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贄の王  作者: 糸音
最終章 贄たちの王

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出来なくなったことリスト

 

「ギブ、何それ」

「おっちゃんが残してくれた、俺のやりたいことリスト。贄だった時におっちゃんがまとめてくれていた俺の夢。全部に〇がつけばサイコーの人生になってる予定だ」


 ギブが年季の入ったノートを取り出し、人差し指で優しくページをめくる。


 そして、その内容を見てセオは一瞬だけ目を丸めて、


「…………」


 すぐさま悲しそうに眉間にしわを寄せ、痛々しい表情でギブの横顔を眺めた。


 ・名前を手に入れる。

 ・お日様の日差しで目を覚ます。

 ・柔らかいベッドで寝る。

 ・1日中寝てる。

 ・知らない美味いものを食べる。

 ・最高のフライドチキンを見つける。

 ・『苦い』と『しょっぱい』以外の味を楽しむ。

 ・働いた後、『風呂』に浸かる。

 ・ちゃんと給料をもらう。

 ・その給料を好きなものに使う。

 ・学校に行く

 ・友達100人作る。

 ・授業に行く。

 ・授業をさぼって遊ぶ。

 ・誰かと旅行に行く


 下流でさえなかったら日常に溢れているありふれた願い。

 切なくなるものから、しょうもないものまで、玉石混合に入り乱れているのはある意味でギブらしいのだが、


「……なんでさ、これとか、これ。……横線引いてあるの?」

「ん? 1日中寝てるとか、フライドチキンとか?」


 その項目のほとんどが、細い線で上下真っ二つに両断されてしまっていた。


「魔人にあってから眠る必要がなくなっちゃったからなあ。お日様の日差しと、ベッドとかももうダメだろ。食い物関係も、腹も好かなければ味が分からないからダメ。風呂に浸かるも、お湯とか被っても何とも思わなくなっちゃったからなあ。風呂に入るだけじゃ意味がないからダメ」


 やりたいことリストは、もう『できなくなったことリスト』になっていた。

 いくらかページをめくって、エロいキスを体験する。という項目に、ギブがノートに挟んであった、ボロボロのペンで横線を引く。


「もうサイコーの人生は送れないらしいよ」


 自虐的に笑ってから、ギブはノートを閉じた。

 自分の人生に暗幕を下ろすように、ノートを直そうとするギブに、


「……待ってよ」


 セオが腕を握って制止し、ノートを「貸して」と優しく奪う。


「……誰かと旅行に行く、ってさ。〇つけて良くない? 僕と一緒に、いろんなとこ旅したじゃん」


 ギブがぽかんと口を開け、セオの気持ちに気が付いてニッと笑いなおす。


「大体クソみたいなとこばっかだったけどな」

「旅は旅だろ! あとさ、この学校に行くってやつ! 明日子どもたちと一緒に勉強に混ぜてもらえばいいじゃん! で、つまんない授業は全力でサボる! まだまだ〇が付くやついっぱいあるじゃん! 〇しろよ!」


 人のことなのに、少し涙目になりながらむきになるセオを見て、ギブはノートを見直した後、「そーだな!」と言われた項目に〇をつけた。


「上流だろうが下流だろうが、誰だってサイコーの人生なんて送れるわけなんかないんだから! なんていうか、……諦めんなよ。……その時その時で夢なんて見つけていけばいいだろ」


 ギブが〇をしたのを見て、セオは拗ねたように屋根に座りなおし、顔を半分抱えた膝に埋めた。


「ここが僕らにとっての理想郷なら、夢だって湧いてくるはずだ」


 セオが愚痴みたいに零した言葉に、ギブも少し空を見上げた後「……そーだな」と、感傷的に頷いた。


「明日リリアに頼んでみるか! 断られそうになったらキスの件で脅せばいいしな!」

「そういう弱みの握り方はダメ!」

「わーってるって。じょーだんじょーだん」


 セオがギブに突っ込むと、セオの調子がちょっとだけ元に戻ったのを見てギブがガハハと笑った。

 どうせ全部に〇がつくことなんてない。


 少なくとも、こうして二人でいる時間は楽しい。


 二人は皆が眠る屋根の上で、今という時間を嚙みしめるようにじゃれあうのだった。


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