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贄の王  作者: 糸音
最終章 贄たちの王

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目的地

 ギブのことを聞き終えたアインが、細い涙を流し始めた。

 それを見たギブが「こーなるとだるいんだよな」と疲れた息を吐いた。


「ごめん。……でも、僕も父が魔人だからさ。重ねずにはいられなくて……」

「アインのお父様と違って、俺はヒーローじゃねえぞ」

「そうかな……?」

「ああ」


 一貫して自分への行為を否定するギブに、アインが少し喉を詰まらせながらも笑った。


「でも、僕は君のことを尊敬するよ。世界に抗って、戦い続けた君のことを。君は自分のことをヒーローじゃないって言うけど、君に救われた命も多い。そこだけは忘れないでほしいな」

「……」


 否定したものをさらに強い力でに押し返される気がして、ギブもばつが悪そうに外の景色に逃げた。

 気が付けば少し日が沈みかかっている。黄金の小麦がざわめく大地が、ギブの視線をゆらゆらと揺らす。


 この空気はギブにはつらいだろう。

 察したセオが話題を変える。


「ねえギブ。この国にはどれくらい滞在する?」

「ん? んー、そうだな」


 セオに尋ねられ、話題が変わったと気づいたギブが、声をいつもの調子に戻した。


「気が済むまでは、皆の暮らしぶりとか見てみたいしなあ」

「了解。アインさん、この周辺で宿とかあります?」

「二人が良ければ、王城にある客用の部屋を用意するけど」

「あー、堅苦しいとこ嫌。保護区の奴らと同じ場所で寝てみてえ」

「それならおすすめの場所がある」


 アインはギブの言葉に顔を明るくし、先ほど訪れた場所とは別の位置にある居住区の方へと方向を変えた。


 再び車で走り続けること1時間ほど。

 夕暮れで世界が橙色に染まり始めた頃、居住区の元へとたどり着いた。


「あ、アイン様! って、ええ?! その魔人の方は?!」

「もしかしてこれ、毎回やる?」

「ははは、そうかもね」


 アインの顔を見て近寄るも、背後にいるギブを見てたじろいでしまう。

 デジャヴを感じる光景にギブが尋ねると、アインも笑って返した。


 先ほど訪れた居住区と同じだ。アインとセオがギブの無害性を説明し、人々の安心を得る。

 同じ流れを繰り返してから、アインが先導し居住区の中を歩いた。


「さっきの場所とは雰囲気が違うなー」

「先ほど訪れたのが農耕区。今いるのが軽作業を中心とした工業を行う工業区。あっちは農耕をメインにするけど、こっちは収穫した綿なんかを加工する仕事が主だね」


 アインが視線で示すと、木製の建物の窓の奥で、編み物に勤しむ女性たちの姿があった。比較的力を使わない仕事はこちらで担っているのだろう。よく見ると子どもの姿も多い。


 幼い子どもの中には、ギブの姿を不思議そうに見つめてくるものもいる。魔人を見たことがないのだろう。この国で生まれた子と言うことか。

 ギブがVサインをすると、それをまねしてVサインで返してきた。


 そんな工業区をしばらく歩いていると、少しずつ建物の数が少なくなってきた。

 少しだけ木々や自然が残った土地の中に、小さな宿舎と、それに隣接して建てられた教会のような建物があった。


「着いたよ」


 どうやら目的地はここらしい。

 どんな場所に案内されたのか分からず、ギブがセオと顔を見合わせていると、協会のような建物から、子どもたちがぞろぞろと鞄を手に出てきた。


「せんせー。ありがとうございましたー」

「はーい。気を付けて帰ってね」


 15人ほどの子どもが、自分たちを見送る女性に手を振って挨拶をした。挨拶をされた女性も笑って手を振って返した。

 子どもたちが入り口にいるアインに気が付き、


「あー! アインだー!」


 と無邪気に駆けよってきた。

 皆4~5歳くらいだろうか。ギブの方をちらちらと見ている子もいるが、恐怖はしていない様子だ。この子たちも魔人を見たことがないのだろう。


「アインさん、その、お方は……?」


 子どもたちの反応とは異なり、先生と呼ばれた女性の方は、ギブを見てすぐさま顔色を青ざめさせた。元贄ならば、こちらが正常な反応だ。


 身を絡まらせる女性を安心させるように、アインが前に歩み出て挨拶をした。


「やあリリア。この人はギブ。この子はセオ。二人とも僕の客人だよ」


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