セオ
「はいはい! 皆手錠を外してやるから順番に並んだ並んだ! 俺が自由をプレゼントしてやるぜ~」
贄たちを運ぶ軍隊を壊滅させた後、ギブは贄たちを檻の中から解放し、その身を縛る錠前に手で触れて、贄たちを開放していく。
「あの……この後私たちはどうすれば……」
「ん? んー……好きにすれば?」
解放した者たちに尋ねられ、ギブは少しだけ考え込んでから、考えるのをやめて開き直ったように返した。結局いい案が思い浮かばなかったのである。
解放した者たちは何やら話し込んだ後、結局自分たちの国があった方に歩いていく。
「たっしゃで暮らせよ~」
元の場所へと戻っていく者たちを、ギブは手を振って見送った。
見送った後で、彼らのことを思って小さくため息を吐いた。
そっちに行かせてよかったのだろうか。
彼らを贄と扱っていた国の方に。
一回だけこのように問い返したことがあるが、じゃあどこに行けばいいのか聞かれて、ギブは答えることができなかった。
それ以降、ギブは贄を開放するが、どこに行くかは彼らに投げる形をとっている。
「贄を開放するのはいいけど、この先どうしたらいいかわかんねえなー」
向かった先では、もう贄として過ごすことはない。……なんてことはないだろう。
他に行き場がないのだろうが、知っている方向へ帰ったところで、元の現実に戻るだけだ。
結局、自分のやっていることに意味はあるのだろうか。
心に渦巻く疑問をこぼしていると、彼らにはついていかず、その場で呆然と佇んでいる、橙色の髪の少年が目に入った。
セミショートの髪がなびく横顔。橙色の瞳が去っていく者たちを拒絶するように、蔑みと憂いを帯びている。
背丈も顔つきもまだ幼いが、大人の雰囲気を纏ったその少年が、なんとなくギブの気にかかった。
「お前はあいつらと一緒に行かねえの?」
ギブが尋ねると、「馬鹿言うなよ」と少年は素っ気なく返した。
「あっちに行ったって、あるのは僕を贄にした国だろ。向こうに行くのだけはありえない」
その回答に、ギブは素直に感心して「ふーん」と息を漏らした。
「じゃあ、お前はどこに向かうの?」
「……わかんない」
「そっか。じゃあ俺と一緒だな!」
今度の問いには、ばつが悪そうに俯いた。
結局のところ、行く当てはないのだろう。だからこそ動けずに立ち止まっている。
そんな様子の少年を見て、ギブはおどけて笑って見せた。
馬鹿にされてるのか同情されているのか、判別に困って眉を寄せる少年にギブが提案する。
「お前さえよければ、俺についてくる?」
「……え?」
思いがけない提案に、少年が目を丸めて呆けた声を漏らした。
暫く少年は悩んだ後、自分を見下ろしてくる魔人を上目で見ながら遠慮がちに尋ねた。
「……いいの?」
「俺はお前に、『いいのか?』って聞いたんだぜ?」
目の前の魔人には目も眉も鼻もない。表情が読めないから何を考えているかは、白い歯が見えっぱなしの大きな口の動きと声色で判断するしかない。
この化け物について行っていいのか。
人間としての本能が警戒アラートを出すものの、ふざけるようで人を気遣う魔人の声色に、なぜか安心感を覚えた少年は、覚悟を決めて力強く頷いた。
「オーケー。そんじゃ、良い感じの場所を探しに行くか! 俺はギブ。お前は?」
「僕は、セオ」
「セオ、か。お前も名前持ってんのな! セオ。とりあえずどっち行く?」
ギブに尋ねられ、セオは自分の国と反対方向を指さした。
とりあえず、来た場所からは遠ざかろうと思ったのだろう。
示された地平を眺めてから、ギブは「よし!」と上機嫌になって歩き出した。
なんだかんだで、ギブという名前を貰ってから10年。
自分の名前を名乗るのも、人の名前を呼ぶのも初めてだった。




