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贄の王  作者: 糸音
第三章 復讐と夢とゲロ

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復讐のお仕事

 

 食事を終えると、店主に店の奥にあった階段へと案内された。

 どうやら1階が大衆食堂で、2階が店主とナギの居住スペースになっているらしい。


「こちらの部屋を使ってください」


 風呂場と洗面所を通り過ぎて、奥にあった3つの部屋の中の一つへ案内された。

 中はベッドが1台とクローゼット、化粧台があるだけの簡素な部屋だった。


「もう一つ布団をお持ちしますね」

「いーよいーよ。俺のサイズに合う布団なんてないし。床で寝るの慣れてるから」


 申し訳なさそうに食い下がろうとする店主に、ギブも負けじと食い下がったので、最終的には店主が折れた。

 ドアが閉まり、二人だけの空間が訪れ、セオはベッドに腰を掛けた。


「店主さんはああ言ってたけど、どうする?」


 話題はこの街にどれくらい滞在するかだ。


「俺は明日でもいつでも出て行っていいけどなあ」

「……人さらいについては放っておく?」

「俺たちが関わる理由ある?」


 ドライなギブの対応に、セオは少しだけ心が痛んだ。

 少し曇った顔になったセオを見て、ギブが小さく息を吐いてから語り出す。


「……前の村でさ、俺が昔助けた連中。俺をヒーローみたいに扱ってきたじゃん」


 その語り出しにセオも、何もない森の中で生活を営もうとしていた、元贄たちのこと思い浮かべる。


「人を贄にするのは良くねえとは思う。だから俺は門を狙う奴らと戦ってきた。だけど、魔人ぶっ殺してヒーローみたいになるのは何となく嫌だね」


 あの村の者たちは、いざ衛兵に命を狙われたときに、戦う役割をギブに押し付けようとした。そういう役割をギブに期待したのだろう。


 その行いが良いことか、正しいか関係なく、ギブが『役割』の押し付けを嫌っているのは何となくわかる。

 ちょっとでも誰かの道具になる感覚が嫌なのかもしれない。


「そっか。じゃあ、明日発つとして、どんな場所に行きたいとかある?」

「あー……、その辺はセオに任すよ」


 かといって、行き先を聞けば誰かに投げるあたり、どうありたいのかがはっきりしているわけじゃない。

 考えてないというよりは、悩んだ上で結論を出せていないように感じる。


 行きたくない方向だけはわかっているけど、行きたい場所は分からない。


 何かが起こったとき、起こりそうなとき、ギブの決断は恐ろしく速い。

 その判断の速さに救われるときがある一方、何も起こりそうにない時に、手を引いているのは自分だ。


 自己を持っていないわけじゃないのに、その在り方を信頼できる他人に委ねるあたり、自分に自信がないのかもしれない。


 少しだけ自暴自棄になったような返答に、なんと返せばよいのか考えていた時だ。


「盗み聞きしてないで、入ったらどうだ~」

「え?」


 ギブがドアに向かっておどけた様子で呼びかけた。

 セオが何のことか分からず呆然としていると、ナギがドアを音を立てないように開きながら入ってきた。


「ちょっ?! なんで君が……」


 まずい。ギブがフードを外している。

 慌ててギブの方へ顔を向けるも、ギブ自身は特に慌てる様子はない。


「ナギさ、俺が魔人だって気づいてたろ? 何で?」

「え?!」


 ギブの問いかけに、ナギが控えめに頷いた。


「……匂いで分かる。人間じゃない、魔人の匂い」

「えーと……! ギブは悪い魔人じゃなくて! その、この街でどうこうするつもりとか特になくて——」

「……良いとか悪いとか興味ない。バイソン以外の魔人だったら誰でもいい」


 そういってナギは右手に持っていた麻袋を、化粧台の上に置いた。音から察するに、中身は相当な量の金だ。さっきギブが支払った金だろう。


「……仕事の話がしたい。お金を払うから、私の復讐に付き合って」


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