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贄の王  作者: 糸音
第二章 10年後の世界と贄の村

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22/54

向かう方向は

 

 セオがいた国と反対方向に歩き続け、日が暮れ始めた頃だ。

 歩き始めて4時間も経っている。セオがギブアップとは言わんばかりにその場で重い息を吐きながら、小さく屈んだ。


「おぶってやろうか?」

「いい。自分の足で歩く」

「いいねえ。体力はねえけど根性はあんじゃん。ほれ、がんばれがんばれ~」

「あーもう! うざいなその仕草!」


 ギブが目の前で煽るように目線を合わせて手を叩くと、セオも意固地になって、重い足をヤケクソになりながら前へ動かした。


「ていうか、4時間も歩けば常人は疲れんの! 魔人のギブには分からないかもしれないけど!」

「魔人になる前も、この程度は余裕だったぜ? 重さ200㎏ぐらいの鉱石の籠もって1日ぐらいは動けたね」

「その話絶対盛ってるだろ……そんな化け物みたいな人間いるかよ……」

「いたんだなあ、ここに」


 恐らくギブは見栄を張るような嘘をつくタイプではないだろうから、ほんとのことではあるのだろう。

 嘘かホントかはともかく、意固地になる自分を見て面白がる様は何となく憎たらしい。


 日が完全に沈んだ頃、とある森の入り口付近に辿り着いた。

 うっそうと茂る森の中を、暗い中歩くのは良くないと思ったため、今日はこの辺りで野営をすることにした。


 棒切れのように感じる足を労わりながら、地面に腰を置いて一息つく。

 ここまで動けば腹も減る。

 衛兵の物資から拝借した携帯食料をかじりながら、セオが尋ねた。


「ギブは何か食べないの?」


 今思えば、道中水も飲んでいない。

 歩くので必死で、今更ながらに湧いてきた疑問にギブが返す。


「魔人になってから腹減らねえんだよね。喉も乾かねえ」

「食べなくても平気ってこと?」

「そんなとこ」


 動く口をよく見てみると、隙間から見える舌は磨かれた鉄のように表面がのっぺりとしている。おそらく味も感じないのかもしれない。

 本人は食べなくても平気というが、それを『平気』といっていい状態なのかは疑問だ。

 干し肉に乾パンという質素な食事でも、腹が減ったときに食えばしっかり美味い。


 日が完全に沈んだ影響で、夜風が冷たい。

 急に吹いた風にセオがくしゃみをすると、ギブが「火でも起こすか」と、一瞬のうちに周辺にある木の枝を集めてきた。


 セオが鞄の中からライターを取り出し、火をつける。

 息を吹いて火を大きくしているセオに、ギブが尋ねた。


「俺たち今どこに向かってるの?」

「とりあえず、門があまり出現しない方向」


 ある程度火が大きくなり、「よし」とセオが頷くと、余った枝を使って、地面に地図を描き出した。


「僕たちが出会った場所がこの辺り。この周辺の地域は、門が良く発生していて、門をめぐっての戦争や、国同士の小競り合いが良く起こる」

「どうりで10年間戦いっぱなしだと思ったぜ」


 その説明を聞いて、ギブがげんなりと口を開けて空を見上げた。


「ギブがそういう奴らをぶっ飛ばしたいなら、引き返すけど」

「いや、流石に疲れてきたところだしな。場所チェンするのはアリだ」


 感心してギブがうんうんと頷いた。


「この森を横断する形で進むことになる。明日に備えて今日は寝よう。火の番、どっちが先にする?」

「あー、いいよ。俺眠くならねんだ。ぐっすり寝とけ」

「もしかして、10年間寝てないの?」

「おう。多分100年先も寝ないなこりゃ」


 不老不死、というのは存外羨ましいものでもなさそうだ。


「……寝るふりだけでもしたら?」

「意味のねえことはしねえ主義なの。さっさと寝ろ。明日ぶっ倒れたらトラウマになるほどいじってやるからな~」

「……おやすみ」


 自分だけ眠ることに後ろめたさはあったが、ギブに煽られて、まずは自分の心配からだと悟ったセオは、マントを上から被るようにして眠りについた。

 短い草の上に直に眠る形だったが、疲れているからか不思議とすぐに眠りについた。


「……」


 ギブはセオが寝るのを見届けた後、呆然と薪に木の枝をくべながら、パチパチとはじける火を眺めていた。

 魔人になってから夜でも昼でも問題なく辺りが見える。

 それでも火って明るいんだなあ、と改めて思い、手をかざすが熱は感じない。

 火の明かりとセオの静かな寝息に浸りながら、朝まで火の番を続けるのだった。




 そして、翌日。


「ねえギブ」

「どうした?」

「村がある」


 森の中を歩く途中、開けた場所に集落のようなものがあると気づき、セオがその方向を指さした。

 木の陰から様子を除くと、作業着のような服に身を包んだ、およそ20名くらいの集団が、簡素な小屋を建てて暮らしている様子がうかがえた。


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