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贄の王  作者: 糸音
第一章 贄と魔人の門

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世界へ殴り返して

 

「こんなの……どうやって戦えば……?!」

「遠距離の攻撃に専念しろ‼ 触れなければどうということはない‼」


 戦意を失う魔人達に、王が奮起させるよう呼びかける。

 何とか戦意を取り戻し、少年たちから魔人達は距離を取る。


「……何にも触れさすなってのは無茶な話だよなぁ」


 それを見て少年は静かに地面に向かって手を置いた。

 それを見ていた全員が、狙いがわからず一瞬の思考が固まったが、その手のひらと自分が同じく地面に立っていることに気がつき、狙いを理解した者達がそれを阻止しようと一斉に襲いかかった。


「遅えよ」


 しかし、少年に届く前に、地面が隆起して生まれた無数の刺に全員体が貫かれた。

 辺りに魔人の黒い血が飛び散り、太い棘に貫かれて上下に分断された死体が散らばった。


「……」


 一気に静かになった戦場を、少年はゆっくりと一瞥した。

 魔人も、衛兵も、全員が物言わぬ死体となった戦場で、刺の間を塗って少年に迫る影があった。


 「貴様ぁ‼」


 その影は少年の両腕を、肥大化した手の鋭利な爪で引き裂いた。

 小さく揺れた少年の顔をそのまま手でわしづかみ、地面に向かって叩きつける。

 そして、その手のひらから大きな雷のエネルギーを放出し、辺り一帯が白い光に包まれた。


 「貴様‼ 何ものだ?! 倅に何をした?! どうやってその力を手に入れた?!」


 影の正体は王だった。

 元々顔の上半分以外は魔人化していた人間だ。その肉体も他の魔人と比べて強く、攻撃に対して反応が間に合ったのだろう。

 怒りに身を任せ問いながらも、そのまま殺さんとばかりに少年の顔を地面に押し付ける。  



 死ね。死ね。このまま潰れて、感電して死ね。


 殺意の電撃を放つ右手に、少年の体が大きく揺れるも、


 「……一辺に答えられねえから1つずついくぜ?」

 「何を……ぐあぁ?!」


 いつの間にか再生した少年の腕が、顔を抑えていた手を小さくねじって根元から引きちぎった。

 ボタボタと黒い血を流し、傷口を押さえて踞る王を見下ろしながら、少年は答えた。


 「俺は6番収容所の13番。名前は無え。てめーのキンパツ君は贄にした。クレバーなおっちゃんの作戦で儀式を乗っ取って魔人になったってわけ」

 「13番……?! 貴様、贄か⁉ 贄ごときがこんな真似をして、どうなるか――」

 「どうなんの?」


 割り込む形で問いかけられ、王は声を詰まらせた。

 周囲には、今まで贄を力で押さえつけていた者達の死体が転がっている。その死体の山を築き上げたのは目の前の贄だ。

 今この瞬間だけは、身分というルールは何も機能しない。

 今機能しているのは、強者が弱者を踏みにじる、ただそれだけの自然の摂理だ。


 「1つ聞いていい? 今俺は魔人になったけど、俺は上流? それとも下流?」

 「……! 下流だ! それ以外に何がある⁉」

 「だよなぁ。やっぱり俺は俺のままだ。それ聞いて安心したよ」


 少年は残っていた左手を開くと、そこにはバチバチと鋭い光を放つ、圧縮された雷が存在していた。




 「今やったこと全部、下流を代表しての復讐だ」




 怒りと絶望で滲んだ顔に、雷のエネルギーが放出された。

 開放された雷は白く世界を包み込み、一瞬遅れてゴロゴロと低い音が辺り一帯に響いていく。

 王の体は黒い炭となって消えた。

 それを遠くから見ていた中流のものたちは、少年の視線が自分達へ向くのを見て、一目散に逃げ出した。


 少年はその背中を一別しながら、とある人影を探す。


 そして、




 「ねえ」

 「ひぃぃぃぃ?!」




 少年が行く手を遮ったのは、あの時おっちゃんに毒を売った商人だ。


 「6番収容所で、楽に死ねる毒を売った相手のことおぼえてる?」

 「ら、楽に死ねる……? あ、は、はい!」


 コクリコクリと壊れた人形のように頷く商人に、少年は冷たい声で尋ねた。






 「あれ飲んだおっちゃん。すげえ苦しそうに死んだんだけど。……あれ何」

 「え? ……あ」


 一瞬の疑問符の後、小さく漏らした呆けた声に何かを察した少年が、商人の頭に手を添えた。

 あらゆるものの形を踏みにじる魔人の手。発言を間違えれば殺される。


 しかし、商人はもう、魔人の地雷を踏んでしまった。


「……だって、だってぇ!」


 死を察した商人が、やけくそになりながら叫んだ。


「どうせ死ぬじゃないですかぁ‼」

「……‼」


 発言と同時に、少年が商人の頭を握りつぶす。

 頭部を失った体が、仰向けに倒れると、それを見ていた周囲の人間は再び蟻のように散らばって逃走を始めた。


 皆殺しにしようと思ったが、意味がないから止めた。


 辺りに誰もいなくなった頃、血に塗れた拳深く見つめて、




 「とりあえず、おっちゃんの――みんなの分、殴り返しといたぜ」


 思い出の中にしかいなくなった、よくパーを出したおっちゃんに見せつけるように、負けた拳を天に突き上げた。


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