自分は今『何』なんだ
衛兵たちが去るのを見届けてから、ギブは倒れるセオの身を起こした。
「大丈夫?」
「……うん」
体を起こされ、痛む体に鞭を打ちながらも、セオは一人で立ち上がる。
よろけながらも両足で床に立つ姿を見て「ガッツあんじゃん」と歯を見せて笑った。
「ギブさん! ありがとうございます!」
恐怖から解放された村人たちがギブに詰め寄った。
それぞれ涙ながらに感謝の言葉を述べていくのだが、
「……」
ギブは感情を殺したように、村人たちに何の反応も示さなかった。
「……疲れたから、寝かせて?」
寄ってくる村人たちにハエを払うようなしぐさで返すと、村人たちは顔を見合わせて、その場から去った。
去り際に見せた気まずそうな表情から、ギブの何かに障ったのは理解したらしい。
村人たちの姿が見えなくなってから、ギブは不意に小さく息を漏らした。
セオに背を向けたままだったが、小さく沈んだ肩でそれがため息なのには何となく気が付いた。
そして、
「セオ、最高だ! あいつら肉の缶詰もってやがった! 今夜はごちそうだぜ~」
衛兵たちから奪った缶詰を拾って、大げさにセオに見せびらかした。
「クソみたいなことがあったら飯を食って寝るにかぎる! セオ、飯を食おう!」
「……うん」
とりあえず自分を励まそうとしているのは分かって、セオも涙を堪えながら頷いた。
いい肉を食べているはずなのに、森に入る前にかじった干し肉よりも味がしなかった。
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その夜、ギブは自分の部屋でベッドで横になり、ただただ天井を見上げていた。
何かを考えているというよりは、窓の外に視線を投げたくないように見えた。
そんなギブを一瞥しながら、セオは眠れずに窓枠に肘を置いて、村の様子を眺めていた。
すると、村の皆が一つの建物の中に集まっていく様子が伺えた。
「しょんべん?」
「うん、……あ、いや、大きいの」
その様子が気になって階段を降りようとしたところ、ギブに尋ねられた。
少し時間がかかる旨をさりげなくにじませて、セオは建物の陰から村人たちの様子を伺った。
「なあ、なんかギブさん機嫌悪かったな……」
やはり話題は、騒動直後のギブの様子についてだ。
皆違和感は覚えていたらしい。村人たちは暗闇の中小さく頷いた。
「明日、皆に謝りに行こうぜ。なんとかして、この村にいてもらわないと……」
「そうだな……」
そこまで聞いて、セオはギブの部屋に戻った。
ギブは相変わらず、同じ体勢のまま呆然と天井を眺めているだけだ。
「……ねえ、ギブ」
「んー?」
どこか投げやりなギブの返事に、セオの胸が少し締まった。
今の自分がこんなことを行っていいのかは分からない。
だけど、確かに喉を詰まらせてくる違和感を吐き出すために、セオは改まった顔になって、ギブに告げた。
「出よっか。この村」
セオの提案にギブはピクりと反応した後、「そーだな!」と元気よく寝床から飛び起きる。
「俺たち二人には、狭い村だと思ってたところだ‼」
いつものギブに戻ると、セオも安心して力強く頷いた。
その後の行動は早かった。
衛兵たちから奪った資材を可能な限り袋に詰め、村人たちが出てくる前に、集落から離れて歩いていく。
まだ体の痛みが抜けないセオの歩幅はまだ小さい。
ギブは疲れが残るセオを茶化すことはせず、今度は斜め前に立って、セオの歩幅に合わせながら、何も言わずに歩いていく。
ちょうど月明かりが差し込む場所に辿り着いた。
明るく照らされたギブの背中を見て、その大きくて頼りがいのある背中と自分自身を比較してしまい、その場で立ち止まってしまった。
「……どした?」
目の前の魔人はあまりに大きくて、たいして自分はあまりに小さい。
自分のことを自分でできない。
自分のことを自分で守れない。
ギブみたいに誰かに何かを与えられるわけじゃない。
それなのに、村人たちに偉そうに説教して、ギブに頼ろうとする姿に、お前は『何』なんだ、なんて叫んでおきながら、
自分は今、世界一安全な背中にしがみついている。
「……うう、う“う”」
力がない無力感、結果的に依存してしまう情けなさ。
それを分かっていながら、ギブについていくことしかできない悔しさがにじみ出てきて、
「う“あ”あ“あ”あ“……! う”ああああああああああああ……‼」
ぐちゃぐちゃに混ざった自己嫌悪を、涙にして吐き出すことしかできなかった。
それを見てギブはやれやれと頭を掻いたが、めんどくさがったり嫌そうにする様子はなかった。
「泣けば強くなる?」
「……な“る”っ‼」
「じゃあ存分に泣いとけ。その涙にゃあ意味がある」
その夜は存分に泣きはらして、ひとしきり泣いた後、二人は並んで歩いて森を抜けた。
優しい冷たい風が木々を揺らす夜の森を、二人はどこへ向かうか楽しそうに話ながら歩いていくのだった。
第2章終了です。
全部で4章構成のつもりで書いてます。
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次の章でお会いできるのを楽しみにしています<m(__)m>




