 それにしても、変なチョークの持ち方だな。と、セオはリリアの手を見て思った。

 握る、というよりは伸ばした指の先でつまむ、というような持ち方だ。特段書きやすいというわけではなさそうで、リリアの書く文字や図は、所々力が入りきらないのか、やや薄い。


「あ、やべ。また折れた。加減が難しいなこれ」


 まあ、書く力が強すぎるのも問題ではある。ギブが既に3本チョークを折っている。備品クラッシャーになる前に、頃合いを見て席に着かせなければ。

 午前の授業は座学だけだった。そんな風にギブをコントロールしながらも、初めての学校ライフは今のところ平和に進行している。


 そして午後。


「それでは皆。この前、花を植えた花壇の手入れをしましょうか」


 学校の前に用意されていた花壇の前に、手袋と水の入ったじょうろを持ってくる。

 リリアの言葉に全員がじょうろを掲げたタイミングで、アインがやってきた。


「あ、アインさんだ! こんにちはー!」

「やあこんにちは。ギブたちもいたんだね」

「おう。学校ってやつを満喫中だ」


 ギブが親指を立てると、アインとリリアが一瞬だけ目を見合わせた。


「だいじょーぶ! ばらしてないぜ!」


 ギブが親指を立てると、セオが死角から無言で蹴りを入れた。そもそも話題にするな。

 アインとリリアが少しだけ頬を赤らめた後、コホン、と改まってから、子どもたちが花壇の苗に水をやる様子を見守り始めた。


「何で花なんか育てんの? 芋とか育てたほうが良くね? 食えるし」


 屈んで花壇に水をやりながらギブが問うと、アインが可笑しそうに微笑んだ。


「育てば綺麗な花が咲くだろ。自分が頑張って育てた花が、キレイに育つと嬉しいと思わない?」

「んー。そういうもん?」

「そういうもの。愛を与える練習さ。花を育てた気持ちが、他者を慈しむ心に育つきっかけになる」

「なるほど。アインなりの戦争の練習ね」


 ギブの返しに「そうだね」とアインは笑った。


「あ、何でそいつら抜いちゃうの?!」


 ギブが水を上げていた苗の、周辺の芽をアインが抜き始めた。

 抗議をするギブにアインが笑って返す。


「この芽は花じゃなくて、雑草だよ。栄養を吸っちゃうからね。ちゃんと花が育つために、悪い芽は摘まないといけないんだ」

「えー。雑草も花とか咲かせないの?」

「こいつは花を付けない種だね」


 アインが雑草を抜く様子を、ギブは少し不服気に見守っていた。

 雑草を抜き終えたアインが立ち上がり、リリアへ声をかけ、宿舎の方を指さした。


「食料とか備品とか、宿舎の方に運んでおいたからね」

「ありがとうございます」

「じゃあ、そろそろ僕は行くね。別の仕事があるからさ」


 立ち上がって去ろうとするアインに、「もう行っちゃうの?」と子どもたちがブーブーと言い始めた。

 リリアが「アインさんも忙しいのよ」と宥める様子に手を振ってから、アインは外に止めてあった車の方へと消えていった。


 花を育てる授業の後は体育の授業だった。種目はドッジボールということで、中庭では子どもたちが元気に遊ぶ様子を、リリアが見守っていた。


「あれ? ギブは?」


 授業の冒頭で点呼を取ったときに、ギブの姿がなかった。まあ、体を使う授業ならギブは受ける必要はあまりない。

 ノートの項目にあった通り、早速授業をさぼるギブを、セオも授業を抜けて探しに行った。


「ギブ、何してんの?」

「水やり」


 宿舎の裏で屈みこむギブに声をかけると、ギブが先ほど抜かれた雑草たちを、周辺に植えなおしていた。


「花壇で咲かなきゃいいんだろ?」


 手を土まみれにしながら、どや顔で笑うギブに、セオも可笑しそうに微笑んだ。


「そこ日当たり悪いよ。あんまり育たないかも」

「ひっそり生きる分にはちょうどいいかもしれないぜ」


 日の差し方からするに、太陽の光が当たるのは、1日の間でもほんのわずかな時間だろう。

 日陰に植えられた名前も知らない植物に、セオも一緒に水を上げた。


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