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贄の王  作者: 糸音
第二章 10年後の世界と贄の村

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自分は今『何』なんだ

 

 衛兵たちが去るのを見届けてから、ギブは倒れるセオの身を起こした。


「大丈夫?」

「……うん」


 体を起こされ、痛む体に鞭を打ちながらも、セオは一人で立ち上がる。

 よろけながらも両足で床に立つ姿を見て「ガッツあんじゃん」と歯を見せて笑った。


「ギブさん! ありがとうございます!」


 恐怖から解放された村人たちがギブに詰め寄った。

 それぞれ涙ながらに感謝の言葉を述べていくのだが、


「……」


 ギブは感情を殺したように、村人たちに何の反応も示さなかった。




「……疲れたから、寝かせて?」




 寄ってくる村人たちにハエを払うようなしぐさで返すと、村人たちは顔を見合わせて、その場から去った。

 去り際に見せた気まずそうな表情から、ギブの何かに障ったのは理解したらしい。


 村人たちの姿が見えなくなってから、ギブは不意に小さく息を漏らした。

 セオに背を向けたままだったが、小さく沈んだ肩でそれがため息なのには何となく気が付いた。


 そして、


「セオ、最高だ! あいつら肉の缶詰もってやがった! 今夜はごちそうだぜ~」


 衛兵たちから奪った缶詰を拾って、大げさにセオに見せびらかした。


「クソみたいなことがあったら飯を食って寝るにかぎる! セオ、飯を食おう!」

「……うん」


 とりあえず自分を励まそうとしているのは分かって、セオも涙を堪えながら頷いた。

 いい肉を食べているはずなのに、森に入る前にかじった干し肉よりも味がしなかった。




 ~~~~~~~~~~~




 その夜、ギブは自分の部屋でベッドで横になり、ただただ天井を見上げていた。

 何かを考えているというよりは、窓の外に視線を投げたくないように見えた。


 そんなギブを一瞥しながら、セオは眠れずに窓枠に肘を置いて、村の様子を眺めていた。

 すると、村の皆が一つの建物の中に集まっていく様子が伺えた。


「しょんべん?」

「うん、……あ、いや、大きいの」


 その様子が気になって階段を降りようとしたところ、ギブに尋ねられた。

 少し時間がかかる旨をさりげなくにじませて、セオは建物の陰から村人たちの様子を伺った。


「なあ、なんかギブさん機嫌悪かったな……」


 やはり話題は、騒動直後のギブの様子についてだ。

 皆違和感は覚えていたらしい。村人たちは暗闇の中小さく頷いた。


「明日、皆に謝りに行こうぜ。なんとかして、この村にいてもらわないと……」

「そうだな……」


 そこまで聞いて、セオはギブの部屋に戻った。

 ギブは相変わらず、同じ体勢のまま呆然と天井を眺めているだけだ。


「……ねえ、ギブ」

「んー?」


 どこか投げやりなギブの返事に、セオの胸が少し締まった。

 今の自分がこんなことを行っていいのかは分からない。

 だけど、確かに喉を詰まらせてくる違和感を吐き出すために、セオは改まった顔になって、ギブに告げた。






「出よっか。この村」






 セオの提案にギブはピクりと反応した後、「そーだな!」と元気よく寝床から飛び起きる。


「俺たち二人には、狭い村だと思ってたところだ‼」


 いつものギブに戻ると、セオも安心して力強く頷いた。

 その後の行動は早かった。

 衛兵たちから奪った資材を可能な限り袋に詰め、村人たちが出てくる前に、集落から離れて歩いていく。





 まだ体の痛みが抜けないセオの歩幅はまだ小さい。

 ギブは疲れが残るセオを茶化すことはせず、今度は斜め前に立って、セオの歩幅に合わせながら、何も言わずに歩いていく。


 ちょうど月明かりが差し込む場所に辿り着いた。

 明るく照らされたギブの背中を見て、その大きくて頼りがいのある背中と自分自身を比較してしまい、その場で立ち止まってしまった。




「……どした?」




 目の前の魔人はあまりに大きくて、たいして自分はあまりに小さい。


 自分のことを自分でできない。

 自分のことを自分で守れない。


 ギブみたいに誰かに何かを与えられるわけじゃない。

 それなのに、村人たちに偉そうに説教して、ギブに頼ろうとする姿に、お前は『何』なんだ、なんて叫んでおきながら、




 自分は今、世界一安全な背中にしがみついている。




「……うう、う“う”」


 力がない無力感、結果的に依存してしまう情けなさ。

 それを分かっていながら、ギブについていくことしかできない悔しさがにじみ出てきて、


「う“あ”あ“あ”あ“……! う”ああああああああああああ……‼」


 ぐちゃぐちゃに混ざった自己嫌悪を、涙にして吐き出すことしかできなかった。

 それを見てギブはやれやれと頭を掻いたが、めんどくさがったり嫌そうにする様子はなかった。




「泣けば強くなる?」

「……な“る”っ‼」

「じゃあ存分に泣いとけ。その涙にゃあ意味がある」




 その夜は存分に泣きはらして、ひとしきり泣いた後、二人は並んで歩いて森を抜けた。

 優しい冷たい風が木々を揺らす夜の森を、二人はどこへ向かうか楽しそうに話ながら歩いていくのだった。


第2章終了です。

全部で4章構成のつもりで書いてます。


お話が面白かった場合はリアクションや感想など頂けると嬉しいです!

次の章でお会いできるのを楽しみにしています<m(__)m>

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