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贄の王  作者: 糸音
最終章 贄たちの王

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贄の国

 ナギが噂で聞いた街を目指して、ギブとセオは歩き続けた。

 道なり通りに進めば山を3つ超える必要があった為、楽な道のりではなかったが、道が険しいということは、他の者にとっても歩きにくい場所ということだ。

 国はおろか、街や集落なんてものはなく、自然に囲まれた、整備のされていない道を唯々進み、上っては下る。


「こんだけ緑が残ってるところは珍しいなあ。大抵は門を巡っての戦争で自然なんか残らねえんだけど」


 月が露に輝く夜。山の中で焚き木をしていたギブが、周囲の自然を見渡してなんとなしに呟いた。

 旅の途中で森を抜けてはきたが、あれは1種の例外だ。近くに門が現れれば戦争が起こり、周辺の土地は荒れ地と化すだろう。


 そういった戦火の跡が、しばらく歩いても全く見られない。


「門が出現しない地域なのかもしれないね。戦争さえ起こらなければ、ギブが戦っていた場所も、これぐらい綺麗だったのかも」

「そっか。やっぱ門とかなくなんねえかなあ」


 ナギの店で調達した保存食をかじりながら、セオがギブの言葉に相槌を打った。


「でも、これだけ綺麗な光景が続いていると、ナギの噂も本当なのかもしれないね」

「贄を積極的に保護している国、か。セオも知らなかったんだろ?」

「うん。でも、そんな国があったとしても、それを公にする国はないんじゃないかな。贄たちに行き場があるってわかれば、逃亡の計画とかも増えるだろうし」


 ギブが解放した贄を追跡する兵たちがいるように、今の世界のシステムが、贄たちに居場所などを容認してはいないらしい。そんな場所があったとして、贄たちにそれが知れれば、厄介な希望の種になるのだろう。


「でも、そんな場所があるとすれば、俺とセオの安住の地になるかもしれないわけだ」


 ギブがセオに歯を見せて微笑むと、「そうだね」とセオも微笑んだ。


「よっし! なんだかやる気出てきたぜ! 明日の昼にはこの山超えるぞ!」

「はいはい。置いていかれないように頑張りますよー」


 その日は会話もそこそこにセオは就寝し、ギブが火の番を続けた。

 翌朝、いつもよりも早く目が覚めたので、軽い朝食をとってから、日も顔を出さない内に歩き出した。

 ギブもセオも、いつもよりも歩くペースが速かった。


 歩幅が広がるくらいには、次の行き先に期待していたのかもしれない。

 ~~~~~~~~


 早いペースで歩くこと半月ほど。

 山の上流から流れる川に沿って歩いていると、立派な城壁のような建造物が遠目からでも確認できた。


「あそこじゃね?!」

「多分そう!」


 ナギたちがいた街の城壁よりも遥かに立派なつくりだった。周辺の道路は最低限整備されており、城壁の向こうで人が住んでいるという実感を得ることができる。


「ギブ。あそこに辿り着く前にフードを被って」


 セオがフードを被るように促すが、ギブが「んー」と渋った様子だ。


「……なあ、俺このまま行っていい?」

「え?」

「だめかな?」


 ギブに尋ねられ、セオも少しの間考え込んだ。

 そもそも、ギブが要求したのは『下流も上流も、贄も魔人も関係ない場所』だ。魔人だということを理由にギブが拒まれたとしたら、それはそもそもギブの居場所ではないということだ。

 ここまでともに旅をした以上、セオの中にギブと離れる選択はない。


「オッケー、そのまま行こう。ただし、何かありそうなときでも穏便に」

「りょーかい!」


 ギブが軽快に敬礼をし、セオもそれに微笑んでから、二人横に並んで、城門の前の道を、堂々と歩いた。


 城門にある程度近づいたところで、


「……なんだ? あれ」


 城壁の奥から赤い狼煙が上がり始めた。

 基本的には警戒色だ。何か注意を促しているのは違いない。

 警戒の対象は、この状況では間違いなくギブだろう。


「……」


 セオがギブの様子を伺うと、ギブも警戒されていることには気が付いたようだ。

 少しだけギブは足を止めてから、再び門に向かって歩き出した。

 歩幅が少しだけ小さくなっていた。

 それに気が付いて、セオは歩幅を変えず、ほんの少しだけギブの前を歩いた。


「! セオ」


 何かの気配を感じ取ったギブが、すかさずセオを自分の後ろに控えさせた。


 遅れてセオも何かの気配を感じ取ったのか、肌をなぞる冷たい風に身を震わせ、ギブの後ろに身を隠す。この前のように、万が一にも人質にされるわけにはいかない。


 目の前に黒い霧を纏った竜巻が吹き始め、その風を切り裂いて現れたのは——


「……魔人」


 王装束に身を包んだ、体の左半分が魔人化した男が現れた。


 贄という世界のシステムを体現した存在に、ギブが疲れた息を吐き、セオを守るように戦闘態勢に入るのだった。


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