どこへ行きたい?
「おっす~。只今~」
ギブがナギたちの飲食店に戻ると、店主とナギが改まった様子で頭を下げてきた。
「……全部、この子とセオさんから聞きました。危ないことに巻き込んでしまって、申し訳ございません」
「? てことは、もう俺が魔人だってバレてる?」
「……バラした」
「じゃあナギの前でフード被らなくて済むぜ。邪魔だったんだよねこれ」
ナギが申し訳なさそうに頭を下げると、ギブが勢いよくフードを脱いだ。
セオが慌てて店の窓とカーテンが締まっているか確認する。どうやら外からは見られてないらしい。
「……あいつら、どうなったの?」
ナギが控えめに尋ねると、ギブは「んー」と天井を見上げてから顎をなぞる。
「とりあえず、悪さはできなくしてやった」
ギブが言葉を選んだのが伝わったのか、セオとナギが一瞬だけ悲しそうな顔を見せた。
ナギは申し訳なさそうに少しだけ目を伏せる。
しかし、その先には誰も踏み込もうとはしなかった、
「……とりあえず。迷惑かけたお詫び。ごはん、私が作るから食べてって」
「お! じゃあメニューに書いてある奴全部チョーだい! セオが全部食べるから」
「食べれるわけないだろ‼ すいません、保存がきく食料あったら分けて欲しいです!」
「とりあえず飯だ飯! ナギとお父様も一緒に食おう!」
ギブがパンパンと手を鳴らすと、ナギがエプロンのひもを締めなおして、店主と一緒に厨房に向かった。
出来上がった料理はどれも絶品だった。
どれもお母さんに教わったものだと、少し寂しそうに、それでも楽しそうに食卓を囲んで話すナギの姿が印象的だった。
楽しい会話に交じりつつも、セオは時々、ギブが遠くを見るように手のひらを見つめる様子に気が付いた。
もしかしたらギブの掌には、いや、全身には誰かの代わりに被ったゲロの香りが染みついて消えないのかもしれない。
「セオ、この金どうする? 他の国でも使える?」
食事が終わった後、ギブが貨幣の入った麻袋を机の上に置いた。
「……他の国では使えない」
「そっか。じゃあナギ。お前がもらってくれ。荷物になるからいらねえ」
「……私たちだけ、もらってばかり」
代わりに答えたナギに、ギブが麻袋を突きつけた。
食事代や食料代を差し引いても、十分な釣りが出る。
ナギが申し訳なさそうに上目で見てくるも、ギブはシッシと手で払って返した。
「……この街を出たら、どこ行くの?」
ナギの問いかけに「んー」とギブが悩む素振りをする。
「セオ、どこ行くの?」
いつものように、行き先を自分に投げてくるギブを見て、セオが改まった表情になって、「ギブ」と向かい直る。
「どこに行きたい?」
いつものように代わりに行き先を決めずに、逆に問いかけられてしまい、ギブも真剣な様子で無言で俯き始めた。
「……あのさ」
「……何?」
少しだけためらいながら語り掛けられ、セオも優しく笑みで返す。
その笑みを見て、覚悟を決めたようにギブはとぎれとぎれになりながらも、言葉を紡ぎ出した。
「……下流とか、上流とか、……贄とか、魔人とか。……そういうの、関係なく過ごせる場所ってある?」
珍しく遠慮がちにギブが零すと、セオが嬉しそうに「探そう!」と笑った。
その様子を見ていたナギが、「……ねえ」と何かを思い出すような仕草でギブに語り掛ける。
「……それに該当するかは分からないけど、近い場所ならあるかもしれない」
ナギの言葉に、「「どこ?」」とギブとセオが詰め寄った。勢いよく距離を詰められ、困惑しながらも、ナギが続ける。
「……前にね、このお店を訪れた人がうわさしてたの。ここからずっと北に進んだ方に、行き場のなくなった贄たちを、積極的に保護している国があるって。ギブたちの探している場所とは違うかもしれないけど」
少し自信がないのか、ナギが控えめながらに告げると、ギブとセオは顔を見合わせた。
「行ってみる?」
「とりあえず!」
そこがどんな場所なのかは分からない。だけど、贄に縛られたこの世界では、一番求めている場所には近そうだ。
とりあえずの目的地が決まり、ギブとセオは、ナギたちに見送られながら店を出た。
今まで宛もなくさまよっていたこともあり、行き先が明らかになったギブの足取りはいつもより少しだけ軽いものに見えた。
そしてその時二人はまだ知らなかった。
その国が二人の旅路で、最後に訪れる場所になることを。
ここまで読んで頂きありがとうございます<m(__)m>
次回から最終章です。
ギブたちの物語、その終着点。
胴か最後までお付き合いいただけると幸いです。




