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贄の王  作者: 糸音
第三章 復讐と夢とゲロ

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ナギとバイソン

 

「……お父さんにも料理、取っておいていい? お父さんもあんまり食べてない」

「おっけー。責任もって食えよー」

「そのまえに頼んだ料理に責任を持てよ」


 魔人のギブは食事を摂る必要はない。セオの突っ込みにギブは掌を開いて返した。

 比較的安価な料理を女の子が取り分けているところで、「こっからここまで嬢ちゃんたちの分ね」とギブが皿を寄せた。さりげなく精の出る肉料理などを分けている。


「……ありがとう」

「それセオのセリフ」

「ほんとだよ‼」


 セオは突っ込んでから、女の子と店主の様子を改めて伺った。


 年は自分と同じくらいか。態度や振る舞いは大人びているが、顔や体はまだしっかりと幼さが残っていて、そのギャップが印象に残る女の子だ。

 黒い髪を後ろで一つに束ねていて、飲食店勤務ということもあって清潔感を感じさせるが、よく見たら着ている服は何度も洗濯しているのか、ところどころ解れており、髪留めのゴムも今にも切れそうなほどすり減っている。


 店主の男も細身ながらもいい体つきをしているが、少し張った半袖のシャツの袖が、その袖口を余らせているのを見るに、前はもっと太い腕をしていたのだろうと思う。

 整えてはいるが、二人ともどことなく生活の苦しさがにじみ出ている印象だった。


 どうやら店主は厨房を片付けてからくるらしい。


「俺はギブ。こいつはセオ。嬢ちゃんは?」

「……ナギ」

「ナギね! よろしくな! 早速だけどナギ、なんでこの街こんな治安が悪いの?」

「この街に現れた、『バイソン』って呼ばれる犯罪組織のせい」


 ナギが食事に手を付けながら続けた。


「あいつらがこの街をカモにするようになってから、ずっとこんな感じ。衛兵隊も奴らには手は出せない」

「何で衛兵隊は手を出せないの?」

「バイソンが魔人で構成された集団だから。」


 その情報に、食卓を囲む空気に、わずかながら緊張が走った。


「バイソンは元々人さらいで生計を立てていた集団。国と国とを渡り歩きながら、人をさらって他国に売り捌く。どんな国も贄を欲しがっているから、それを買う」

「酷い……」


 語られた内容にセオが悲痛な表情になるが、ギブは特に動じることなく聞いていた。


「万の門が現れてから、百の門や、十の門の管理が薄くなった。それをいいことに、バイソンがさらった人間を売るんじゃなくて、贄にし始めたの。自分たちが力を得るために」


 贄の要求量が高い門ほど、魔人化した人間が大きな力を得ることができる。ギブの反乱で質より量、が証明されて以来、要求量の低い門は放置される場合も増えた。人間の数はそんな簡単に増えない。貴重な贄の使い道は限られてしまう。


 だが、いくら1万の門と比べ得られる力が小さくとも、魔人化すれば何らかの異能と、人間よりは強靭な不老不死の体が手に入る。

 国が放棄し始めた門を利用し、少しずつ勢力を伸ばしている組織もあるということだ。


「上の奴らはなんでそんな連中を放置しているの? 国民が勝手に贄にされたら、国だって困るのに」

「今この国は、万の門を手に入れるために躍起になっている。聞いたことない? 門を狙う軍隊を襲う、魔人の話」


 その話題を振られ、セオが表情をひきつらせた。

 当の本人は「ナニソレシラナイ」と下手糞なしらを切ったので、机の下で足を蹴った。


「その魔人、恐ろしく強いみたい。その魔人との戦いに戦力が必要なのに、街で暴れるだけのバイソンなんかに貴重な戦力を割いていられない。上の人たちは最悪街は滅んでもいいと思われてる。街の人を守るより、門に備える方が大事みたい」

「あぶねえなあこの街。なんで出ていかないの?」

「今はこの有様ですが、バイソンが居つく前は平和な街でした。他に当てがないのもありますが、この街に対する愛郷心があります。犯罪者なんかのせいで、私たちが出ていくのは癪じゃないですか」


 その会話に、厨房の片づけを終えた店主が割り込んできた。

 店主はナギの横に座りながらギブたちに告げる。


「食事とお金のお礼です。今日はうちに泊まっていってください。この街じゃ余所者はバイソンに狙われる。旅の者御用達の宿屋なんて奴らの狩場です。……そして、明日にはこの街を発った方が良い。バイソンに狙われる前に」

「うーん。じゃあお言葉に甘えますか! セオもそれでいい?」

「うん……」


 この街の現状を聞いて心が痛んだが、どうやらギブは関与する気はないらしい。

 良くも悪くも態度が変わらないギブに、少し複雑な気持ちになりながらもセオが頷いた。


「……」


 そして、そんな様子のギブを、ナギが食事を口に運びながらも、フードの奥の姿を見定めるように見つめており、ギブもそのことに気が付いているのだった。


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