『話し合い』
「全員‼ その場で動くな‼」
セオが取り押さえられる中、残りの衛兵たちが銃を構えて2階に上ってきた。
銃口を突きつけられ、皆が委縮しながら両手を上げた。その姿にもう抗う意思は感じられない。
「全員拘束しろ。他の者たちへ警戒を強めるように言っておけ。武器を持っている可能性がある」
セオが落とした剣を見つめて、衛兵が懐にしまった。
大人しく両手を差し出し、黙って拘束されている村人たちへ、セオが混乱したまま弱弱しく尋ねた。
「なん、で……?」
腹を蹴られ、うずくまりながら視線を投げるセオから目をそらしながら、村人の一人が告げた。
「……これが正解だろ。だって、俺たちにはギブさんがいるから……」
「……は?」
何を言っているのか分からず、セオが乾いた声を漏らした。
「ギブさんが戻れば、なんとかなる。死なないのが正解だ。生きてさえいれば、ギブさんが——」
「ふざけたこと言うな‼」
発言の内容、そしてその内容に頷く村人たち。
それを認識した瞬間、腹の中から怒りがあふれ出し、喉を突き破って部屋の中に怒声となって響いた。
「ギブがギブがって、ギブは今ここにいないだろ?! 当てにするにしたって、自分のことを自分で守る努力ぐらいしろよ‼ 衛兵3人にすら立ち向かわないで、安住なんか手に入るわけないだろ⁉ ギブがいなかったら大人しく贄にされるのかよ⁉」
セオの叫びから、村人たちは皆一様に目をそらした。
それでも逃げるなと言わんばかりの大きな声で、セオは村人たちに言葉をぶつけた。
「ギブがいなかったら——、あんたらいったい『何』なんだ?!」
「おい! 大人しくしろ‼」
セオが床に顔を押し付けられ、強引に口がふさがれた。
怒りを言葉にできなくなって、胸を破って溢れた怒りが涙となって床を濡らした。
戦わないやつらがムカつく。
だけど、ギブが「戦おう」といえば違った結果になっていたかもしれない。
村人たちが動かないのは、自分に人を動かすだけの力がないからだ。
現に自分も不意打ちを仕掛けたのに、衛兵一人に返り討ちにされている。
自分や他者への怒りが抑えきれず、土と埃まみれの床に嗚咽がこぼれる。
そんなセオを一瞥してから、セオを抑えていた衛兵が、騒ぎを聞きつけて応援に来た衛兵たちに告げた。
「まだ辺りを警戒させろ。どうやらまだ仲間がいるらしい」
「「「はいっ!」」」
「はーい」
かしこまった返事の中に、ひとつだけ間の抜けた返事が混じった。
違和感の方向に、衛兵たちが顔を向けると、
「なっ?! なんだお前は?!」
「……それはこっちのセリフなんだよなあ?」
そこには、筌を設置し終えて帰ってきたギブがいた。
衛兵たちが反射的に銃口を向けたが、引き金を引くより先に、セオを抑えていた衛兵の腹を蹴り上げ、勢いよく壁にたたきつける。
この場にいる誰もが、一連の流れを目で追えなかった。
壁から血を吐いて崩れ落ちる衛兵。ゆっくりと足を下ろして振り返る異形の存在。
目も鼻もない顔を向けられ、衛兵たちは自分が今何と対峙しているのかを、その時始めて認識した。
「魔人……⁈」
魔人は魔人でなければ殺せない。
そもそも動きを目で追えない相手に銃なんて通じるわけがない。
魔人の放つ威圧感に、衛兵たちの戦意が一瞬で切れてしまう。
「ギブ!」
「ギブ?! 魔人が何で贄の仲間なんか——」
セオの呼びかけで、ギブという仲間の正体に衛兵たちが混乱する。
すぐさまギブに顔を向けられ、殺意の視線に衛兵たちは身を凍らせた
「……ここから先は慎重になれよ。『正解』できないやつは、容赦なくぶっ殺す」
「っ、うああああああああああああ?!」
ギブが脅すと、パニックになった衛兵の一人がギブに向けて発砲する。
それが顔に命中した瞬間、
「——」
ギブが一瞬のうちに発砲した衛兵との距離を詰めると、右手でその衛兵の頭を鷲掴みにした。
右手の中でもがく衛兵を、ゴミを見るように眺めるギブ。
「う、動くな!」
銃も効かない以上、衛兵たちにできるのは人質を取ることだけだ。
村人の頭に銃口を押し付ける衛兵を見て、ギブが呆れた息を吐いた。
「……それでいいのか?」
「え?」
冷たい声で問いかけられ、人質を取った衛兵が声を詰まらせる。
「俺はそいつら殺されるの嫌だけどよお。撃って……その後は? 撃ったときにゃあ、お前ら全員皆殺しだ。村人ぶっ殺すのと、生き延びるの、どっちが大事?」
「…………」
諭すようで、脅すような声色の提言に、衛兵たちは静かに銃を置いた。
抵抗の意思を失った衛兵たちを見て、ギブは右手で鷲掴みにしていた衛兵を床に下した。
「リーダーは誰?」
ギブが尋ねると、衛兵の一人が静かに手を挙げた。
ギブはその衛兵のもとへゆっくりと歩み寄り、
「……『話し合い』、しようか」
ポンポンとペットをあやしつける様に頭を叩いた。
この魔人の気に障ればどうなるかは想像するまでもない。
その後、ギブはリーダーの衛兵とその部下たちに、食料や武器の類を全部寄越してこの場を去るように伝えた。
騒動が収まり、静寂が訪れるころには夕暮れ時になっていた。
冷たい風が窓を吹き抜け、夕暮れの赤い光が、部屋に残った衛兵の血を濁して輝いた。




