交渉と同じ異能
「もしかしなくても、あんたが人さらい君達の親玉君?」
「いかにも。俺がバイソンのリーダーだ」
不愉快そうに声色が低くなったギブに、バイソンのリーダーがふてぶてしく笑った。
のどぼとけに冷たいナイフの刃が触れ、セオとナギは青い顔で息を詰まらせることしかできない。
「同じ魔人なんだ。俺とあんたら、どっちが強いかなんてわかってんだろ? そいつらを殺すとして、その先のことを考えてる? そいつら殺すのと、生き残るの、どっちが大事?」
「当然生き残ることさ。だが、ここに来たってことは、人質がいようがいまいが、俺たちをつぶしに来たんだろ? 交渉をするためにはこれが最善だ」
「……」
この脅しは、ある程度肝が据わった相手には通用しないか。
面倒くさい状況になったと、ギブが腹立たしそうに舌打ちをした。
前に村で人質を取った衛兵たちと違い、こういう汚い手に慣れている相手はやっかいだ。
恐らく殺すこと自体は造作もないが、セオとナギを見捨てられるほど冷酷にはなれない。
「『話し合い』、しようか」
「ああ。それがお互いにとって都合が良い」
「とりあえず交互に聞きたいこと聞いてみる?」
「そうだな。だが、その前に...」
リーダーが合図をすると、部下の1人がギブの側に歩み寄った。
魔人化した右手でギブに触れ、男が指示を出した。
「何かを嘘をついてみろ」
「? ……俺は女です!」
ギブが元気に宣言すると、ギブの心臓から太い刺が飛び出し、内側から体を貫いた。
「ギブ‼」
刺から黒い血がボタボタと滴り落ち、ギブが口から血を吐き出した。
「……なるほど。嘘発見器君ってとこね」
濁った声と共に、ギブが視線を男に向けた。
自分の能力で死ななかったことに驚いたのか、男は自分を見下ろしてくるギブを呆然と見上げながら、ぶつけられてくる殺意に震え始めた。見方によっては、自分が今、ギブ側の人質だ。
「これ、そっちにもつけないと不公平じゃない?」
「他に同じ異能持ちがいればそうするがな」
「しゃーねな。じゃあ質問は俺からするぜ。あんたら、人攫い君たちの要求は?」
ギブの質問に、自分の思惑通りことが進んでいると実感したのか、リーダーの男が悪い笑みを浮かべながら答えた。
「まずば俺たちの命の保障だな。約束できるか?」
「そりゃあお前、人質の扱い方次第だよ」
ギブの返しに、リーダーがナギの喉にナイフの歯を当てた。
冷たく鋭利な刀身に、ナギが喉をつまらせる。
ギブが「死にたいの?」と低い声で尋ねると、「ジョークだよ」とナイフの刃を離した。
「次は俺の番だ。お前の異能は何だ?」
その問いにギブがその場でしゃがみこもうとすると、再びセオとナギの首もとにナイフの刃が向けられた。
「能力見せるだけだよ。傷つけるつもりはねえ」
胸から刺が飛び出ない。嘘ではないということか。
ギブは警戒されながら地面を触り、床の一部を変形させ、即席で彫刻をつくって見せた。
「俺の異能は、『触れたものの形を変える』異能。岩でも水でも炎でも、触れたものなら何でもOK。これでいい?」
「なんだこの彫刻は」
「俺の好物のフライドチキンだよ。知らねえ?」
確かに、地面から生えてきた台座の上には、身の少ないチキンのような物体がある。
出来上がった不細工な彫刻を見て、「とりあえず両手を上げろ」とリーダーが告げると、ギブが渋々と従った。
ギブの異能を聞いて、バイソンたちが「なんだよその異能は……」とどよめき立つ。
だが、リーダーの男は少しだけ間を空けてから、顔に手を当てて高らかに笑い始めた。
「どうした?」
「いやぁ、わりいわりい。こんな偶然があるもんかと思ってな」
すると、リーダーはナギのナイフを地面に落とし、魔人化している左手で地面に触れる。 すると、
「え……?!」
目の前に出現したものに、セオが思わず驚きの声を漏らした。 地表が盛り上がって、メキメキと音を立てながら何かの形になっていく。
数秒後には、ギブが作ったものと同じ、不細工なフライドチキンの彫刻が出来上がっていた。
「驚いたよ。まさか俺と同じ異能を持っているやつがいるなんて」




