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贄の王  作者: 糸音
第一章 贄と魔人の門

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魔人の門と少年の夢

 この世界には突如として現れる黒い門があるらしい。

 血のような赤色で禍々しい魔方陣が刻まれている門の中央には、照明も何もないのに淡く怪しげな光を放つ空間が広がっていて、その中央には鈍い輝きを纏った巨大な黄金の杯と、鼠や猫、牛や鹿、人間などの様々な生き物の骨で組み上げられた台座が存在しているという。   


 杯には何かの血で数字が刻まれていて、その数だけ生け贄を捧げることで、神か悪魔か――ともかく、得体の知れない何かから、不老不死の肉体と超常的な力を授かり、魔人にして貰えるのだという。


「上流は魔人になった人間と、その一族からなる支配者たち。中流は社会のシステムを回す労働者。そして、僕たち下流は労働力兼、門が現れた時に、杯に捧げるための贄だ」

「そんな、そんなのって……」


 初めて世界のシステムを知った若い男は、絶望のあまりその場で膝を折った。


「君、今945番か」

「……?」


 服につけられた腕章の番号を確認したメガネの男は、45と書かれた自分の腕章を指で示した。


「この収容所の下流の人数は大体1000。数字が大きいほど贄としての優先順位が上がる。この国には同じ規模の収容所が10あって、基本的に贄は均等に回収される」

「……」

「今までの現れた門の、最大要求人数は1000。とりあえず500位になっておけばしばらくの間は安全だ。真面目に働けば番号は若くなる」


 メガネの男の説明を、若い男は、涙を溢しながら黙って聞いていた。頷くこともなく、最後までただ黙って聞いた。

 慰めるように肩に手を置いたメガネの男に、少し蔑むような視線を送って、少年は自分の部屋に戻っていった。


「小さい番号を維持して、可能な限り長く生きる。それが唯一僕たちにできることなんだ」





 ~~~~~~~~~~~~~~~~





「なーんて、メガネ君言ってたけどさ。俺は違うと思うね」


 部屋に戻り、固い岩肌の床に文字を書きながら、少年が愚痴を吐いた。

 少年の吐く愚痴を、おっちゃんは黙って聞いていた。


「どんなに頑張っても俺たちゃ所詮贄よ。どれだけ贄の中で大事にされようと、必要となりゃあ使い捨てられる命だ。やるべきは安全圏にいる努力じゃなくて、人間になる努力だぜ。元中流だったおっちゃんからしてさ。ここのフライドチキンは不味いんだろ?」

「上で使わなかった廃棄寸前の肉を揚げて誤魔化してるだけだからなぁ。そりゃあ中流のやつらが食ってるチキンの方が旨いだろうよ」

「俺はここのフライドチキンでも美味しいとは思うけど、人生で最高のフライドチキンがあれになるのはやだね。もっと旨いチキンを食って見たいし、うるせえ鐘の音じゃなくて太陽の光を浴びて目を覚ましてみたいし、シャワーじゃなくて風呂ってやつで体を洗ってみたい」


 軽い口ぶりで羅列しているが、まるで決意表明をするかの如く、その言葉の芯はとおっていた。



「今言ったこと全部、贄でいたままじゃかなわねえ。だから、俺はとりあえず人間になる。……さて、できたぜおっちゃん。五十音ってやつ。これであってる?」


 地面を削って書いた文字列を示すと、おっちゃんは丁寧に一文字ずつ確認していき、最後の文字を見て「よし」と頷いた。


「文字も大分覚えたなぁ」

「おうよ。俺はデキる男だかんな」


 おっちゃんが微笑んで、少年がVサインで答えた。

 そんなやり取りをしていたところに、「おお、ここにいたか」と施設のオーナーがやってきて、少年に向かって手招きした。


「鉱石の見積もりが終わったぞ。これが査定表だ」

「お、あざす!」


 少年がオーナーのもとに駆け寄り、差し出した紙の内容を確認した。


「いつも通り8割は施設の運営費だ。残りの取り分はいつも通りでいいか?」

「うす。全額貯金で」

「わかった。今後もしっかりと稼いでくれよ?」

「がってんっす!」


 少年が大袈裟に敬礼すると、オーナーはご機嫌そうにその場を去っていった。


「あとどれくらいだ?」


 おっちゃんが査定表を覗き込みながら尋ねた。


「大体2000万っすね。あと2年くらい働けば目標の1億」

「それで中流になれるのか」

「おう。もうけさせてやる代わりに人間にさせて貰う。それがオーナーとの約束だかんな」


 少年が右手で金のマークを作って歯を見せる。


「中流になれたらさ。おっちゃんを下流にした家族をぶん殴って、ついでにめちゃくちゃ稼いで、おっちゃんのことも俺が買ってやんよ」

「そりゃあ楽しみだ。期待してるよ」


 少年の言葉に、おっちゃんも楽しそうに笑って、優しく、力強く、少年の髪をワシャワシャと撫でた。 撫でられて少年の方も楽しそうに笑っていた。


「ちなみに、今日は籠にして、どれくらい鉱石がとれたんだ?」

「んー、そうすっね」


 おっちゃんの問いに少し考え込む仕草をしてから、少年は指を5本立てた。

 指の数と査定表を比べ見て、おっちゃんは「そうか」と薄い顎髭をなぞった。


 少年が採った鉱石は、籠にして9つ分だった。


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