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贄の王  作者: 糸音
第二章 10年後の世界と贄の村

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『話し合い』

 

「全員‼ その場で動くな‼」


 セオが取り押さえられる中、残りの衛兵たちが銃を構えて2階に上ってきた。

 銃口を突きつけられ、皆が委縮しながら両手を上げた。その姿にもう抗う意思は感じられない。


「全員拘束しろ。他の者たちへ警戒を強めるように言っておけ。武器を持っている可能性がある」


 セオが落とした剣を見つめて、衛兵が懐にしまった。

 大人しく両手を差し出し、黙って拘束されている村人たちへ、セオが混乱したまま弱弱しく尋ねた。


「なん、で……?」


 腹を蹴られ、うずくまりながら視線を投げるセオから目をそらしながら、村人の一人が告げた。


「……これが正解だろ。だって、俺たちにはギブさんがいるから……」

「……は?」


 何を言っているのか分からず、セオが乾いた声を漏らした。


「ギブさんが戻れば、なんとかなる。死なないのが正解だ。生きてさえいれば、ギブさんが——」

「ふざけたこと言うな‼」


 発言の内容、そしてその内容に頷く村人たち。

 それを認識した瞬間、腹の中から怒りがあふれ出し、喉を突き破って部屋の中に怒声となって響いた。


「ギブがギブがって、ギブは今ここにいないだろ?! 当てにするにしたって、自分のことを自分で守る努力ぐらいしろよ‼ 衛兵3人にすら立ち向かわないで、安住なんか手に入るわけないだろ⁉ ギブがいなかったら大人しく贄にされるのかよ⁉」


 セオの叫びから、村人たちは皆一様に目をそらした。

 それでも逃げるなと言わんばかりの大きな声で、セオは村人たちに言葉をぶつけた。




「ギブがいなかったら——、あんたらいったい『何』なんだ?!」




「おい! 大人しくしろ‼」


 セオが床に顔を押し付けられ、強引に口がふさがれた。

 怒りを言葉にできなくなって、胸を破って溢れた怒りが涙となって床を濡らした。


 戦わないやつらがムカつく。

 だけど、ギブが「戦おう」といえば違った結果になっていたかもしれない。

 村人たちが動かないのは、自分に人を動かすだけの力がないからだ。

 現に自分も不意打ちを仕掛けたのに、衛兵一人に返り討ちにされている。


 自分や他者への怒りが抑えきれず、土と埃まみれの床に嗚咽がこぼれる。


 そんなセオを一瞥してから、セオを抑えていた衛兵が、騒ぎを聞きつけて応援に来た衛兵たちに告げた。


「まだ辺りを警戒させろ。どうやらまだ仲間がいるらしい」

「「「はいっ!」」」

「はーい」


 かしこまった返事の中に、ひとつだけ間の抜けた返事が混じった。

 違和感の方向に、衛兵たちが顔を向けると、


「なっ?! なんだお前は?!」

「……それはこっちのセリフなんだよなあ?」


 そこには、筌を設置し終えて帰ってきたギブがいた。

 衛兵たちが反射的に銃口を向けたが、引き金を引くより先に、セオを抑えていた衛兵の腹を蹴り上げ、勢いよく壁にたたきつける。


 この場にいる誰もが、一連の流れを目で追えなかった。

 壁から血を吐いて崩れ落ちる衛兵。ゆっくりと足を下ろして振り返る異形の存在。

 目も鼻もない顔を向けられ、衛兵たちは自分が今何と対峙しているのかを、その時始めて認識した。


「魔人……⁈」


 魔人は魔人でなければ殺せない。

 そもそも動きを目で追えない相手に銃なんて通じるわけがない。

 魔人の放つ威圧感に、衛兵たちの戦意が一瞬で切れてしまう。



「ギブ!」

「ギブ?! 魔人が何で贄の仲間なんか——」



 セオの呼びかけで、ギブという仲間の正体に衛兵たちが混乱する。

 すぐさまギブに顔を向けられ、殺意の視線に衛兵たちは身を凍らせた


「……ここから先は慎重になれよ。『正解』できないやつは、容赦なくぶっ殺す」

「っ、うああああああああああああ?!」


 ギブが脅すと、パニックになった衛兵の一人がギブに向けて発砲する。

 それが顔に命中した瞬間、


「——」


 ギブが一瞬のうちに発砲した衛兵との距離を詰めると、右手でその衛兵の頭を鷲掴みにした。

 右手の中でもがく衛兵を、ゴミを見るように眺めるギブ。


「う、動くな!」


 銃も効かない以上、衛兵たちにできるのは人質を取ることだけだ。

 村人の頭に銃口を押し付ける衛兵を見て、ギブが呆れた息を吐いた。



「……それでいいのか?」

「え?」


 冷たい声で問いかけられ、人質を取った衛兵が声を詰まらせる。



「俺はそいつら殺されるの嫌だけどよお。撃って……その後は? 撃ったときにゃあ、お前ら全員皆殺しだ。村人ぶっ殺すのと、生き延びるの、どっちが大事?」

「…………」



 諭すようで、脅すような声色の提言に、衛兵たちは静かに銃を置いた。

 抵抗の意思を失った衛兵たちを見て、ギブは右手で鷲掴みにしていた衛兵を床に下した。


「リーダーは誰?」


 ギブが尋ねると、衛兵の一人が静かに手を挙げた。

 ギブはその衛兵のもとへゆっくりと歩み寄り、


「……『話し合い』、しようか」


 ポンポンとペットをあやしつける様に頭を叩いた。

 この魔人の気に障ればどうなるかは想像するまでもない。


 その後、ギブはリーダーの衛兵とその部下たちに、食料や武器の類を全部寄越してこの場を去るように伝えた。

 騒動が収まり、静寂が訪れるころには夕暮れ時になっていた。

 冷たい風が窓を吹き抜け、夕暮れの赤い光が、部屋に残った衛兵の血を濁して輝いた。


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