罠
飛び込んだ先には、人が3人程度並んで歩けるぐらいの幅の通路が広がっていた。
「せめー通路。あっちに扉があるけど、進んでみる?」
セオたちは暗くて何も見えないが、ギブにはこの暗闇は問題ないらしい。
真っ暗な空間をギブにしがみつきながら歩いているうちに、ギブが不意に立ち止まった。先ほど話していた扉の前に来たようだ。
ドアの隙間から、わずかながら光が漏れている。この先に誰かが待ち構えている可能性が高い。
ギブが扉に触れ、小さな覗き穴をつくり、中の様子を伺った。
「おっじゃっましまーす」
セオたちに何の合図もなしに扉を開けるので、二人がギョッと目を見開いた。
突入する前に合図が欲しかったが、すでに敵の根城。怒鳴るわけにもいかない。
「なんだよここ……ほんとに地下かよ……」
扉を開けた先に広がっていたのは、照明で明るく照らされた、通路のような空間だった。材質的には岩をくりぬいて作ったような空間だが、洞窟のようにごつごつとした岩肌が露になっているわけではなく、長方形型に整備された、面取られた通路が真っすぐ伸びている。
両サイドにはドアが幾つか備え付けられており、通路の奥では十字に枝分かれしている廊下が見える。
適当に近くにあるドアを開けながら進むと、どうやら食料や日用品、薬などの物資が大量に保管されていた。
進んでいるうちに、通路の奥にあった、ひときわ大きい扉の前に辿り着いた。
「ここって、まさか……」
「どーやら拉致った奴らの保管場所、って感じだな」
扉を開けると、両サイドに鉄格子が備え付けられた広い部屋につながっており、両手を縄で縛られた者たちが閉じ込められている。
檻の中はまだ広さに余裕があり、その気になれば1000人は収容できそうなだだっ広い檻の空間だ。
「……バイソンの拠点兼、収容所?」
「通路が街の外の方へ伸びてるし、街の外と中の連絡通路も兼ねてるかも」
バイソンという組織の規模は分からないが、一介の犯罪集団が用意できるものじゃない。
施設の規模が、今は向かおうとしている組織の規模を想像させ、セオは胸が締まる思いがした。
「……あんたら、なんだ? もしかして、バイソンの仲間ではないのか?」
驚きながら周囲を見渡すセオたちの様子を見て、閉じ込められていた男が語り掛けてきた。
「お願いだ! 助けてくれ! このままじゃ俺たち贄にされぐえっ——」
「シー。潜入ミッション中だから今」
「「……」」
バイソンの仲間では無いと察した男が、鉄格子にぶつかる勢いで縋ってきたところを、ギブがデコピンを食らわせ気絶させた。
今回の目的はバイソンの壊滅であって、捕らわれた人の救出ではない。
とはいえあまりに雑なギブの対応に、セオとナギは味方ながらに呆れた息を吐いた。
「ナギ。どうする? とりあえずこいつら逃がしとく?」
ギブが尋ねると、ナギが少し考えた後、小さく首を振った。
「バイソンをつぶした後で助ければいい。今開放して、騒ぎになるのも面倒」
「それもそっか。悪いなお前ら。今は大人しく捕まっておいてくれ」
「……ねえギブ」
「? セオ、どうした?」
何か察したように顔色が悪くなったセオに、ギブが尋ねた。
周囲を見渡しながら、セオが神妙な面持ちになってつづける。
「……向こうの組織の規模なんてわからないけどさ。ここまで堂々と潜入しておいて、誰ともすれ違わないなんて変だよ。それに、いくら閉じ込めてるとはいえ、贄を管理する場所に誰もいないなんてことある?」
「……」
ナギも違和感を覚えたのか、その表情が見る見るうちに険しいものになった。
ギブが顎に手を当てたとき、自分たちが入ってきた扉が分厚い鉄のシャッターでふさがれ、大きな音の方へ反射的に振り返った瞬間、
「ぐあっ?!」
「きゃあっ⁉」
セオとナギの地面が急に隆起し、ギブの視線と反対方向に二人の体を弾き飛ばした。
ギブがゆっくりと振り返ると、
「——おっと、そこから一歩も動くなよ」
顔の右半分から肩にかけて魔人化した、人相の悪い大男。
と、それを取り囲む、体の一部分が魔人化したフードの集団が現れ、セオとナギの喉元に黒いナイフを突き立てていた。




