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贄の王  作者: 糸音
第三章 復讐と夢とゲロ

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ビジネス、契約。

 

「復讐……?」


 幼い子どもから飛び出た不穏なワードに、セオが眉をひそめた。

 首をかしげるギブを横目に、ナギは思い出をなぞる様に化粧台に手を置いてから語り出した。


「……ここ、私のお母さんの部屋。今はもういない。バイソンに拉致されて贄にされた」


 凄惨な過去にセオが息をのんだが、ナギの様子が崩れることはない。今の状況に慣れてしまっているのだろう。


「で、俺にその人さらい君達をぶっ殺せって?」

「うん。魔人は魔人にしか殺せない。私じゃ無理」

「この国にも魔人はいるんだろ。そいつらに金払って頼むのが筋じゃね?」

「……それで上流が動くなら、こんなことにはなってない」


 無表情なナギの顔に、少しだけ怒りの色が浮かんだ。

 ギブたちに、というよりは、バイソンや現状を放置している国に対してだろう。


「足りないならその分を一生かけて払う。私をどこかの国に、贄として売り飛ばしてしまっても構わない。だからお願い、私の依頼を受けて」


 覚悟は決まっているのか、ナギの視線は揺らがない。言葉に嘘はないだろう。持て得るすべてを利用して、母を奪ったバイソンを殺す気だ。


「……」


 ナギの圧を受けて、珍しくギブが顎をなぞりながら悩む素振りを見せた。

 受けるにしろ、断るにしろ、いつもなら判断の早いギブが、返答に時間がかかるのを見て、セオも驚いた。


「……そいつらぶっ殺してもさあ、お母さんって人は帰ってこないぜ」

「わかってる」

「……何のために人さらい君達をぶっ殺したいの?」

「私がすっきりするため」


 悩みながら質問を繰り出すギブに対して、ナギの回答は怖いほどに早く、はっきりと返ってくる。


「私のお母さんを殺した奴らがのうのうと生きているなんて気持ち悪い。気持ち悪いままじゃ生きられない。私はすっきりしたい」


 その言葉を聞いて、ギブは顎から手を離し、暫く遠くを見るように手のひらを眺めた後、机に置かれた金を手に取り、自分の懐にしまった。


「オッケー。ビジネスだ。ナギの復讐、手伝ってやる」

「ギブ!」


 懐にしまった金をセオが奪い、改めて机に置きなおした。

 ギブの顔に自分の顔を寄せて、ナギに背を向けながらセオが尋ねる。


「さっきまで出ていこうとか言ってたじゃん?! どうして急に?!」

「きまぐれ」

「じゃあお金を受け取るなよ! それを受け取ってしまったら——」

「ナギから金を貰えないなら、俺はやらねえ」


 低く、改まった声色のギブに、セオは言葉を詰まらせた。

 何かが起こったときの、覚悟が決まった声だった。今自分たちの行く末の手を引いているのはギブだと、本能的に理解した。


 金の入った袋を手に取り、ナギの前に突きつけながらギブが最終確認をする。


「これはナギの金。俺はビジネスでお前の復讐を手伝う。オッケー?」

「……オッケー」


 ナギの返答に、ギブは再び金を自分の懐にしまった。


「……お父さんが寝たら、また来る。いつでも出発できるように準備してて」


 ナギがそう言い残して部屋を去った。

 ナギが去った部屋は、窓越しに外を吹き抜ける風の音が聞こえるほど静まり返っていた。

 セオの薄く、長い息の音が部屋の空気を重くする。

 しばらくの沈黙の後、ギブが不意に語り掛けてきた。


「セオ。ごめん」

「……なんで謝るの」

「多分、セオが行きたくない方向に向かってると思う」


 沈黙の原因はギブも分かっているらしい。

 正確に言えば、自分が行きたくないと同時に、ギブもおそらく踏み込みたくない場所だと思ったから、ギブが復讐を手伝うことに戸惑っている。

 自分の中で渦巻く疑問に向けて、ギブが真面目な声で続けた。


「ナギがさ、すっきりした後どうなんのか、知りたいんだ」

「……」


 大切なものを奪われ、復讐する動機は理解できる。

 大切なものを傷つけた者に、殴り返せば胸がすくのは分かっている。

 だけど、その先が分からない。

 すっきりしたとして、どう生きたらいい。


 ギブは自分の過去をあまり話さない。だけど、成り行きで魔人になってしまった過去、出会ったときの「10年迷子」という言葉、行き先を自分で決めることができないところなど、『先』を見つけられない人間だということは、セオも何となく理解している。


 ただ、その答えを他人を通して——幼い子供を通して確かめることに、セオは疑問を覚えるのだった。


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