贄の村
「村ぁ? 村って言うと、家とか人がいっぱい集まってるっていうあれだろ? そんな立派なもんかあれ」
木の陰から、セオが示した集団をギブが眺めると、顎に手を当てながら小さく首を傾けた。
背の高い木々が立ち並び、草木が茂る森の中に開けた空間が広がっている。
そこだけ地面が固く草木が生えなかったのか、地表が露になった地面の上に、使えそうな木をボロい縄で括って作ったテントがいくつか存在している。
テントの屋根も大きいはっぱを重ねただけの粗末な屋根で、強い雨風が吹けば壊れてしまうような粗末なつくりだ。
その粗末なテントの下で体を休めているのは、同じ作業服のような衣類を着た者たちだ。年代は20代~40代とそこそこ広く、中には手錠に両手をつながれたまま生活している者たちもいる。
「ギブ。多分あの人たち、元『贄』だ」
セオの言葉に、「だろーね」とギブも頷いた。
「どーする? 話しかけてみる?」
ギブが問いかけると、セオは視線を元贄の集団に合わせながら考えこんだ。
元贄ということはギブや自分の敵ではないだろうが、わざわざ接触したところで何になるかという話だ。
別に人間不信というわけではないのだが、昨日の今日家族に捨てられ、国から贄にされたセオにとって、他の人間に接触するのは少し抵抗がある。
迷うセオの様子を見て、「とりあえず渡しておくか」とギブが自分の左腕に手を当てた。
触れた箇所の皮膚が右手の中に集まっていき、鋼鉄の皮膚が小さな剣となって、ギブの手の中に納まった。剥げた皮膚は剣が出来上がるころには再生していた。
「危ない気配があったら剣を構えな。襲われそうになったら迷わずぶち殺せ」
ギブが剣の持ち手を差し出しながら告げると、セオは委縮したように表情を強張らせた。
剣の持ち手に触れると冷たい氷に触れた感覚がした。剣の重量は軽く、子どものセオでも満足に振り回せる重量なのだが、持った手が急激に重くなる感覚がした。
「……僕、剣なんて握ったことないよ」
「既にへっぴり腰だしな」
「もし接触するとして、僕あの人たちと戦う気なんてないんだけど……」
剣を一瞥してから、セオは森の中で過ごす人たちの方へ目を向けた。
彼らは体格は自分より大きいものの、体はやせ細っており満足に食事を摂れていない状態だ。中には地面に横たわりせき込んでいる者もいる。
自分一人が集団で襲われればたまらないが、自分の側には最強の魔人が控えている。
そんなことは起こらないだろうが万が一の場合はある。
襲われたときにはきっとギブが守ってはくれるのだろう。
だけど、ギブを当てにするのは嫌だし、そういう関係になってしまうのも嫌だ。
しかし、自分が戦う必要が出たときに、自分が誰かを傷つけるということを今まで想像したことがなかった。
「こっちがそうでも、向こうは分かんねえ。『話し合い』をするために剣を突きつける必要があるかもしんねえぞ?」
「……」
彼らと接触するかどうか、というセオの迷いはいつの間にか、この剣をいざというときにどう使えばいいのか、という迷いに変わっていた。
戸惑った様子で剣の刃に反射する自分の顔を見つめるセオに、ギブが告げる。
「別に、俺もその方法が正しいとは思わねえよ」
青い顔をするセオの肩に、ギブが優しく手を置いた。
「だけどな。何かがあったときに、戦う準備とやり返す覚悟をもっておけば、理不尽からは守られる」
ギブがいつもの軽い口調から、少しだけ諭すような声色になった。
表情の見えないギブが、珍しく表に出した感情の変化に、セオは少しだけ目を見開いた。
「で、どうする? あいつらに話しかけてみるかどうか——」
「おい、あそこ、魔人だ?! 魔人がいるぞ?!」
見て見ぬふりをするかどうか尋ねた矢先、男がギブを指さして叫んだ。
「見つかっちゃったかー。つーか見つかるわな。この図体じゃ」
結局先に見つかってしまい、ギブはケロッと頭を掻いた。
引くか、接触するか。向こうは全員身を引いて、一応の臨戦態勢をとっている。
形だけ剣を構えるセオの肩に手を置いてから、ギブは両手を上げながら、
「どーもー。平和主義者の魔人ダヨー」
とおどけながら歩き出した。




