王子アイン
「ギブ……!」
穏便に、なんていった矢先この展開だ。
心配そうに身を寄せるセオを庇いながら、臨戦態勢に入るギブ。
現れた魔人が攻撃の意思を見せ次第、反撃を繰り出す準備はできている。
「……」
だが、ギブが自分から仕掛けてこない様子を見た魔人が、携えていた剣を取り出し、目の前に置いた。
「……?」
目の前の魔人の敵意の無さに、ギブが警戒を解いて首を傾げた。そんなギブに、現れた魔人が冷静に語り掛ける。
「そう身構えないで頂きたい。そなたに事を荒立てる気がなければ、私もあなたをぞんざいに扱う気はありません」
「もしかして、『話し合い』希望?」
「ええ、いかにも。私はアイゼン・レリンガルド。ここレリンガルド国を治める王です」
「お、王様?!」
城門に来るなり現れたのは、この国のトップだ。
突如として現れた大物に、セオも思わず驚きの声を上げた。
「俺はギブ。こいつはセオ。どっちも元贄。この国が贄を保護してるって聞いてさ。どんなもんかと思って見に来たわけ」
「は、初めまして。よろしくお願いします」
セオが緊張で強張りながらも頭を下げると、「こちらこそよろしく頼むよ」とアイゼンが魔人化していないほうの手を差し出し、握手を求めた。
優しい握手が交わされ、その様子を見守っていたギブが、アイゼンへ問いかける。
「ところで王様君。贄を保護しているっていう噂は本当?」
「ええ。いかにも」
よどみなく返したアイゼンに、「ふーん」とギブが鼻を鳴らす。
「下流とか、中流とか関係なく?」
「下流の者には元々犯罪者の方もおります。全員とはいきませんが、素性を調べ、認可が下りた者にはこの国での永住権を与えております。ご希望でしたら、保護区の様子を見ていかれますか?」
どうやら向こうは、ギブたちのことを友好的に迎え入れるつもりのようだ。
願ったりかなったりではあるのだが、あまりにことが都合よく進むため、ギブが探りを入れようと質問する。
「いいの? そんな簡単に招き入れて。俺、あんたよりも強い魔人だけど」
「でしょうな。異能以前に肉体の質が違う。この国の魔人は私一人。万一にでも戦闘になれば、私は瞬く間に地に伏すことでしょう。しかし、あなた方に敵意がないなら受け入れる選択がある。互いにとっての最善を尽くすことが、今私が国の為にできることです」
「……」
「もっとも、あなたがわが国民に危害を加えるつもりであれば、精いっぱいの抵抗はさせて頂きますが……」
自分よりも強い相手にものおじすることなく、目の前の王はギブに交友と抵抗の選択肢を突きつけてきた。
いざとなれば身を粉にしてでも国を守ろうとするその気概が、ギブにとっては良く映ったらしい。
ギブは掌を見せ、「ごめんごめん。こっちにもそんな気はないよ」と謝罪を入れる。
「正直、俺もセオも行く宛がなくて、居場所探してたんだ。ここがそうだったらいいなって」
「そうでしたか。でしたら、是非この国を見ていかれてください。詳しい者に案内させましょう」
「詳しい者?」
ギブたちが疑問符を浮かべながら顔を見合わせたところで、城門の方から一台の車が走ってきた。
「父上! ご無事ですか?!」
屋根のない車でこちらに向かってくるのは、王と同じく気品あふれる正装に身を包んだ、見目麗しい青年だった。
「誰?」
「倅です」
「せがれぇ?」
ギブが首をかしげたところで、やってきた人物がアイゼンの側に到着した。
「客人だ。噂を聞いて来られたそうだ。挨拶をなさい」
「え? あ、失礼いたしました。客人だとはつゆも知らず……!」
恐らく魔人がいるとの報告を受け、父の身を案じてきたのだろう。
それが到着してみれば、警戒していた魔人は王直々に客人として扱われているのだから、唖然とするのは仕方ない。
「私はアイン・レリンガルド。アイゼン王の実子であり、この国の第一王子です」
「オッケー、王子君ね。俺はギブ。こっちはセオ」
「セオです。よろしくお願いします」
「うん。よろしく」
セオが頭を下げると、アインが手袋を取って手を差し出してきた。
恐る恐るセオも手を差し出すと、アインが優しく手を握り返す。
「俺とも握手する?」
「もちろん」
ギブの問いかけには手を差し出して答えた。
ギブも加減をしながら握手を交わすと、少しだけ上機嫌になった。
「噂を聞いて、この国に来られたらしい。アイン。案内してあげなさい」
アイゼンが告げると、アインはそれを聞いて嬉しそうに「はい!」と答えた。
「後ろの方へお座りください。レリンガルドについて、私が案内しましょう」




