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贄の王  作者: 糸音
第二章 10年後の世界と贄の村

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自分のことは自分で

 

 その日の晩、ギブとセオは自分たちの作った家で過ごすことにした。

 村人たちからは一緒に食事を摂らないか誘われたが、ギブが「能力使って疲れちまった」と断った。

 戸の無い窓から村人たちを見下ろし、周辺で採取した木の実を食べながらセオが話しかけた。


「衣と住はなんとかなったけどさ、課題は食料だよね」

「どゆこと?」


 首をかしげるギブにセオが続ける。


「近くに川が流れていたから水は何とかなるけどさ。食べ物は木の実の採取だけじゃ限界があるし、栄養も偏る」

「確かに。肉を食わなきゃ力でねえもんな」

「狩猟もいいけど、やっぱ農業はすべきだよ。芋類とか、野菜とか。農耕に適した植物見つけて、畑を作って安定した供給減を確保すべきだ。ねえギブ。鍬とか土を耕す道具作れない?」 

「土なら俺の能力で耕してもいいぜ」

「少しはあの人たちにも何かさせようよ。道具だけ作って、後は自分たちでやらせるんだ」


 喜んでもらえるのは嬉しいが、都合よくつかわれた気になるのも、それはそれで面白くない。

 セオの気持ちを汲みつつも、ギブはその場で小さく上を見上げてから語り出した。


「……俺さ、ツルハシで魔人ぶっ殺したことがあんだよね」


 急に話題が変わり、セオが目を丸めた。


「俺はまだあいつらに、クワとか渡したくねえなあ」

「あ……」


 ギブの発言にセオが盲点を突かれた表情になった。

 自分たちを歓迎してくれてるとはいえ、まだあったばかりの知らない人間。その心の底は分からない。

 歓迎したふりをして近づき、隙を伺って襲ってくるかもしれない。

 クワや鋸など、農具や工具を渡せば村はさらに発展するかもしれないが、それらの道具は武器にもなり得る。完全に信頼できない相手に、そういったものを渡すべきではない。


 意図を察したセオが、しゅんと肩を落として誤った。


「……ごめん」

「謝るこたあねえのよ。だけど、ここにずっといたい?」

「……うーん、それは」

「わからないよな。俺もそう」


 セオが悩むのを見て、ギブがガハハと豪快に笑った。

 村の中央の広間で、薪を囲み食事を摂る村人たちの様子を見下ろしながら続ける。


「セオの言う通り、俺たちがここにずっといないなら、あいつらのためにも、自分のことは自分でさせねえとな!」


 今思えば、世界でも随一の強国を滅ぼしてしまえるような魔人が、少し能力を使ったくらいで疲れるはずはない。「疲れた」というのも一緒の食事を断るための口実か。

 ギブは明るく振舞うし、人を助けることには抵抗はないが、自分と他人との距離に関しては慎重だ。


 付き合いはまだ短いが、自分が傍にいることを許されているのはある程度の信頼を得ているからなのだろう。

 そのことは嬉しいが、同時に不安もある。


「別に、俺はお前に魔人やっつけろなんて言わないからな」


 少し暗くなった表情を見て、ギブが不意に語り掛けてきた。

 ギブの求める『自分のことは自分で』とは何か。悩んでいたところに釘を刺され、思わずビクッと体が震える。


「でも、自分で言うのもなんだけどさ、今の僕じゃギブの力がないと生きていけないよ?」

「んー。でも不思議と重荷には感じねえんだよなあ」


 どうやらギブも自分の気持ちを完全に言語化はできていないらしい。

 セオの問いに「うーん」と大きく顎を捻るも、すぐに開き直った。


「ま、安心しろよ。邪魔だと思ったら捨ててくからさ」

「それは僕が安心できないんだけど?!」


 セオが突っ込むも、ギブはいつもの通りガハハと笑って軽く流した。

 信頼されている安心に、若干の不安が混じってもやもやとするが、悪く思われていないのだけは確かだ。

 村人たちが焚火を消して就寝の準備に入ろうとしたので、セオもギブが作ったベッドの上で、自分のマントにくるまった。


 セオの就寝を見届けた後、ギブは値踏みをするように、窓から村の景色を一瞥した。


 ~~~~~~~~~~~~


 それからしばらくは村にとどまり、村人たちが生活の基盤を整えていく様子を、ほどほどに手伝いながら見守った。

 森の中で自生していた食べれる根菜類を見つけ、ギブが土を柔らかくして作った畑に植えなおす。種の収穫ができれば、上手く育られるかもしれない。

 畑ができるまでは森で食べれそうな木の実やキノコを採集、野生動物や川魚の狩猟をして食料を確保することになる。


「俺は細けえ道具とか作るのは苦手だかんな。狩猟道具とか作るなら、お前らで作ってくれよな?」


 ギブは適当な口実をつけて、村人が過度に頼ってくるのを断っていた。

 剣や家具が作れるのだから、そういった道具なんかも作れはするのだろうが、そんな疑問をセオは心の中にしまっておく。

 ギブが動かない分、道具の作成指導、狩猟のための罠の設計などは、セオが中心になって動いた。自分のことは自分で、というのはセオ自身にも跳ね返ってくる言葉だった。


「何作ってんの?」

(うけ)って呼ばれる道具。川魚の漁で使うんだ」


 セオがギブが加工した木材を編んで、籠状の道具を作っている。

 入り口が漏斗状になっている籠は、入りやすく出にくい構造で、中に餌を仕込んで入ってきた魚をそのままとらえる仕組みだ。

 ギブにその仕組みを説明すると、「すげー」と感心して唸った。


「そういうのどこで知るの?」

「主に本だね。見よう見まねで作ったから、うまくいくか分からないけど……」


 思っていたよりも不格好に仕上がった筌を見て、セオが不服そうに目を細めたが、ギブは出来上がった籠を手に取り、まじまじと見つめてからセオに尋ねた。


「早速設置してきていい? ホントに捕まるか試してみてえ」


 セオが頷くと、ギブは「やりい!」と他の村人たちが作った筌を抱えて、川の方へと走っていった。見たことない道具に好奇心がうずいたようだ。


「ああいうところはガキっぽいんだよなあ……」


 一見するとほほえましい様だが、ギブのそれは大人になる機会を奪われた弊害によるものだろうから、なんとなく複雑な気持ちになってしまう。


 とはいえ、下手な同情はギブはされたくないだろう。憂う暇があるならもっと筌を作って喜ばせたほうが良い。


 帰ってくる前に次の仕掛けを作ろうかと、腕を回したとき、


「皆‼ 大変だ‼」


 木の実の採取に出かけていた村人が、切羽詰まった様子で帰ってきて、村人たちに向かって叫んだ。


「森に衛兵隊が来ている‼ 見つかったらただじゃすまないぞ‼」


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