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贄の王  作者: 糸音
最終章 贄たちの王

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リリア

「初めましてー。平和主義者の魔人ダヨー」


 ギブがおどけて舌を出すと、周囲の子どもが面白おかしそうに笑った。

 子どもとはしゃぐ魔人を見て、唖然としているリリアにアインが耳打ちする。


「ああ見えて元贄なんだ。君と一緒だ」


 基本的に魔人になるのは王族だ。王族は国の顔であるため、大抵の場合、地位に釣り合うだけの教養がある(バイソンという例外はあるが)。

 だが、良いかどうかはともかくして、目の前の魔人からは気品も知性もあまり感じない。少なくともリリアの知っている魔人とは異なる存在なのだろう。


 とりあえずギブに悪意がないことは伝わった。

 恐怖で強張った体を、息を整えて緊張を解く。

 そして子どもたちの中を優しく進み、リリアがギブに頭を下げた。


「びっくりしてしまってごめんなさい。私はリリアと申します。アインさんが運営するこの孤児院で、子どもたちに勉強を教えている者です」

「勉強? つまり、がっこーってやつ?」

「はい。その役割も兼ねてます」


 ギブの子どもっぽい反応に、一瞬だけ目を丸くしたが、ほほえましく映ったのか、優しく笑いながら頷いた。


「……」

「ギブ?」

「ああ、何でもない。俺はギブ。こっちはセオ。どっちも元贄だ。今は行き先を探して、世界をテキトーにぶらぶらしてる」

「テキトー言うなよ。行先決めてるのほとんど僕なんだから」


 ギブにセオが突っ込むと、セオの方にも「よろしくね」と手を差し出してきた。

 セオが少し頬を赤らめながら手を握り返すのを見て、ギブは今一度リリアの方へ視線を向ける。


 肩甲骨あたりまで伸びた少し暗めの赤い髪が特徴的な、細身の女性だ。

 所々にラインのように白い髪の毛が混ざっているが、その白さが深めの赤色をさらに引き立てる。


 顔つきは少女のような幼さをやや残しつつも、どこか長いまつ毛で影がかかった深紅の瞳が、不思議と見る者を引き付ける。


 セオやアインと比較しても肌が白く、それは触れたら溶けてしまいそうな雪のようだ。

 その柔らかそうな肌を白い修道服で包んでいる。

 凹凸が少ない体つきだが、小さく吹く風が服を揺らしたときに華奢な体の線が浮かび上がる。


 裾の方はひざ丈位に揃えられていて、裾の方に入ったスリットからは、黒いストッキングか映える細い足がいたずらに子どもたちの視線を誘惑していた。


「ギブ、さっきからどうしたの?」

「ん?」


 いつもなら軽いノリで、相手のことをずかずかと聞いてきそうなものだが、いったん何かを考えるような素振りのギブに、セオが問いかける。


「いや、なんでもねえ。それよりもアイン。なんで俺たちをここに連れてきたの?」

「ここの人たちの暮らしを知りたいんだろ? だったらまずは、子どもたちの暮らしぶりから見てもらおうかと思ってね。リリア。宿舎の部屋は開いてる?」

「ええ」

「暫くの間、二人を泊めて欲しいんだ」


 アインの頼みに、リリアが少し困惑した様子になった。視線を一瞬だけ子どもたちに向けるあたり、心配しているのは子どもたちのようだ。

 そんな心配に寄り添うように、「大丈夫」とアインが告げる。


「今日は僕も近くに泊まるよ。父上には後で連絡しておくから」

「……わかりました。ギブさんたちも、何もないところでよければ、是非ゆっくりされていってください」

「寝床があれば大体オッケー。セオもそれでいい?」

「むしろ野宿じゃないからありがたいぐらい」


 ギブとセオが頷きあうと、リリアが宿舎の部屋を案内してくれた。新しい木材の香りがほほのかに残る、2階建ての木造建築だ。

 ここは身寄りのない子どもたちが寝泊りする場所でもあるらしい。広い部屋に、2段ベッドが規則正しく並べられている。

 客用の部屋を案内しようと思ったところで、子どもたちが「いっしょに寝よう!」とギブのマントを引っ張った。


 ギブがその誘いに乗ったため、子どもたちと一緒に雑魚寝をすることで決定した。


 ギブが能力を使って沢山おもちゃを作ったり、セオの監修で周辺に遊具を作ったりで、その日は賑やかな夜になった。

 久しぶりに心の底から笑って、ギブもセオも、心の疲れが晴れた気がするのだった。



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