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贄の王  作者: 糸音
第二章 10年後の世界と贄の村

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衛兵隊、強襲

 

「衛兵隊?! なんでこんなところに……」




 その報告で一気に周囲に動揺が走った。

 皆が一様に慌てふためくが、セオだけは衛兵隊が来ることの何がまずいのか、未だにピント来ていない。


「……でも、僕たちここに村を作って過ごそうとしているだけじゃん。何かまずいことでもあるの?」

「大ありだ! 解放されたとはいえ元贄だ! 贄たちが安全に過ごせる場所なんか、上の奴らが認めるわけないだろ⁉」

「あ——」


 その言葉で、まだ自分から元中流の思考が抜けきっていないことを思い知らされ、一瞬だけ頭が白く染まった。

 ギブが反乱を成功させて以来、下流や中流のクーデターが度々起こるようになった。ギブの事件以後の世界は反乱なんて起こさせぬよう、下流の人間の管理はより厳しいものへとなっていった。


 そんな中、偶々難を逃れた贄たちが安全に暮らしている場所なんてあってはならない。

 安全を約束される場所があっては、贄たちが一か八かで儀式の乗っ取りや中断を行い、脱走する危険性だって高まるのだ。




「定期的に兵をよこして、逃げたやつらを狩っているんだよ。もう一度捕まえて贄にするために……!」




 そもそも下流の贄が足りなければ中流の者だって贄にされる可能性がある。自分たちの生活を守るために、衛兵たちは逃げた贄たちを許しはしない。

 事の重大性を理解したセオの、鼓動が加速度的に速くなった。


「ギブさんを呼ぼう! あの人に衛兵たちをやっつけてもらえば……」

「——っ! 皆、物陰に隠れて!」


 言葉を遮って、セオが皆を近くにある建物の中に誘導した。

 窓の陰から少しだけ顔を出すと、村人が来た方向とは反対方向に、別の衛兵たちの姿が見えた。どうやら二手に分かれて捜索を行っていたらしい。


「どうする?! こっちに来てるぞ?!」


 森の真ん中に不自然に建物なんか立っているもんだから、そりゃあくるだろう。

 薪や工作の跡もあるから、近くに誰かがいるのはすぐにばれる。

 衛兵たちの手には、ライフルのような銃がある。対してこちらはほぼ丸腰だ。




「……戦おう」




 集落を見つけ、周囲を警戒しながら衛兵たちが近づいてきた。

 もう逃げることは叶わない。選べるのは交戦か降伏かのどちらかだ。

 セオの提案に、村人の一人が首を振った。


「ダメだ! あいつら銃を持ってるんだぞ?! 丸腰で敵うわけないだろ?!」

「でも、ここで戦わなきゃ、どこへ行ったって僕らは贄じゃないか!」


 セオの言葉に、周囲の村人たちが口をつぐんだ。

 とはいえ、セオも村人たちの不安は分かる。

 衛兵の総数は20名ほど。こちらの頭数とほぼ一緒だ。

 武器の差があるから、まともにぶつかり合えば制圧されるのは目に見えている。


 どう戦えばいいか、自分でも正解は分からない。だが、何もしないわけにはいかない以上、選択はしなければならない。

 呆然と自分を見つめてくる村人たちに、セオは自分の心臓の震えを落ち着かせながら、震えが収まらない声で続けた。


「……時間を稼ごう。ギブが来るまで耐えるんだ。表に出れば銃の餌食。だから建物の中で不意打ちを仕掛けて、先頭で入ってきた奴らを襲って人質にして籠城しよう」

「……銃を持ってる奴らを襲うのか?」

「あのタイプの銃は連射式じゃない。発砲はされるかもしれないけど一人で制圧はできないはずだ。それに、向こうだってできる限り僕らを贄にしたいはず。すぐに殺しはしない、はず……」


 正直後半は皆の戦意を削がないためのでまかせだ。向こうが撃ってしまえば、死者が出るかもしれない。

 それでも、口にすれば皆の戦意を折ってしまう。

 言葉尻が恐怖と罪悪感で濁ってしまったが、今自分に思いつく最善だ。


 セオが提案を終える頃には、すでに衛兵たちが辺りの建物の捜索を開始し始めた。

 村の中央に数名残して辺りを見張らせ、3~4人で分かれた部隊が、銃を構えながら建物の捜索をし始める。


「もう時間がない。やるよ。2階に移動しよう。立てこもるならそこだ。昇ってきた奴らをのして、階段を塞ぐ。人質を盾に籠城だ。いいね?!」


 セオの提案に皆頷き切らなかったが、こっちに衛兵が来る気配がして、とりあえず2階には移動した。

 1階を捜索する物音に皆の緊張が高まった。


 セオは比較的ガタイの大きい男たちを順番に指で示した。

 突入してきた奴らに最初に不意打ちを仕掛ける者たちだ。


「……他の人たちは、倒れた衛兵から銃を奪うのと、身柄を拘束する役。敵は3人。数の利はこっちだ。皆で襲えば、奇襲は成功する」


 皆の決意を固めようと必死に作戦を整理し、作戦の実行を促した。

 半面、自分もやらなきゃいけないことは理解していたが、人を襲う覚悟が決まりきっているわけじゃない。


 セオはギブから渡された剣を構えた。


 息が荒い。

 嫌な汗が噴き出てくる。

 鼓動が今までにない大きな音を立てている。

 

 一方で、握った剣は命を吸い取ってくるかのように冷たく感じた。

 今からこの剣を衛兵に振り下ろす。

 殺してしまえば人質にならないから、切りかかるなら、腕か、足。


 自分が降り下ろした剣で血が飛び散るさまを想像し、胃の中がひっくり返りそうになる。

 湧き出てくるゲロを手で押さえて、覚悟と一緒に飲み込んだ。


 階段を上る音がした。


 一歩一歩、死の音が自分たちに迫ってくる。


 皆息を殺して身を潜めた。

 階段の出口の死角に身を潜め、上ってくる瞬間を襲う。


 ——いくよ。


 セオが皆に覚悟を決めろと視線で合図を送った。皆頷きはしなかった。

 セオが入り口に視線を落とす一方で、村人の一人が、周囲の者に弱弱しい視線を投げた。

 下から衛兵が顔を出し、セオが剣で襲い掛かろうとしたとき——


「降伏します‼」

「——っ?!」


 セオ以外の全員がその場で膝を折り、両手を上げて降伏の意を示した。

 一人襲い掛かったセオは突然の降伏に反射的に足を止めてしまい、そのまま剣を叩き落され、腹を蹴られて地に伏した。


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