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贄の王  作者: 糸音
第三章 復讐と夢とゲロ

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39/54

アドバイス

 

「ギブと、同じ異能……?」


 リーダーの異能に、セオが戦慄したように目を見開いた。

 服で隠れている部分は分からないが、魔人化しているのは体の2~3割といったところ。

 リーダーが異能を得たのは百の門だろう。千の門を利用すれば、体の半分は魔人化するし、見た目も人から大分かけ離れたものになるはずだ。

 ギブが異能を手に入れたのは、万の門。誰よりも多くの生贄を捧げたからこそ、応用がいくらでも利く最強の異能と、他の魔人と一線を画す最強の体を手に入れている。


「……」


 体の強度は異なるとはいえ、百の門から万の門と同じ能力を得ることはあり得るのか。

 ギブもそこは疑問に思ったらしく、辺りを見渡してから、地面から生えてきたフライドチキンの彫像をまじまじと見つめ始めた。


「……お前のチキン。やけに肉が多くねえか?」

「フライドチキンは普通こんなもんよ。お前のチキンが貧相なのさ」

「犯罪者のくせにいいチキン食ってるねえ。んじゃ、次は俺ね。人質を解放する条件でも聞こうか」

「さっきも言った通り、俺たちの命の保障。……それと、俺たちの活動の黙認さ」

「つまり?」

「人質を解放次第、お前はガキを連れてこの街を去れ。俺たちに対して何もするな」

「……‼ ふざけないで‼」


 バイソンの要求に抗議の声を上げたのはナギだった。


「街に来る人も! 街の皆も! 私のお母さんも! みんなみんな贄にしておいて、まだこの街から何か奪う気なの?!」

「そりゃあそうだ。まだあの街には贄にできる人間がわんさかいるじゃねえか」

「……っ‼ ギブ‼」


 自分の生まれた街の人間が、自分を育ててくれた父が、目の前の男に贄にされるのを予想して、ナギの顔が青ざめた。

 恐怖と怒りが混ざった声で、ナギはギブに呼びかけた。


「私はどうなってもいいから! こいつら全員殺してよ⁉ じゃなきゃ父さんも、街の皆も皆贄に——」

「ナギ」


 叫ぶナギに、ギブは小さく息を吐いてから、






「黙れ」






 低く、脅すような声で威圧した。

 肌を刺すような殺意のこもった声に、ナギだけでなく、セオや、やり取りを見守っていた拉致被害者たち、さらにはリーダーをはじめとしたバイソンの連中さえも息をのむ。


「お前らの命の扱い方を決めんのは俺だ。お前が死ぬのは勝手だが、不用意な発言でセオが死んでみろ。そんときゃ俺が街も人さらい君達も全部滅ぼしてやる」

「……」

「何も出来ねえなら黙ってろ。いいな?」


 ギブの通告に、ナギが涙目になりながら、力なく頷いた。

 バイソンのリーダーは、セオに刃を向けるナイフの柄を力強く握りなおした。

 交渉、などという形をとっているが、結局のところ、バイソンからすれば、如何に目の前の最強の魔人から、自分たちの安全を約束させるかの勝負なのだ。

 セオたちはただの人質でなく、ある意味で運命共同体なのだ。ぞんざいに扱えば、目の前の魔人の怒りに触れる。


「……話がそれちまったなあ。さっきの条件でいいの?」

「……ああ。お前が約束を守りさえすればな」

「オッケー。じゃあ次、そっちの番ね」


 人質を握っているのは自分なのに、命の主導権を握っているのは目の前の魔人だ。その感覚が恐ろしく気味が悪い。


「人質の受け渡しの手順だ。お前が街を離れ次第、指定の場所へこのガキどもを連れていく。そして——」

「あー、その辺の手順は全部そっちに任せるよ。人質が無事ならなんでもいいや」


 人質の受け渡しの方法だ。詳細を聞いた上でいくらか食い下がってくると思っていたが、話の途中であっさりと主導権を渡してきた。

 胸から棘は飛び出さない。嘘は言っていない。


 そんな簡単に人質交換の主導権を渡していいのか。


 ナギとセオがギブの真意を疑うも、先ほど威圧された後だ。不用意に口をはさむわけにはいかない。


「……次はそっちの番だ」


 どうやらその違和感はバイソンのリーダーも抱いているらしい。

 自分に都合よく進む交渉に、逆に警戒心を抱きながら、ギブに質問の番を返した。


「んー、そうだなあ……」


 すると、ギブは先ほどまでの威圧的な態度から一変し、急に軽くなった声で、おどけた様子で顎をなぞり出した。


「あんたら、全身が魔人化してるわけじゃないけどさ。金玉は魔人化してんの?」

「…………は?」


 そして、人質交換とは全く関係なくなった質問に、その場にいた全員が呆けた声を漏らした。


「質問は何でもいいんだろ? せっかくだから聞かせてくれよ。俺、金玉も魔人化したときに金玉失くしちまったからよぉ。魔人化してない金玉蹴られると痛い? 金玉なくなったら再生する?」


 あまりに意図が読めない質問に、困惑よりも恐怖を覚えた。

 なぜ、この場で、ここまで意味のない質問をできるのか。

 魔人の真意が分からない。わからないからこそ、交渉の形は崩せない。

 ふざけた質問に、リーダーが恐る恐る回答を始める。


「……魔人の攻撃以外では不老不死とはいえ、痛覚は残っている。魔人化していない個所をけられりゃ痛えし、そこが金玉なら尚更だ」

「へー。良いこと聞けた。今度蹴ってみるか! サンキューな。……ところであんた。いい靴履いてるね。履き心地どう?」


 回答を終え、今度は順番を無視して質問を重ねられる。内容が内容なので、質問という括りにしていいかは疑問だが、交渉という場の形が崩れ始めた。

 自分の緊張とは裏腹に、どんどん余裕を取り戻していく魔人に、魔人化した右手を地面に当てながら、セオの喉元にナイフの刃を寄せる。


「質問は交互に、っていうルールじゃなかったか?」

「俺は聞きたいこと聞き終わったしなあ。あんたは?」

「……」


 正直、安全が保障されるなら交わす言葉などは残っていない。

 内から心臓をなぞってくる違和感から解放されるために、さっさとこの交渉を終わらせたいぐらいだ。

 だんまりになったリーダーを見て、「お互い聞くことはなくなったぽいね」とギブが喉を鳴らして笑う。


「じゃ、一つだけアドバイス。俺と同じ能力を持ってるんだろ? 靴は履かないほうが良い」

「……?」

「俺は『手で』触れなきゃいけないなんて一言も言ってないぜ」


 ギブがにやりと笑った瞬間、セオがリーダーのナイフを握る手を噛んだ。


「——ってえ?!」


 セオの喉からナイフが零れたと同時、後ろの地面が勢いよく飛び出し、セオとナギをギブの元へと弾き飛ばした。


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