復讐のお仕事
食事を終えると、店主に店の奥にあった階段へと案内された。
どうやら1階が大衆食堂で、2階が店主とナギの居住スペースになっているらしい。
「こちらの部屋を使ってください」
風呂場と洗面所を通り過ぎて、奥にあった3つの部屋の中の一つへ案内された。
中はベッドが1台とクローゼット、化粧台があるだけの簡素な部屋だった。
「もう一つ布団をお持ちしますね」
「いーよいーよ。俺のサイズに合う布団なんてないし。床で寝るの慣れてるから」
申し訳なさそうに食い下がろうとする店主に、ギブも負けじと食い下がったので、最終的には店主が折れた。
ドアが閉まり、二人だけの空間が訪れ、セオはベッドに腰を掛けた。
「店主さんはああ言ってたけど、どうする?」
話題はこの街にどれくらい滞在するかだ。
「俺は明日でもいつでも出て行っていいけどなあ」
「……人さらいについては放っておく?」
「俺たちが関わる理由ある?」
ドライなギブの対応に、セオは少しだけ心が痛んだ。
少し曇った顔になったセオを見て、ギブが小さく息を吐いてから語り出す。
「……前の村でさ、俺が昔助けた連中。俺をヒーローみたいに扱ってきたじゃん」
その語り出しにセオも、何もない森の中で生活を営もうとしていた、元贄たちのこと思い浮かべる。
「人を贄にするのは良くねえとは思う。だから俺は門を狙う奴らと戦ってきた。だけど、魔人ぶっ殺してヒーローみたいになるのは何となく嫌だね」
あの村の者たちは、いざ衛兵に命を狙われたときに、戦う役割をギブに押し付けようとした。そういう役割をギブに期待したのだろう。
その行いが良いことか、正しいか関係なく、ギブが『役割』の押し付けを嫌っているのは何となくわかる。
ちょっとでも誰かの道具になる感覚が嫌なのかもしれない。
「そっか。じゃあ、明日発つとして、どんな場所に行きたいとかある?」
「あー……、その辺はセオに任すよ」
かといって、行き先を聞けば誰かに投げるあたり、どうありたいのかがはっきりしているわけじゃない。
考えてないというよりは、悩んだ上で結論を出せていないように感じる。
行きたくない方向だけはわかっているけど、行きたい場所は分からない。
何かが起こったとき、起こりそうなとき、ギブの決断は恐ろしく速い。
その判断の速さに救われるときがある一方、何も起こりそうにない時に、手を引いているのは自分だ。
自己を持っていないわけじゃないのに、その在り方を信頼できる他人に委ねるあたり、自分に自信がないのかもしれない。
少しだけ自暴自棄になったような返答に、なんと返せばよいのか考えていた時だ。
「盗み聞きしてないで、入ったらどうだ~」
「え?」
ギブがドアに向かっておどけた様子で呼びかけた。
セオが何のことか分からず呆然としていると、ナギがドアを音を立てないように開きながら入ってきた。
「ちょっ?! なんで君が……」
まずい。ギブがフードを外している。
慌ててギブの方へ顔を向けるも、ギブ自身は特に慌てる様子はない。
「ナギさ、俺が魔人だって気づいてたろ? 何で?」
「え?!」
ギブの問いかけに、ナギが控えめに頷いた。
「……匂いで分かる。人間じゃない、魔人の匂い」
「えーと……! ギブは悪い魔人じゃなくて! その、この街でどうこうするつもりとか特になくて——」
「……良いとか悪いとか興味ない。バイソン以外の魔人だったら誰でもいい」
そういってナギは右手に持っていた麻袋を、化粧台の上に置いた。音から察するに、中身は相当な量の金だ。さっきギブが支払った金だろう。
「……仕事の話がしたい。お金を払うから、私の復讐に付き合って」




