ゲロの元
「あああああああああああ‼ あああああああああああ‼」
大声で鳴き声を上げ続けるナギを見て、ギブが小さく息を吐いた。
優しく漏れた息に、セオは安堵の感情を感じ取った。もしかしたら、ギブ自身もナギの復讐は望んでいなかったのかもしれない。
「……お父さんのところ、帰ろうか」
「……っ‼ ……っ‼」
セオが問いかけると、ナギが泣きながらも。何度も力強く頷いた。
「……セオ。皆を連れて先に帰ってて」
「え」
優しい語り掛けに思わずセオが声を上げた。おどけるわけでもなく、唯々何かを隠そうとする声色に疑問の声を上げてしまった。
だが、その胸の内を察した瞬間、セオは悲しそうに眉をひそめて「……うん」と小さく頷いた。
「俺は寛大だからよ~。ついでに他の人質君たちも開放してやろうじゃない?! ささ! 自由になりたい奴は並んだ並んだ!」
ギブが大げさにパンパンと手を鳴らし、鎖や手錠で縛られた人々たちの拘束具を外していく。
全員解放したところで、セオが先頭になってきた道をひき返す。
「たっしゃでなあ~」
ギブが白いハンカチを振って見送り、その姿が見えなくなったところで、「さて」とバイソンたちに振り返る。
「ナギたちもいなくなったし。とりあえず死んどくか。お前ら」
素っ気なく突きつけられた殺害予告に、全員頭が真っ白になった後、見る見るうちに表情が恐怖へと染まっていく。
「な?! 話が違う‼ 意味のない殺しはしないんじゃなかったのか?!」
「したくはねえな。だけど、俺はナギの復讐を邪魔しちまった。ナギが復讐を止めたことに、意味を持たせないといけない。お前ら放っておくと、また同じことしかねないからな。俺が責任もって、ぶっ殺しておかないと」
「もうこんな真似はしない‼ 悪事もせず、静かに過ごすと約束する‼ だから——」
「それが約束できるやつは、そもそもこんなことしねえのよ」
言葉を遮って歩み寄る魔人に、リーダーを含め、バイソンたち全員が叫び声をあげて、何とか拘束から逃れようともがき始めた。
能力を使って脱出を試みようとするものもいるが、ギブの異能で作った拘束には傷一つ付けることはできなかった。
「……まあ、自分の意思で魔人になった時点で、全員もうダメなのさ」
ギブが自分の皮膚から剣を形成し、もがくバイソンたちに向かって刀身を向ける。
「お前ら全員。ゲロの元」
最後まであがくリーダーの首を、魔人の剣が跳ね飛ばした。
ギブは黒い返り血を浴びながら、拘束されている者たちを一人一人、噛みしめるように殺して回った。
贄を収容していた監獄は魔人の処刑場となり、広い天井が広がる空間に、魔人の叫びが空しく反響していった。




