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贄の王  作者: 糸音
第一章 贄と魔人の門

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17/51

今、『自分』は何なのか

 少年は商人を殺した後、蟻のように散らばる衛兵や中流のものたちの中から、1人の人物を見つけ出し、その前に立ちはだかった。


 「金返せ」


 見下ろされながら手のひらを差し出されたオーナーは、その声で魔人の正体に気がつき、ガタガタ震え上がった。

 オーナーは腰に下げていた鍵の束を放り出すと、情けない悲鳴を上げながら一目散に逃げ出した。


 鍵を拾い上げて向かったのは、自分が育った6番収容所だ。

 収容所にたどり着くと、少年のことを上流の者だと勘違いした職員が、姿勢をただして頭を下げたが、


 「13番ダヨ!」


 とおどけると、声と態度で何かを察したのか、皆泡食った様子で逃げ出した。

 施設に残っていたのは、職員と、新しい子供を産むための下流の女たちだ。

 皆が地上へのエレベーターへ、場所を奪い合うように乗り込んで消えていく。


  「13番ダヨー……」


 自分を背に逃げる背中に、何となくむなしさを覚えてから、オーナーの部屋を漁った。

 壁に埋め込まれた金庫を鍵で開けようとしたが、どの鍵かわからなかったので、金庫の扉を力任せに剥いで中身を調べた。

 大量の紙幣といくつかの宝石が詰まっていた。多分だけど、1億には足りない。


 とりあえず詰めるだけ詰めた。自分が今まで稼いだ分よりは少ないはずだから、数えなくても良いだろうと思った。




 「……掃除すっか」


 小さくため息を吐いてから、おっちゃんの遺言通りに部屋を掃除することにした。

 部屋を今まで通りに、ホウキではわいて綺麗にしていく。

 両手で持っていたホウキは、今の自分にとっては手ぼうきだった。

 腰を屈めないと地面がはわけない。



 清掃をしながら少年は考えた。



 1億貯めても中流になれなかったんだから、魔人になったところで上流になれないのは、何となく納得している。

 でもさぁ、逃げていったやつらの反応からすると、もう下流のままでもないらしいよ。

 儀式を乗っ取って、魔人になって。何を手にしたんだろう。

 俺は今、何になったんだろう。


 最強の能力に無敵の体。別に欲しかった訳じゃない。

 全部を失わないように、流れで手にしてしまっただけだ。

 望んではない方向に進んで何かを手にした。だけどその何かがわからない。


 空を掴んで、何かを掴んだと思って手を開けば、空っぽの手のひらを見つめるのを繰り返す。

 心の中でそんな風景ばかりが浮かんで来て、体は重くなるのに、重心がどこにあるのかわからない。


 そんなとき、おっちゃんの寝床の付近を清掃していたときだった。

 切った紙を紐で括って、ノートにしたものが置いてあった。




 ――少年へ。




 そう表紙にかかれたノートが視界に移り、少年は反射的にそのノートを両手で手に取った。


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